再びのエクレール③
「ヒビキ、明日お願いねぇ? いくつか出来上がったから」
俺の作った夕食を美味しそうに味わいながら、ふとユマがそう口にする。
いろいろ言葉がたりていないセリフだが、まぁ言いたい事は解る。おそらくは浸透が終わった種子ができたので、成長をさせて欲しいのだろう。
「了解。またうちの庭でいいのか?」
「うん」
ユマは頷きを返すと、再び料理に手を伸ばす。意識が結構食べる事にいってるあたり、大分お腹がすいているようだ。頭使うのも結構カロリー使うもんな。
「今度は上手くいくといいなぁ」
「品種改良は本来ものすごく時間をかけてやるものだからねぇ。ヒビキの能力のおかげで大幅に時短が出来ているとはいえまだ始めて一か月。まぁ気長にやっていくしかないよぉ」
「別に今も一分一秒を争う状況じゃないですからね」
ユマの言葉にリズもそう言って同意する。
「今の所、最長で4日でしたっけ?」
「そうだねぇ」
今現在、ユマがスールに対して行っているのはザルツベック大空洞のような特殊な環境ではなく、エクレールのような普通の環境でもスールが生息できるようにすることだ。
しっての通りスールはものすごく特殊な環境でしか生育しない。過去に人体を侵した瘴気を消滅させるという全ての生命を奪う瘴気に対して唯一打ち勝つような効果を持つスールだが、殆ど数が入手できないのでは正直大して役に立たない。だがその効力をそのままに標準的な環境で育成できるようになれば、もしかしたら瘴気に対する何らかの対抗策になるかもしれない。そう考えてユマは現在、調合による品種改良を進めているが、今の所結果はそれほど芳しくはない。
ちなみに改良がうまく行きある程度量産化できるようになったら、俺達はその改良スールを流通に乗せるつもりだ。そうすることで、他の学者たちにもスールを研究してもらうことができる。ユマにしろ俺にしろ、別にスールを使って一攫千金を狙っているわけではない。ただこの滅びへと進んでいる世界を滅びから救うとはいかないまでも、その進行を少しでも止めたいだけなのだ。そのためには俺達だけで研究するより多くの人間の様々な発想で研究した方がいい。
じゃあとっとと流通に乗せた方がいいんじゃないのと思われるかもしれないが、今のスールじゃすぐ駄目になってしまうのでとても流通に乗せられるようなものじゃない。俺の力の強化にしたってそう何日も持たないので、結局枯れてしまうからな。なので、まずはとにかくこの植物の生命力を上げるのが必須なのだ。
「まぁうまく行っても、瘴気に弱くなっていたら意味ないんだけどねぇ」
そうしたらただそこら辺にある草と変わりが無くなっちゃうからな。
「ただ、それの検証はここじゃできないからな」
瘴気への耐性へのテストは当然エクレールではできない。瘴気に侵されている辺境地域へと向かう必要がある。
だったらその辺境で調合しろと思うかもしれないがあちらは流通がもう大部分死んでいるので(住んでいる人間も激減しているので当然だ)、調合に使用する必要なものの調達が難しくなってしまうのだ。薬草類は俺が生み出す事ができるけど、それ以外にも必要な物は多々あるので。
まぁそういう意味ではエクレールは辺境近くではかなり規模の大きい街で物流もしっかりしているから都合がいい、なのでしばらくはここで今の生活を続ける事になる。
ただいずれはテストしにいかなければいけないが。
「辺境へはいつ頃いく事になるかな?」
「いくつか種類を用意していきたいからそれなりに先にはなりそうかな。でも半年以内には一度行きたいところではあるけど」
「まぁザルツベック大空洞に比べれば距離は近いから、ある程度で一回行ってみてもいいかな。でも半年後かぁ。ノインさんにまた護衛お願い出来るといいなぁ」
こっちの世界に来てからノインさんはユマ、リズに続いて長い時間を過ごしているから親しみを感じているし、能力的にも信頼できるからまた一緒に旅をしたい。
「そこはまぁタイミング次第になりますわねぇ。わたくしと違ってノインさんは他の仕事もされるでしょうし」
別に仕事しなくても充分な資産を持っているらしい(公爵令嬢なので当然か)リズみたいに、ウチで半分ニートみたいな生活してもらう訳にもいかないしなぁ。逆に言えばリズは問題なくついてきてくれるとは思うけど。まるっきり俺の近くから離れる気はないみたいだし。
ああでも最近はなんかいろいろ出かけているな? 別に行動を縛る理由も権利もないので特に気にしていなかったけど……住み始めてからしばらくはべったりだったけど、慣れたのか、それとも飽きて来たのか?
気になったのでちょっと聞いてみるか。
「なあ、リズ」
「なんですの? お姉様」
「最近昼間よく出かけてるけど、何しているか聞いても大丈夫か? あ、話しづらい事なら」
「問題ありませんわ。ちょっといろいろ伝手を使ったりして情報収集をしておりますの」
「情報収集? 何の?」
「お姉さまに孕んでいただく方法ですわ」
なんかこのお嬢様いきなりトチ狂ったこと言い始めたんだけど!?




