最辺境⑰
小屋の中の片付けをしながら、逃走先に対して相談する。
瘴気に侵されている方面に逃げるのは論外。教団の連中に見つかる可能性は減るが、俺以外のメンバーの体に影響が出る可能性がある。
瘴気獣が出現している状況を考えたら汚染区域から離れるような方向へ逃走するのが正解だろう。だが、そちら側は森の密度が薄くなっていく。遠距離からでも発見されるリスクが上がるのが望ましくない。
結果として俺達は小屋からさして離れていない場所に潜むことにした。
俺達がいる森はそれなりの広さがある。その地形も完全に平坦になっているわけではなく、大きく落ちくぼんでいたり、逆に小山になっている場所もあった。
俺達のいた小屋の近隣にも小山があり、俺達はそこに隠れる事にした。
高い所に行くと発見されやすくなるのでは? と思うかもしれないがその小山は青々と茂る木々に包まれており、注意して移動すればそうそう遠方から見つけられるものではない。更に隠れる場所を定めてしまえば後は俺の力を使ってカモフラージュできる。そうすればもうその場にでも来ない限り見つからないだろう。
それに襲われる場合、俺の能力を考えると上から襲撃されるより下から来るのを迎撃する方が対処しやすいしな。例えば上ってくる途中にヌベタを大量に生やせばぬるぬる坂の出来上がり。そう簡単には上ってこれなくなる。
何よりその位置からなら周囲の状況を把握しやすい。教団の人間が接近している場合その姿を発見しやすいし、望遠鏡もあるから瘴気獣の状況も確認できる。状況がわかればそれに応じて対処もしやすいということでその場所に退避先が決定した。それぞれが荷物を抱え、悩んだ結果連れていく事に決めた馬にも荷物を載せて俺達は森の中の移動を開始した。
その途中の事。風が木々を揺らす音や虫や鳥達の鳴き声しか聞こえなかった静かな森の中に、ほんのわずかだが異質な音が聞こえた。周りを見れば他のメンバーもある方向を見ていた。同じ音が聞こえたらしい。
「今の音は……」
「はっきりとはわからないけど……木が折れる音かしら」
俺の疑問に答えてくれたのはユマだった。ただ彼女も自信がないようだ。小さな、というか非常に遠くに感じる音だったからな。
ただそのユマの予想があっていた場合、それを引き起こしている要因は──
「瘴気獣が森の木々をなぎ倒しているのか……?」
ノインさんが口にした通り、今の状況下で考えられるとしたら瘴気獣くらいしか考えられない。ただこちらまで聞こえてくるような勢いで木をなぎ倒すとなると……俺がザルツベック大空洞で倒したのは幼体のように小さかったし、アリステラさんが倒したのも熊位のサイズだった。だが、これは……それよりも更に大きいのは間違いないのじゃないか?
「……大丈夫かな、アリステラさん」
「……アリステラ様が得意とするのは速度型なので抑えきれるかは少々不安が残りますわね……戦闘能力はお高い方ですので敗れる事はないですわ」
俺の呟きを拾ったリズがそう教えてくれる。
「最悪ある程度時間を稼げば増援が駆けつけるハズですので、何とかなるとは思います」
「……うん」
そっか。この広い辺境域で"対抗手段"がアリステラさんだけってことはないか。それに俺達の護衛役として他にも召喚者がこの近くまで来ているハズ。最悪この森を突破されても人が住む領域に対処できればという感じか。
何にしろアリステラさんは大丈夫だということで一つ安心する。リズの感じからして気休めではなさそうだし。
「目的地はあと少し。急ごう」
事前に身を潜める場所は選定してある。すでに俺達は小山の麓までたどり着いているのでノインさんの言う通り距離は後少しだ。俺達は止めていた足を再び動かし、山登りを開始した。
──そして、
「……なんだよ、アレ」
目的地についてから音のする方を確認した俺達は、目を疑う光景を目にすることになる。




