最辺境⑦
「草が生えていた……?」
オウム返しに俺がいった言葉を繰り返したユマに対して、俺は頷きを返す。
そのまま俺はしゃがみこむと地面に触れ、力を流す。
「……これが生えてた」
それに応じて生えてきた草を指さすと、それを見たユマが目を見開いた。
「……本当に、これが生えてたの?」
「生えた奴をラーニングしてきたのがこれだから、間違いないよ」
そう、スールを植えた場所に起きていた異変。スールのすぐ横に、スールではない草が生えていたのだ。
「……これ、お姉様の自宅の庭にも生えてた草じゃあ?」
横から覗き込んで来たリズのいう通り、この草はウチの庭にも生えていたどこにでも生えている雑草の類だ。この辺りでも普通なら生えていてもおかしくはない──瘴気に侵された場所でなければだが。
スールを植えた場所は、瘴気に完全に侵された場所だ。実際スールを植えた場所の周囲は草一本生えていない状況だった。そこで生存できるのは、スールだけだったハズなのに。
「これ、どういうことかな。スールのすぐ側に生えている事で、スールの成分の影響を受けたとか?」
書物で確認したレベルの話とはいえ、スールを煎じて作った薬は瘴気の効果を打ち消したとあるんだから、そういう影響があってもおかしくないかもしれない。
その俺の予測を聞いたユマは、口元に手を当ててしばし考え込んでから口を開いた。
「ヒビキの言った可能性もなくはないんだけど……ねぇ皆、スールの別名、覚えてる?」
「"ユグドラシルの眷属"、ですわね」
俺が記憶を探ろうとするよりも前に、リズがユマの問いに即答した。
この世界を覆おうとする瘴気を吸収し浄化することでこの世界を護っていた巨大な神樹。そのユグドラシルが消失した事により、現在この世界は緩やかに瘴気に侵されて行き、滅びへと向かっている。
スールは人の体を侵した瘴気を浄化した逸話から、リズが言った通りの別名で呼ばれる事があるが……ユマがその事を話しに出したということは、だ。
「もしかしてユマ、スールがユグドラシルと同様に瘴気を吸収して浄化していると思ってる?」
「可能性としては、ないといえないわぁ」
「もしそれが事実なら、大発見だぞ」
ノインさんが言う通り、もしユマの言う通りであればとんでもないことだ。現状、瘴気の侵攻に対抗する手段はない。せいぜい瘴気の中から発生する瘴気獣を俺達のようなギフト持ちの異世界転生者が討伐するくらいだったんだ。
そこに、効果のほどはユグドラシルとは比べ物にならないとはいえ同様の効果の植物が見つかったとしたら──
「世界中が大騒ぎになりますわね」
その予想は、きっと外れてはいないだろう。
「元々、私の最終目的はそこだったんだけど……10年単位の研究を覚悟していたわぁ。まさかこんなに早くその可能性が見つかるなんて」
「やっぱりユマはすごいな!」
可能性段階とはいえまさかの発見に俺は、殆ど無意識にユマの手を掴みそう興奮した声を上げていた。だけどユマはそんな言葉にきょとんとした顔をしてから笑う。
「何言ってるの、凄いのはヒビキでしょ?」
「へ?」
「ヒビキがいなければスールを手に入れられた可能性は低いし、何よりこんな短期間に品種改良を進めるのなんて絶対に不可能だったわ」
「そうですわ! もしかするとお姉さまはアローラ神の意思が呼び寄せた救世の聖女かもしれないですわね!」
「あながち否定できないかもね。ヒビキの存在が重要なのは確かだよ」
立て続けに三人にそう言われ、俺は思わず顔が火照るのを感じてしまう。
うっ……確かにいろいろ役に立てたとは思ってるけど、俺の役にたった部分って概ね貰いものの力によるものなんだよな。そう考えるとやっぱり自らの力で技術と知識を身に着け、ここまでたどり着くに至ったユマのが格段にすごいと思うんだけど……
「ふふっ、なんかひけめみたいな事感じているわね? 大体予測はつくけど、ヒビキは凄い事をした、それでいいのよ。難しく考えずにね?」
「……うん」
「あー、照れ照れのお姉様可愛すぎですわ! ちゅーしていいですか!?」
「話の脈絡なさすぎない!?」
リズ、最近どんどん欲望をぶっちゃけ始めてない!? 若干貞操の危機を感じるんだけど?
「てか、まだ確定した訳じゃないし! 検証しなきゃだろ、ユマ?」
何故かこちらに向けて目を瞑ったリズをそっとスルーしユマにそう聞くと、彼女はそう告げる。
「そうね。喜ぶのもちゅーも確定してからよ」
「いや、ちゅーは関係な……」
「ヒビキ、スールを生やしてもらいたいんだけど、出来る?」
「あ、うん。体力は全然OKだけど……」
ちゅーは関係ないけどなんで話しに出したの?
「瘴気に侵された区域の境界線近く……あ、勿論浸食された側ね? そこに、横に長く花壇を築くように生やす事ができるかしら。それを3箇所程。そのすぐ側と手前側に植物を生やして瘴気の浸食にどう影響するか検証してみましょう。いける?」
「ちょっと体力きついけど、いけるかな。ただ終わったらすぐに村まで戻るのはしんどいかも」
「その場合はこの場で少し休憩していけばいいでしょう。お願いヒビキ」
「了解!」
ちゅーはおいといて、このユマの予測があたって欲しい。俺の力がユマ達を護る力になるなら、それほど嬉しい事はないから。




