最辺境⑨
突然の言葉に俺がきょとんとして首を傾げると、リズからちょっと呆れたような目を向けられた。
だいたい俺に対して甘いリズがこういった視線を向けてくるのって珍しいな。
「お姉様、その反応は流石に危機感がなさ過ぎですわ」
その言葉に、ノインさんも同調してくる。
「ヒビキ、君達が生み出したものはこの世界の殆どの人間が探し求めてるものなんだよ。知られたら様々な人間が狙ってくるのは間違いない」
「でも俺やユマは普通にこれを公開するつもりだよ? なあユマ」
これは最初から話し合っていた事だ。俺とユマ二人だけじゃ技術を見つけてもそれを活用していくには手が足りなさすぎるからな。
俺に視線を向けられたユマはこくんと頷く。だけどそれだけで終わらず、口を開く。
「ある程度情報を広げられれば危険は減ってくるけど、それまではリスクが大きすぎるわねぇ」
ユマの言葉にリズが頷く。
「スールの存在が誰かに気づかれた場合、間違いなく狙われますわ。特に瘴気の浸食が激しい国は自身の国を救うためになんとしてでも貴方達を手に入れようとしてくるでしょうね」
「それに、危機に瀕していない国も動くだろう。その技術を独占できれば、各国に対して非常に優位に立てる」
「ええ……世界全体の危機なのにかよ」
思わずそう口にしてしまったけど、よく考えたら元の世界だって目先の利益の為だけに動く奴なんていくらでもいたからな。異世界だってそれは一緒か。
「まぁでもギルドとかに早々に情報を流しちゃえば良くない?」
そんな俺の言葉に答えたのはユマだった。
「そのギルドの人間が情報を独占しようとする可能性もあるわ。そしてその場合口封じをしようとしてくる可能性もある。欲にまみれた人間は、たまに想像もしないような事をしてくる可能性もあるわよ?」
こっちには高い身分がいる以上、ギルドとか民間人レベルなら無茶をしてくる可能性は低くなるとは思うけど、それでもゼロではないというのは確かにそうだった。
「それと、一番厄介なのがルーベス教団ですわ」
「ルーベス教団?」
確かルーベスって、瘴気の元になっている悪神の名前だったよな。
「ええ、ルーベス神を信仰し、瘴気に侵されてこの世界が滅ぶことを望むキチガイ集団ですわ」
「マジか、そんな連中いるのかよ」
破滅願望は自分達だけで消化してくれよ。
「彼らに関しては、広めた後でも襲撃してくる可能性がありますわ。というか広めた後の方が襲われる可能性が高いかもしれませんわね」
「俺達が生み出したというのは隠し通せば」
「完全に隠し通すのは難しいと思いますわよ。情報封鎖しても、集められる情報からこちらに辿り着く可能性がありますわ」
……成程。例えば俺達が辺境へ向かったとか、ザルツベック大空洞へ向かった情報とかは調べればわかるかもしれない。そこから辿り着かれる可能性もないとはいえないのか。
「うぇぇ……面倒な状況になってきてるんだなぁ」
「ええ。なので少なくとも国家クラスの庇護が必要ですわ。で、その場合お姉様はウチの国に庇護を求める形になると思いますがよろしいでしょうか?」
「それは、うん、そうなると思うよ」
こちらの世界でやってきたのがこの王国だし、物語みたいにひどい目に合わせて追放されたとかではない。ちゃんと当面の生活費も用立てて貰えたし、直接の庇護を求めなかったのは俺自身だった。そうなれば恩の方があるといえるので、頼る国はこの王国なのは問題ない。
「ということであれば、我がアークレイン家がひとまず直接の庇護をするということでよろしいでしょうか? 我が家は王国の筆頭公爵家で強い力を持ちますし、これは身内びいきになってしまうかもしれませんがウチの家族は権力欲が薄い方になると思いますので」
「いいよー? ユマもいいよな?」
「随分あっさりOKだしますわね!?」
「だって貴族相手だったらリズ以上に信頼できる相手いないじゃん?」
王城にいた時のエロい目向けてきた貴族とか論外だし、そもそもあの時面倒みてくれたのが実はリズだったわけで。俺の中でこの場にいる3人以上に信頼できる人間がいない以上、リズの実家に頼るのは当然の答えだろう。
そう答えた俺の言葉にリズはポッと頬を染め、
「それでは、お姉様はアークレイン家に嫁入りして頂けるということで。あ、勿論夫はわたくしになりますので安心してくださいませ! これでお姉様はアークレイン家の人間として完璧に護る事ができますわ!」
「ちょっと何の話!?」
突然でてきたとんでもない話に思わず俺が悲鳴をような声を上げると、リズは口元を抑えてくすくす笑った。
「うふふ、冗談ですわ。いえ、本当にするのは全然構いませんけれども。とにかくそういう事であれば、私の方から実家の方に連絡を入れさせて頂きますわね」




