再びのエクレール②
品種改良と言うと異なる品種の花を人の手で受粉させたりというイメージがあるが、さすが異世界、全然違う方法をとっていた。
一応俺の元いた世界と同じ手法の品種改良も行われているらしいが、それよりももっと大きく変化させる手法としてユマ達調合士達が行う方法がある。
まず品種改良に使うウチの片方の植物を、特殊な薬液に浸す。その際なんか魔術的な事も併用して、この世界の生物なら微少だが必ず持っているマナと植物の物情報(遺伝子的な物なのかな?)を抽出する。
次のもう片方の植物の種子をその薬液に着けて馴染ませる。それによって元の方の植物の情報を取り込ませて掛け合わせることで新種の植物を生み出すそうだ。
食品とかの改良は地球と同じ手法が取られるそうで、こちらの手法は薬草等の品種改良によく利用されるそうだ。
ちなみに勿論この手法であっても必ず掛け合わせは上手くいくことはなく、そもそも浸透自体がうまく行かなかったりそれがうまく行っても意図した効能を持つ植物にはならなかったりして、例え魔術的な手法をとっていてもやはり品種改良は簡単なものではないらしい。それに植物としての種類が離れるほどやはり成功率も下がるそうで、やはりこの世界でも品種改良は大変で、何年、何十年とかけて行っていくようなもののようだ。
だが、今回、ユマには俺という存在がいる。
一度浸透まで済ませる事ができれば、後は俺の能力で一気に成長させることが出来る。そうして成長させて産まれた新種の植物を俺がラーニングしておけば、例え同じ品種を再現する事が難しくても数を増やす事ができる。そう、俺の能力は事植物の品種改良に関しては非常に有効なのだ。
それは当初からユマが気づいていたことで、だからこそ今回の旅を行ったのである。
ただその時間を大幅に短縮できるとはいえ、抽出と浸透のステップはそれぞれ数日以上の時間がかかる。当然この部分は俺の能力でも短縮する事はできないから、結局は気の長い作業になるのは間違いない。それでも本来とはくらべものにならないほど短いスパンで行えるのは間違いないけどね。
というわけで現在ユマは様々な素材をかき集め、自宅でずっと作業中である。
そういう意味で言うと夕食をウチで食べさせるというのは、ユマの生活リズムを守らせる意味では大分役に立っている。ユマ、研究に没頭すると割と普通に徹夜したりするタイプだからね。
最後の追い込みの時だったらまぁ仕方ないと思うけど、まだまだ全然先が見えない状態である。そしてこの世界の危機は少しずつ進んでいるのはザルツベック大空洞で実際に体験したわけだが、だからといって間近に迫っているわけでもない。今はまだ無理する時期ではないだろう。なので、帰ってこない時は俺が自分で呼びに行くか、リズに迎えに行ってもらうんだけど……
「ただいまぁ~」
今日はその必要はないみたいだな。
玄関の方から若干間延びした帰宅の言葉と共に、ユマがゆらゆらと現れる。相変わらずお疲れだなー。徹夜とかはしない分日中はかなり集中して作業しているみたいで、最近のユマは夜は大体こんな感じだ。
俺は事前に用意して冷やしておいたボトルからグラスに果物を絞ったジュースを注ぐと、そのままダイニングの椅子に腰を降ろしたユマの前に置く。
「今日もお疲れ様、ユマ」
「ヒビキ、ありがと~」
彼女はそういって笑みを浮かべてから、グラスに注がれたジュースを喉を鳴らして一気に飲み干した。
「ん~っ、おいし~」
「ははっ、晩御飯もそろそろ出来るからな?」
満足げな表情を浮かべるユマから空になったグラスを受け取り残りの料理を済ませようと、彼女に背を向ける。
そんな俺の背中に、ユマの声がかかる。
「あ~、本当にヒビキが甲斐甲斐しくて最高だわ~、私と結婚しよ~」
そんな彼女の言葉に、同性同士で何言ってるんだと笑って返そう──とする前に、部屋の中に別の声が響いた。
「ユマ様! それは抜け駆けですわー!!」
声の主は庭から戻って来たらしいリズだった。その胸元に俺が頼んだ野菜を抱え込みながら、パタパタと玄関の方から小走りにやってくる。
「あ、お姉様、これ頼まれた野菜ですわ!」
「あ、うんありがと」
リズはそのまま俺の所までやってくると、先ほどの発言などなかったかのような態度で野菜を渡してきた。よし、じゃあとっとと晩飯仕上げちまうか。
そう思って再び背を向けて素材を洗おうとする俺の背に、同じように席に着いたらしいリズとユマの話し声が聞こえてくる。
「もう、ユマ様! お姉様は私と添い遂げるのですわ!」
添い遂げないよ?
「えー、私もヒビキをお嫁さんにしたいし、ヒビキが私のお嫁さんになってリズちゃんがヒビキのお嫁さんになればよくない?」
「……その提案は一考の価値はありますわね!」
いや、欠片も考慮する価値はないだろう? というかリズはともかくユマまで何言ってるの、そこまで脳みそ疲れてるの?




