再びのエクレール④
「いきなり何言いだしてんの!?」
「あ、わたくしの方が産むのでも構いませんよ?」
「いやそういう話じゃなくてね?」
「勿論子供は女の子がいいですわ!」
「そういう話じゃなくてねぇぇぇぇぇ!?」
全力で突っ込むと、ようやくリズが目をぱちくりとしながら止まったので、間髪入れず俺は言葉を続ける。
「子供作るも何も俺もリズも女の子だからね!? いや、俺は元は男だけどさ!」
「お姉様」
ぶっちゃけ唾をまき散らす勢いでそう口にする俺に、リズはすっと真剣な表情を浮かべると正面から俺の瞳を見据え言った。
「諦めたらそこでおしまいですわ」
どこぞの高校のバスケの監督みたいな事言ってるんじゃねぇよ!
確かにあった直後から好意は示されてたし、旅の途中も大分べたべたしてきていはいたけど! そこまでヤバい事考えていたの!? 正気か、同性やぞ!
と、ここまで考えてふと頭の中に浮かぶこと。
ここは俺の中の常識の基準になっている元の世界ではない。あの世界とは根本的に発展の方向性が違うファンタジー世界だ、なにせ俺自身植物を操れるという元の世界じゃ絶対にありえない能力を持っている。ということは、まさか……?
俺は、恐る恐るユマの方に視線を送る。
その視線に気づいたユマは、その意図にも気づいたらしい。苦笑いと共に、答えてくれた。
「……さすがに性別を変えるような技術は聞いた事ないけど。少なくとも私はね?」
その答えに俺は安堵する。
……いや、冷静に考えると男に戻れるなら別にいいのでは? 別に将来何がなんでも女でいたい訳でもないし、男に戻るならリズともありなのでは? この子ちょっとアレだけど懐いてくれてるし美少女だし公爵令嬢だしで超優良物件では?
「性別を変えるつもりはありませんわよ?」
……はい?
「わたくしが男になるのはいやですし、お姉さまを男にするのも嫌ですもの」
「……じゃあどうやって子供作るつもりだったの?」
「お姉さまと同じように召喚された人間の中で、女性同士で全く男の気配がなかったのに子供がいらしたという言い伝えがありますの。異界の技術か召喚者としての能力かは不明ですが、きっと女の子同士で子供を作る方法があったハズですの。可能性があるのであれば、アークレイン公爵家の娘の誇りにかけて諦める事はありませんわ」
「そんな誇り捨ててくれ」
「リズちゃん」
そうだユマ、お前も突っ込んでやってくれ。
「なんですの? ユマさん」
「もし見つかった場合は私にも教えてねぇ」
お前もかよ!
え、ちょっとまって俺の貞操大丈夫? 何で女3人住まいなのに、そんな事心配する羽目になってんの? そもそも百歩譲ったとしてもその心配すべきはリズやユマであって俺じゃないだろ!
「大丈夫よぉ、ヒビキ。ちゃんと使う時は合意の上にするもの」
安心できねぇよ……というか、この話続けるとどんどん怖くなってきそうだ。とっとと話を切り替えよう。
えっと、話題話題……
あ、そうだ。
「そういえばノインさんてそろそろ戻ってくるのかな? 距離的には一週間かからない距離だったよな」
「話題転換の仕方が強引すぎないかしら?」
見逃してくださいユマ先生……
「でもお姉様はそういう所も可愛いですわ! なのでその話題転換に乗って差し上げます。ちょうどワタクシも後ほどその話をしようと思ってたので」
ありがとうございます、リズロッテお嬢様。いやこんな話題になっていたのはリズのせいなんだけど、また話が戻るのがいやなので余計な口出しはしない。
「で、最初から結論から申しますと。恐らくノインさんがこちらにいらっしゃるのは大分先になるのではないかと」
「何かあったのかしら?」
「自身の情報収集の間にちらっと耳にした程度ですので正確性がどこまであるからわかりませんが……ノインさんの向かった地方で、大分瘴気の浸蝕が進んでいるそうですの。それで、国の方が集団疎開を計画しているそうですわ」
「疎開、かぁ」
日本では歴史の教科書の中くらいでしか聞かなくなった言葉だけど、確かに瘴気に侵されれば人は住めないわけで……普通に考えるとそんな状況であれば自主的に避難するんだろうけど辺境方面の区域の職業って農業が主体だから、そう簡単にはそれを捨てて引っ越しすることはできない。だからこそ国が一時的な支援金と引っ越し先の土地を用意する事で集団疎開させているというのは、まだ城にいる時に話を聞いていた。なので、それはわかるんだけど
「でも、なんでそれでノインさんの帰りが遅れるの? むしろ向こうでやる事がなくなるから戻ってくるのでは?」
その俺の疑問に、リズはふるふると首を振る。
「疎開には人手も護衛も必要ですのよ。辺境は魔獣の類もそれなりにおりますし、それに疎開の話を聞いて悪意在るものも集まってきますしね」
火事場泥棒や強盗の事か。
「それで、ノインさんはおそらく護衛の任につくってことか」
「可能性は高いかと。地元ですしね」
なるほど、それは仕方ない。疎開の規模がどれほどかはわからないけど、しばらくはそっちに拘束されそうだな。
もうしばらく会えないのかと残念な気持ちが顔に出ていたのか、そんな俺にユマが声を掛けてくる。
「こーら、そんな顔しないの。逆に言えば、丁度そこまでにある程度研究が進めば、またノインさんに護衛頼めるわよ?」
「なるほど、そうだな」
確かに今すぐ来ても頼める依頼がないけど、丁度ある程度研究の成果が出たころに来てくれれば辺境に向かうのにまた護衛を依頼できる。
「となると、研究頑張らないとな」
「そうねぇ、頑張りましょう。まあでも無茶しない程度にね?」
「わたくしも調べもの頑張りますわー!」
いやそれは頑張らないでもろて?




