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ザルツベック大空洞⑨

結局、三人とも折れてくれた。リズは最後まで抵抗してたけど。後ユマは手持ちのアイテムをいくつも渡してきた。


それらは素直に受け取って、今俺は洞窟の中を一人で歩いている。


……そういや、街の中以外で(いや街の中でも大体リズを筆頭として誰かと行動しているけど)こうして一人で動くのってかなり久しぶりだな。エクレールの近郊で薬草とか果物採取していた時以来かな。


そう考えると、改めて不安が襲ってくる。一人ってこんなに心細かったっけ……


ただまぁ以前のように破落戸に遭遇する心配はない。このザルツベック大空洞自体が今は殆ど散策する人がいない上、最早瘴気汚染区域だからな、ここ。俺以外の人間に遭遇する可能性はほぼ0だ。そもそもザルツベック大空洞に来てからあった人ってこないだのアリステラさんしかいないし。


よし、と気合を入れなおして歩を進める。あまり戻りが遅くなると皆が心配するだろうからな。それに下手するとリズが無茶して突っ込んできそうで怖い。とっとと進もう。


ちなみにきちんと能力が使える事は確認してから来ている。瘴気領域に入った後草を生やしてみたが、俺が生やした草は萎れるような事はなかった。力を抜いてしばらくしたら萎れてくるかもしれないが、何にしろ身を守るのには問題ないだろう。


事前に調べた情報の通り、洞窟は一本道だった。普通に立って歩ける程度ではあるけど、その大きさも大して広くはない。逆にこの狭さは俺には助かる。タイテンでほぼ完全に道が塞げるからな。それに隠れるような場所が殆どないのもいい。奇襲喰らったら対応できる自信がないからね……


それでも念のためきっちり警戒しつつ進んでいくと、徐々に道が広がっていった。


「いや、広がらなくていいんだけどな……」


それだけ自分を護りづらくなるので。だけどその願いも空しく、道幅は更に広くなっていく。だがその理由はすぐにわかった。視界が大きく開けたのだ。


「ここは……」


そこはまるでダンジョンの中につくられたホールかのように大きく広がっていた。天井もこれまでとは違いかなりの高さがある。むしろここが最初に縦穴として産まれ、その後にこの通路が作られたようにも感じる。


そして、ダンジョンの中では本来見ないはずのものがすぐ視界に入る。それは陽の光だ。ほんの僅かではあるが、天井の方から光が地面に向かって降り注いでいる。恐らくはここが地表に近い場所で、天井のわずかな隙間を通って光が差し込んでいるのだろう。


「……!」


その光の差す元に、それはあった。


小さな小さな、菫色の華を付けた植物。それがわずかなその光を受けて、ひっそりとそこに生えている。


「あった……!」


それを見た瞬間、俺はすぐにそちらへと駆け寄った。ユマに見せてもらった資料にあったものと全く一緒だ、間違いない。探し求めた植物、スールがそこにはわずかであるが、植生していた。


「皆を説得して来て良かった……」


生えているのはそれほど数が多くない。しかもあまり元気があるような感じでもなかった。恐らくもう少し後にやってきたら、もうここにもスールは無くなっていたのではないだろうか?


だが、この状況下で生き残っているのが探し求めているスールである事の間違いない証明であり、更に言い伝えられている事が事実だという事も表している。


俺以外に生命の気配の感じられない洞窟の中、弱ってはいるもののまだ生き残っているのだから。


そして弱っていたとしても、生きてさえいれば問題ない。俺は地面に膝をつくと、そっとその小さな葉に手を触れさせる。


……よし、これで覚えた!


問題ないと思うが念のため生やす能力を実行してみると、ちゃんと新しく一本生えて来た。問題ないようだ。


「やっ……たぁ」


それを確認した俺は、思わず腰を落としてしまう。力が抜けてしまったのだ。ここまでのそこそこの長い旅の最終目的を達成したんだからな。しかもついさっきまでは諦めざるをえないところだったので、その分安堵の色が強い。しばらく腰を落としてスールの華を眺めたまま呆けてしまう。


「……って、いかんいかん」


そのまま1、2分程呆けていただろうか。のんびりしているわけにもいかない事に気づき、俺は立ち上がる。とっとと皆の元に戻って安心させないとな。


そう思って入り口の方へ視線を向けた丁度その時だった。何か黒い塊が頭上から落ちて来たのは。

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