ザルツベック大空洞⑬
帰り道は何もでないのがわかっているので安心だ──安心なんだけど、リズが暴走しないか不安なので大急ぎで戻る事にした。
一応警戒しながら進んだ行きの倍近い速度で帰路を驀進すると、やがて通路の向こうに三人の姿が見えてきた。
良かった、当初の予定通り別れた所より少し後方にいるな。ユマがこっちに気づいたらして手を振ってくる。それに手を振り返しながらリズの方を見ると、リズがノインさんに羽交い絞めにされていた。いや、これもしかしてやっぱり瘴気地帯に突入しようとしたんじゃ? ノインさん止めてくれてありがとうございます。
……とりあえず無事な姿を見せる事ができたし息もきれてるから減速しようと思ってたんだけど……ノインさんに抑えられたままのリズが、俺の姿を確認してもまだジタバタしているのを見て諦めた。いつからリズがこの状態かわからないけど、とりあえず早くノインさんを休ませてあげたい。最後の力を振り絞って皆の元に駆け寄る事にした。──最後の力を振り絞る場所おかしくね?
まあとにかく結局ペースを落とさずに皆の所へ向かうと、丁度瘴気地帯を抜けたところでノインさんがリズを解放した。
解き放たれたけども……リズは弾かれたように駆けだすと、そのまま俺の胸に飛び込んできた。
その展開は予想はできていたので、俺は重心を前倒しにして足を踏ん張る事で彼女の体を受け止める。
「お姉さま~! お怪我はございませんか!」
「大丈夫大丈夫、傷一つ負ってないって」
そう答えを返すがリズは離れようとしないので、そのままの体勢のままユマの方に視線を移す。
「……まずは、無事おかえりなさぁい、ヒビキ」
「ああ、ただいま」
「それで、どうだったかしらぁ」
ユマの問いに、俺は笑みと共に拳を突き出す。
こちらの世界では一番俺と付き合いの長いユマは、それだけでちゃんと理解してくれたらしい。同じように拳を突き出し、俺の拳に合わせて来た。
「やったわね、ヒビキ」
「ああ。今回の旅の目的、完全に達成だ」
ハザト大森林、ロア高原を経由して続けてきた数か月の旅路も、ひとまずはこれで終わりだ。今後もまた素材収集に旅に出る可能性はあるが、当面はユマはスールの研究に力をつぎ込むことになる。出先でも調合は可能だが、やはりいろいろ揃っている自宅が一番ベストなので、これからエクレールに戻る事になる。
「エクレールかぁ、まず戻ったら掃除しないといけないわねぇ。後いろいろ薬草とか素材も仕入れないと」
「俺が増やせるのなら増やすけど」
「スールを生やしてもらわないといけないし、いろいろ試すつもりだから素材は買うわよぉ」
まぁ俺の能力は無尽蔵に生やせるわけではないから、そこは仕方ないか。
「そうなると、エクレールまでの帰路を護衛してひとまず私の役目は終了となりますかね」
「……あ、そうなりますね」
ノインさんの言葉に、当然の事に気づく。ユマは同じ街に暮らしてるし、街を離れる直前は同棲のような状態になっていたけど、リズとノインさんはあくまでこの旅の間の護衛だ。エクレールに戻れば勿論護衛は必要なくなるので、そこでお別れになる。
「帰るまでそれなりに時間かかるし、しんみりするのは早すぎよぉヒビキ」
「あー、うん。そうだな」
「それにまた別の所に行くときに護衛をお願いするかもしれないし」
「その際は是非お声がけください」
ユマの言葉にノインさんは笑みを浮かべ、そして優雅な仕草でそう口にしつつこちらに向けて一礼する。やだ、格好いい……
「リズちゃんもねぇ」
「そうだな、リズ……リズ?」
リズはいまだ俺に抱き着いてきたままだった。ずっと胸元の辺りに顔を埋めたままだ。泣いてる訳じゃないよな……って
「いやなんで人の胸元で深呼吸してるんだよリズ!?」
さっきまでノインさんに羽交い絞めされてたせいで息が荒いと思ったら、思いっきり深く呼吸してやがる! 息が当たってこそばゆいわ! 何してんの!?
「離れ……離れねぇ!?」
ガッチリ背中に回された手がホールドされてる!
そんな俺達の姿にユマが苦笑を浮かべなら言った。
「まあ少しだけそのままにさせてあげなさいな。リズちゃん本当にすぐにでも駆けつけそうなくらいヒビキの事心配していたのは事実だから。リズちゃんもここにそう長くいるわけにはいかないから、あとちょっとだけよ?」
リズはコクコクと顔を埋めたまま頷いた。顔擦れていたくない?
まぁリズがものすごく心配してくれたのは、戻って来た時の光景でよくわかっている。俺はひとつ大きなため息を吐いて、しばらくリズの好きなようにさせることにした。
……とにかく、これで俺達の冒険はひとまずの終わり。さあ帰ろう、エクレールへ。




