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最辺境③


「……大丈夫? ヒビキ」

「だいじょうぶでーす……」


自分でも全然大丈夫じゃないと思う萎れた声で、心配気な声にそう返事を返す。


別に病気になったとか、毒を喰らったとかそういう話じゃない。……単純に酔っただけである。馬に。


ルーランの村に到着した翌日、俺とノインさんは昨日の話の通りさっそく瘴気に汚染された区域を目指していた。


大分近くまで浸食が進んでいるとはいえ、まだ十数kmはある距離だ。徒歩の移動では往復で一日潰れてしまう。なのでノインさんの操る馬にタンデムさせてもらって現地へ向かうことにした。


これまでの旅の途中で何度か馬に乗せてもらう事もあり、慣れてきている自覚もあったのでノインさんには飛ばしてもらって大丈夫だっていっちゃったんだけど……大失敗だった。


これまで俺が乗せてもらっていたのは歩くのより少し早い程度……俗にいう常歩という奴だった。それに対して今回はそれの倍以上だったんだけど……もうめっちゃ揺れる。うん、甘く見てた。鍛えているのにちゃんと柔らかいノインさんに縋りついて耐えるのが精いっぱいで、いよいよヤバそうになったところでノインさんに声をかけられた感じである。


……いや、途中でも何度か声はかけられたんだけどね。かかる時間自体は1時間とちょっと位だって話だったし見え張って我慢しちゃったんだけど……素直に休ませてもらえば良かったと思います。そんな状態でも大丈夫って返事返しちゃうあたり俺アホかな。


「……目的地までは残り少しのハズだから、ここからは歩いて行こう。降りるから、一度離れて貰っていいかな?」

「あ、すみません」


俺が彼女の体に回していた腕を外すと、彼女は軽やかな動きで馬から降りた。そして、俺も彼女の手を借りて馬から降り……地面に足をついた瞬間よろめいて、ノインさんに支えられてしまった。


「少しここで休んでから行こう。もう少し先に行ったら恐らくヒビキに先行して貰わなければいけなくなるし、ちゃんと動けない状態だとまずいからね」

「はーい……」


さすがにここで「まだ行けます!」とかいうほど俺も馬鹿じゃない。休憩の提案を俺は素直に受け入れると、すぐ側に生えていた巨木の幹に背を預けて体の力を抜く。


あー……丁度いいそよ風が吹いていて気持ちええ……


「水、飲む?」

「あ、欲しい」


差し出された水筒を受け取ると、数口飲み込んでからノインさんに水筒を返す。彼女はそれを受け取ると同じように口を付けた。……間接キスになるが、今まで一緒に旅をしてきた相手だ。寝室だけじゃなくて風呂だって入っているのに今更である。俺も一時的に女になっているとかじゃなくて、こちらの世界ではこの体が本来の体だからな。


水を飲んで目を瞑り柔からな風に身を委ねていると、喉元まで上がってきていた吐き気がスゥーッと抜けていく感じがする。元々そこまで乗り物酔いするタチではないしな。体自体が差し変わってるから前の体の身体的特徴が適用されるかは謎だけど。


落ち着いてきたので、閉じていた目を開きなんとはなしに周囲の光景に目を向ける。するとすぐに周囲の景色のとある違和感に気が付いた。


「……動物も虫も、まるで見かけないね」


辺りには木々や草は茂っている。普通これだけ緑があれば、鳥や虫くらいの気配を感じる事ができるだろう。だがこの場には姿どころから鳴き声もなく、聞こえるのは風に吹かれて揺れる葉が擦れる音だけ。


その理由は、まぁ明確か。


「瘴気に侵された地域がいよいよ近いって実感するなぁ……」

「瘴気が近づくと、動物たちはそれを察して人より先に逃げると聞くしね。そう言う事なんだろう」

「となると、この先は俺が先行した方が良さそうかな」


まだ草木が普通に生えているから問題はないと思うが、まったく影響がないとはいえない。この先は以前の大空洞の時と同様に草を持って俺が先行すべきだろう。


「そうだね。この先だと魔物の類もほぼいないだろうし、私は少し後ろを馬を引いてついていくよ。視界も全く通らないわけでもないし、何か出てきても対応はできるだろうし」

「了解です」

「体調はどう?」

「もうちょっと休めばほぼ回復かなーって」

「うん、そしたらもうちょっとだけ休んだら出発しようか」


ノインさんの言葉にこくりと頷きを返し、俺はもう一度目を瞑る。


……とりあえず帰りはのんびり帰れるように、とっとと用事すましたいかな。









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