再びのエクレール⑤
結局、ノインさん達がエクレールにやって来たのは4か月も後の事だった。
彼女の故郷の集落も疎開の対象になったらしく、その疎開の護衛と、疎開先での集落の立ち上げを手伝っていたところ、それだけの時間が立っていたらしい。
今回の集団疎開は国からの指示であり、移転先は国の方で準備している。人口密度が割とアレな日本と違い、以前に比べれば大分人間が生活可能な領域は減ってきているとはいえ、未開拓の場所はまだまだ残っている。その領域にいくつかの集落をまとめて疎開させたらしい。
異なる集落をまとめちゃって大丈夫? と思わなくもないが、疎開対象になるような地域にある集落は大抵が過疎状態のため、新規に開拓をするとなるとどうあがいても人手不足になるらしい。
尚、新規開拓するという事で一定期間は支援金が支給され、その後もしばらくは税が免除されるらしい。まぁそうでもしないと、辺境の住人達も疎開をしてくれないのだろう。
というわけで疎開の準備と護衛で1ヵ月、その後住居の建造や土地の開墾を手伝ったのが3か月だったということだ。
「それで、品種改良の状況はどうなんですか?」
現在地は俺達3人の我が家。そのダイニングのテーブルを囲んで座り、一通り自身や辺境の状況の説明を終えた彼女が次に口に出したのはその言葉だった。
俺が視線をユマに向けると彼女が頷いたので、説明はユマに任せる事にしよう。
「状況としてはまぁ、悪くはないわねぇ」
彼女の口から出た最初の言葉は肯定的な言葉。
そう、スールの調合に関して何だけど、成果はちゃんと出ていた。
俺の元居た世界のものとはやりかたは全く異なるとはいえ、本来は何か月もまって成長を待たなければいけない工程を俺の能力ですっ飛ばしているおかげで、すでに50を超えるケースの試験が完了している。
そして、その中には数個ではあるが、エクレールの環境でも生息可能とみられるのが出来上がっていた。2か月以上枯れずにいるのが1つ。1ヵ月が1つ、2週間程度なのが2つ。元となっているスールや他の試作品は1日と持たず枯れてしまうことを考えれば、充分に成功作といえるだろう。
現時点ではまだ半分は、であるが。
「まあ、スール自体の効能が残ってるかはここでは試験できないからわからないけどねぇ」
そう、スールの持つ効能──瘴気への耐性や、瘴気に侵されたものを治癒する効果が残っているかは確認できていない。当然だ、エクレール近郊に瘴気なんてないからな。
「……試験の実施はいつ頃に?」
「成功しているのが大体同系統のものと掛け合わせたのなんだけど、そろそろ確認したいところではあるわねぇ。4つ皆駄目なのであれば今メインで掛け合わせてる系統の素材は切り捨てた方が良さそうだし」
「なので、ノインさんがこちらに顔を出してくれたら、その時に考えようかなって話してたんだよ」
「おや……では私は丁度いいタイミングで顔を出した感じですかね?」
ノインさんの言葉に、俺はコクリと頷く。
実際問題として、1か月前だと実質1つしか準備できていなかったからな。ノインさんが遅くなったのは理由としてはネガティブなものだけど、こちらとしては助かったといえる。
「なので、ノインさんにはまたお仕事をお願いしたいんですが……」
ちょっと上目遣い気味にして聞いてみると、ノインさんはにこりと笑みを浮かべて頷いてくれた。
「勿論。それと提案なんですが、拠点として私の故郷の集落が使えると思うんですがいかがでしょう?」
「拠点?」
問い返すと、ノインさんはコクリと頷いて言葉を続ける。
「私の故郷の集落はかなり近くまで瘴気に侵されたてはいますが、まだ瘴気には飲まれていません。あの辺りはもう人はほぼいなくなっていますので宿とかはありませんが、野宿よりはいいのではないでしょうか?」
「ありがたいと思うけど、いいのかしらぁ?」
「ええ。有効活用ですよ。故郷の集落はエクレールから見ると比較的近い位置にありますしね」
「じゃあ、決まりですわね」
野宿に比べればちゃんとした家屋を利用できるのは非常にありがたいので、断る理由はない。火事場泥棒的な連中に荒らされている可能性はあるが、まだ放棄されたばかりだから家屋は問題ないだろうし、何らかの水源もあるだろう。
「それじゃ、後で報酬とかの話は進めましょう。契約に関してはアタシの方で勧めちゃっていいかしらぁ?」
「問題ないよ」
「お任せしますわ」
そういったことは俺よりユマの方が詳しいし、リズは雇われポジションではなくなったとはいえそういったことには口を出す気はないので彼女が適任だろう。
「出発はいつくらいにするんだ?」
「食料品はもう少し現地に近づいた後でいいと思うけど、素材関連は出来るだけ準備してから行きたいから7~10日くらい掛かるかしら」
「了解した。それまでに私も装備品の整備や消耗品の補充、情報収集は済ませておく」
「7~10日、ですか」
ユマが掲示した日程にノインさんは即同意したが、リズは眉を顰めてうなるように呟く。
「……なんか都合が悪いのかしらぁ? リズちゃん」
「いえ、さすがにその残り期間でお姉さまと"しあわせな家族"を作る方法を見つけるのは難しいかな、と」
「よーし何ら問題ないな!」
その方法まだ探し続けていたのかよ!




