ザルツベック大空洞⑫
力を使う都合上どうしても片腕は地面についている必要があるため耳を塞ぐことができず、洞窟内という反響する場所に響いたその音に顔を顰める。だが音はそれで終わりではない。
続いて、固いもの同士がぶつかり合う甲高い音が響いた。これはセンカがまき散らした種子がラウドで作った壁にぶちあたった音だろう。
センカ。タイテンと並んでロア平原で取得した、戦闘用の切り札の一つ。
この草は成長するとやがて一つ大きの玉をその先端に作り出す。この中にはセンカの種子と自身が生み出したガスが詰め込まれており、成長しきるとそのガスの力を用いて詰まった種子を周囲にまき散らすことで繁殖するのだ。これがなかなか強力で、小動物なら近距離でその破裂を受けた場合命を落とす事もあるくらいだという。
だがさすがに大型の獣や人の命を奪うほどではない。痛い事は痛いらしいし怪我をすることもあるだろうが、それこそ瞳など脆い急所にうけなければ重症を負う事はない。
俺が強化していなければ、だが。
俺が目いっぱい強化したセンカは、十分な殺傷力を持つのはロア平原ですでに検証済みだった。
……ぶっちゃけ狭い洞窟の中では使いずらい事このうえない能力であり、実際今回ここにくるまで一切使う事すらなかったんだけど……ラーニングしておいて本当に良かったな。
正直使うのはちょっと怖かったけど。ラウドで完全に防げるとは思っていたけど、万が一隙間とかあって抜けてきたら死にかねないので。なので出来るだけ隠れられる場所で身を小さくしていたくらいだ。
だが幸いな事に俺の心配は杞憂に終わり、ラウド君はきっちり種子を防いでくれた。一安心である。
……さて、瘴気獣はどうなったかな。
今のが俺が出来る最大火力だ。もし全然効いていないようだったら打つ手がないんだけど……向こう側で何かが動き回っている気配がないので、多分……大丈夫なはず。多分、きっと、おそらく。
一応倒しきれていない事を考え、すぐに能力を発動できるように腰を低くした状態でラウドの壁を回り込み向こう側を覗く。
──そこにはズタボロになったタイテンと、そこら中にまき散らされたセンカの種子。後センカ自体奴を囲うように配置したせいでセンカ自体も同志討ちみたいな形になりボロボロになっていた。
そしてその中央に、ズタズタになって倒れ伏した瘴気獣の姿。
……動かないよな?
ドキドキしながら、その姿を見ているとやがてアリステラさんが倒した瘴気獣と同じように、そいつは黒い粒子になって消えた。
それを見届けて……俺は急に足の力が抜けて地面にぺたりと座り込んでしまった。女の子みたいな腰の付き方になってしまったが許して欲しい。今は女の子なので。
いや、マジで怖かった!
ロア平原で戦闘自体は経験したけどあの時はほぼ守られていたし、ザルツベック大空洞に来てからもそれは変わらずだった。多分正直これまでで一番命の危険を感じたと思う。よく動いてくれたよ、俺の体。今になって明らかに震え来てるもん……
……
……
大丈夫だと思いつつ不安になって思わず下の方を確認してしまった。結果はセーフ。良かった、上からはすでにやらかしているのに下からもやらかしてたら、このザルツベック大空洞完全に最悪の思い出の場所になるところだった。
はぁ、少し落ち着いてきた。
落ち着いてくると、今度は不安が湧いてくる。一人でいる事の不安だ。ここに瘴気獣以外はまず現れないのは解っているけど、一度不安を感じるともう気になって仕方ない。よくここまで一人で来たな俺、なんか使命感から変なアドレナリンでも出ていたのだろうか?
というか冷静に考えないととっとと戻らないと不味くないか? センカの破裂音とかこの洞窟の中だと響いてユマ達の元まで聞こえていてもおかしくない。すると当然何かあったのかと思われるわけで……ノインさんとユマは大丈夫だと思うけど、リズがこっちに向かって来そうで不安だ。
ようやく震えも収まって来たので、立ち上がり出口の方へ向かう。目的は達成したし危機も脱した。これ以上この場に留まっている理由はない。
生やした植物は……まぁここが瘴気に侵されている以上申し訳ないが放っておいても早いうちに枯れるだろう。ここに人がやってくる事もないしそもそも人が来た時に害をなしそうなタイテンとセンカはボロボロなので放っておいても大丈夫か。
よし、帰ろう。仲間の元へ。




