最辺境④
しばらく休んで俺の体調が落ち着いた後、俺達は再び瘴気に侵された場所との境界線に向けて進み始めた。
ただし今度は馬に乗って進むのではなく徒歩。更に俺が前を歩き、その後ろをノインさんが馬の手綱を引きながらついてくる。俺の手の中には小さな草の生えた植木鉢。ザルツベック大空洞でもやった瘴気感知器だ。
尤も、感づける要素が少なかったザルツベック大空洞とは異なり、ここではあまり必要ないものだったかもしれないが。
「割と明確に境界線はわかるもんだね……」
歩いてきている場所は、側面に深い森というわけではないが、林と呼べる程度の木々が生えていた。だが、視界の先の方で明らかにその木々が途切れていく。徐々にという感じではなく、ある個所から急に倒木や枯れた樹木ばかりになり、その先は草一つない荒野が広がっていた。
「馬も感じ取っているのか、この先に進むのを嫌がっているね。この辺りで繋いでおこうか」」
「そうしよう」
ノインさんの提案に頷きを返すと、彼女は手際よく手綱を近くの木に繋ぎ、それから荷物を降ろしてその中から小さな育苗ポットのようなものを複数取り出して、手渡してくれる。
「持てる?」
「なんとか」
そこそこ数があるけど、袋に入っているから取りこぼす心配はない。ぎゅっと抱きしめるようにして胸に抱える。
……こうやって荷物抱え込む時は、胸が邪魔になるなぁ。というか何かをする時に割と胸は邪魔になりがち。普通の女の子は徐々に膨らんでいくからあまり気にならないんだろうけど、俺の場合は急に生えた(というか体自体が差し変わったような感じだが……)みたいなもんだから割と鬱陶しく感じる時が多々あるんだよな。ま、さすがにこの体も長いから慣れたけどさ。
「それじゃ行ってきます」
「うん、気を付けて。何か現れたらすぐ戻ってきて」
この先は勿論馬だけではなくノインさんも危険度が増すからここで待っていてもらう。かけてもらった声にコクリと頷いて、荒野へ向けて歩き出す。
まぁここまでの状況を見ると、この辺に危険な動物とかがいる可能性は低いから大丈夫だと思う。ここまで歩いてくる間にほぼ動物見てないしね。それに林もそこそこ視界が通っているから万が一何か現れても注意を払っていれば早めに気づけるだろう。
それより、遭遇する可能性があるのはザルツベック大空洞で遭遇したような瘴気獣だろう。
ただなぁ……瘴気獣の場合は通常の攻撃は効きづらいし、近接戦闘のノインさんでは正直相性が悪すぎる。先の一件でサイズが小さかったとはいえ俺の攻撃がきっちり効くのはわかってるし、もし出現したら俺が戦うべきだろうな……まぁ出てこない事を祈ろう。あんな戦い何度もやりたくないし。
一応植物がやられている辺りの所までいかなけば直ちに体に影響がでるような事はないようだけど、ノインさんに余計なリスクを負わせたくない。なので距離的には1kmちょいは離れた場所から一人で歩き出す。まぁ走れば数分で戻ってこれる距離だ。あまり深く考えすぎるのはやめよう。
勿論荷物を抱えているので、行きはゆっくりとね。歩きだと十数分くらいかかるかもだけど致し方なし。振り返ったらそれに気づいたノインさんが手を振ってくれた。手を振り返したけど手がふさがっているので小さくぴょんぴょん跳ねて返事としておく。
さて、目的地へ向かおう。俺は体の向きを進行方向へ向けて歩き出す。
しかし、なんというかドキドキするな。
それは危険な場所に向かうからとかそういった類のドキドキじゃなくて。これからここまでの数か月の研究の結果が出るという事に対するドキドキだ。近いのは、受験とかの結果を見にくときのアレかな?
まぁこの研究は殆どユマがやったようなものだし(俺がしたのは素材提供だけみたいなもんだし)そのユマは今回この場にはやってきていないんだけど。
うん、上手くいってるといいな。




