最辺境⑭
「立場?」
「ヒビキ嬢のように国の庇護を離れるケースもあるが、基本的に我々召喚者は優遇されているのは理解しているだろう?」
アリステラさんの言葉に頷く。俺自身だってたとえ戦えなかったとしても国に残っていれば貴族の後見がついていただろうし、そうすればそれなりに贅沢な生活はできていただろう。鬱陶しいことにはなっていたかもしれないが……
「瘴気への対抗手段が見つかったことで、その特権が失われる事を恐れたのだろうな」
「はぁ!? 先走り過ぎでしょう!?」
俺達は確かに瘴気に対する対抗手段を見つけたが、基本的にはその手段は瘴気の浸食を押しとどめるレベルのものであり、今後それを広げて瘴気に侵されたエリアを削っていくにしてもずっと時間がかかる話だ。決して即座に世界を救うような特効薬ではない。
思わず大きな声でそう口にした俺に対して、アリステラさんがコクリと頷く。
「恐らく具体的な能力の話まではしなかったのだろう。その結果逆に考えすぎて暴走した、というところじゃないかな」
「愚かが過ぎますわね。考えなしに動いた結果、逆に特権を失う事になるのですもの」
リズがあざ笑うような調子でそう口にする。
確かに特権があるとはいえ、さすがに今回の行動は大問題だろうからなぁ。どの程度の罰になるんだろ。
「まあ奴は捕まっているし、その件は今はいいだろう。──リズロッテ嬢、具体的な我々の所在は漏れていないのだよな?」
アリステラさんの問いにリズは頷く。
「具体的な所在自体はこちらに派遣される部隊の指揮役にしか伝わっていなかったそうですので、そこは大丈夫だと思いますわ」
「……じゃあしばらくは大丈夫な感じ?」
ちょっと期待を込めて口にした俺の問いは、ユマが即座に否定してきた。
「具体的じゃなくても瘴気地帯の近くにいるのは知られているなら駄目でしょ~。王国の領土内の瘴気地帯との境界はそれなりの広さがあるけど、境界付近を探索されてあの花園見つかったらこの周辺全体に捜索が入ると思うわぁ」
「確かに。瘴気地帯のど真ん中にある花園なんて明らかに異質だもんな」
「それに、ねぇ」
ユマがノインさんの方に視線を向けると、彼女は頷いて口を開く。
「我々がこっちに向かうのは最寄りの村や街道で覚えている人間がいるだろうし、それにその後も何度か買い出しでそちらに顔をだしているからね。そこから感づかれる可能性がないと言えない」
「成程。となると早めにここを離れるべきなのか?」
「この村自体からは離れた方が良いとは思いますが、問題は移動先ですわね。単純に考えれば、一刻も早く護衛部隊と合流するために王都方面へ向かった方が良いのでしょうけど……」
「二つ問題点があるな。一つはヒビキ嬢やユマ嬢の事がどれほど感づかれているかだが……もしある程度情報を特定した場合、人の多い場所では相手の接近に気づきにくいし戦い自体もむしろ守りづらい」
「もう一つはなんですの?」
「そもそも私が護衛につけない。今の状況下で私が辺境を離れるわけにはいかないのでな」
元々アリステラさんは瘴気獣の発生に備えてこっちにやってきているわけだしな。発生の可能性が非常に高くなっている状況下で交代相手もいないのに離れるわけには確かにいかないだろう。
そのまましばらくの間沈黙が場を支配する。その沈黙を破ったのはやはりアリステラさんだった。
「無難な策としては、この村を離れて辺境の別の場所に移動する事だな。あとは近隣の部隊に、教団関係者の接近を見守って貰えばいい。こんな場所にやってくる連中はそうそういないからな、監視はそう難しくない」
「私達の事を近隣部隊に説明するって事ぉ?」
「いや、その必要はないだろう。教団の連中が何やら辺境で企んでいるって事だけでいい」
……確かに、人がいない辺境なら先ほどの俺達の話じゃないけど人の出入りが分かりやすい。怪しげな連中が侵入した際に連絡を貰えればこちらも対策を取りやすい。それにやはり戦力的に強力なアリステラさんと一緒にいるのはかなり魅力的な話だ。辺境自体はそれほど狭い訳ではない。連中の規模がどれほどのものかわからないけど、余程大人数でもない限りそう簡単にこちらを見つけることはできないだろう。
結局その俺の考えと皆はほぼ同意見だったため、アリステラさんの意見が採用された。せっかく最近この家も住み慣れて来たのにお別れか。まぁ仕方ないけどな。




