ザルツベック大空洞⑪
慌てて回避したことで体勢を崩してしまっているから、再度回避するのは無理。というかちょっとくらいかわしたくらいじゃ噛みつかれて終わりっ!
だったら──
「アンブラ!」
別に草の名前を叫ぶ必要はないんだけど、無意識に技の名前を宣言するように俺は叫んでいた。それと同時に土の中から生えてきた植物が瞬く間に成長すると一気に花が咲き、花が枯れ、そして勢いよく上へ──いや、意図して斜めに生やしたので斜め上に向けて種子を射出した。
『!?』
その種子は見事にこちらへ向かってきた瘴気獣を吹き飛ばす──アレは本来は種子を上空に飛ばした後、種子の中から落下傘のようなものが飛び出してきて風に乗って繁殖する植物で、あそこまで種子がデカくないしあそこまで威力があるものでもないんだけど……俺の能力って成長を促進させるだけじゃなくってサイズを大きくしたりその植物の機能を強化できたりするんだよな。以前自宅の庭で育てていた果物が俺が力を注ぐと美味しくなるのと同じような話なんだけど。
とにかく、上手くいって良かった。とっさの判断でしたとしてはミスったら一発アウトだった悪い選択だったけど、うまくいったので結果オーライ。そして吹き飛ばされた瘴気獣がアッパーカットを喰らった形になるも、空中で体勢を立て直し地面に降り立って、
──足を滑らせて転倒した。
理由は単純。アンブラを生やすと同時に滑らせる草、ヌベタを生やしておいたのだ。さすがに俺に吹っ飛ばした瘴気獣の着地点を予測してピンポイントに生やすとかはできなかったので、もう広範囲に。割と体力を持っていかれたが、結果は完璧だ。
そしてここはおそらくはまたとないチャンスである。手を緩める事はできない。俺は手をついたまま、地面に向けて力を籠める。
地面に広がるヌベタの中から、さらに別の植物が生えてくる。先ほども生やした植物──タイテンだ。倒れた奴を覆うように一気に成長したタイテンは瞬く間にそのぶっとい蔦で瘴気獣の体を拘束する。
……特に可愛くもないケダモノの触手プレイとかなぁ。いや、タイテンそもそもエロ同人に出てきそうなエロ触手とはかけらも違うけど。むしろ油断したらタマぁ(命の方な)取ってかれそうな奴だけど。そもそも自分で体験してるし……いや、ほんとエロ触手じゃなくて良かったな? まぁエロ触手ならわざわざラーニングしになんていってないけどさ。
……いやいや、そもそも今そんな事考えている場合じゃないだろう。
自分でも信じられないくらい一連の攻撃が上手く言ったせいで、少し気が抜けてしまった。
一応瘴気獣が暴れているものの、タイテンが腐る気配もないし引きちぎられる気配もない。とりあえず大丈夫そうだけど、あまりのんびりしておかないほうだろう。
「えっと、そしたら……このあたりか」
俺は更に追加で植物を生やす。生えて来たのは竹に似た植物だ。ラウドというこの植物はほぼ見た目竹なんだが、強度は竹に比べてもずっと固い。更に俺の力で強化もされている。
そのラウドを、瘴気獣が少し離れた場所にみっちりと隙間なく生やして壁を作る……連続して強化した植物を生やしている上にラウドを大量に生やしたせいで体からガクッと力が抜けるがまだ駄目だ。そこから離れた位置にもう一つラウドで壁を作る。更に瘴気獣からその二つの壁を挟んで反対側に立ち、壁が飛び出して自然の遮蔽となっている場所に身を隠す。
……ここまですれば大丈夫だよな? うん、大丈夫だ。
自分の一から先ほどの瘴気獣がいるハズの位置が見えないことを確認し、更に別の─センカという植物を生やす。まったくその姿は見えていないけど、位置関係は把握しているので瘴気獣を囲うように複数。
「……はぁ」
そこまでやって、俺は一つため息を吐いた。
体が重い。ベッドに横になりたい……まぁここを切り抜ければ後は帰るだけだから頑張ろう。今生やした草で最後になるはずだし。
後は指示を出すだけ。俺は地面についたまま念じる。
”弾けろ”と。
そしてその次の瞬間。空間の中に複数の破裂音が響き渡った。




