ザルツベック大空洞⑦
目の前で、ノインさんの剣に胸を貫かれたゴブリンが、その剣を引き抜かれた事により支えを失い崩れ落ちる。
まだ痙攣はしているが、すぐに息耐える事になるだろう。
「だいじょぶ? ヒビキ?」
後ろから掛けられたユマの声に、コクリと頷く。
正直に言うと若干胸にこみ上げてくるのは感じているが、耐えきれるレベルだ。問題ない、行ける。
瘴気獣と遭遇した翌日。俺達はザルツベック大空洞に再びアタックを掛けていた。
……本当はもう少し様子を見る事を他のメンバーに提案されたんだけど、瘴気の事を考えると一日でも早く突入した方がいいのは明らかなので。その分一晩きっちり訓練して来たよ。イメージトレーニング!
……昨日の映像、頭にがっつりこびりついちゃったからそれを頭の中で繰り返し再生してね。何度も口の中に酸っぱいモノがやってきて、それを水で洗い流すのを繰り返す羽目になったけど……これまで人型ではないにしろグロい状態になった怪物を何度もみていたため、しばらくしたら耐えれるようになった。
というかしょっぱなにインパクト強い映像喰らったから、この程度ならうん、大丈夫だ。
「問題ない、進もう」
「わかったわ」
俺が発した言葉に、ノインさんが後ろに下がり、ユマが先頭に立つ。今回の基本的な隊列はユマ、リズ、俺、ノインさんだ。ダンジョン探索だから探知能力の高いユマが先頭にたち、場所によっては隊列を直しづらいこともあるので、単体での戦闘能力が高いノインさんが殿となっている。
後これは急遽用意したんだけど、ユマの腰にガラス瓶がぶら下げられている。ガラス瓶の中には三分の一くらい土がつめられていて、その上に小さな植物の芽がちょこんと植えられている。
これはいわゆる瘴気探知器というやつだ。瘴気の影響はこういった植物に真っ先に影響が出るので、これの状態を見る事で瘴気に真っ先に気づくことができる。瘴気も浴び続けなければ、それほど影響も受けないで済むからな。
ちなみに、この植物は俺が生やしたものではなく、洞窟の手前で自生していたものを採取して来たものだ。俺の能力で生やした場合すぐには枯れない可能性があって、それだと探知器としては役に立たないからな。どこかで俺の能力で生やした植物が瘴気の中ではどうなるか試してみたいところではあるけど……
まぁもしこの大空洞の中で瘴気に侵されたエリアにぶちあたるようだったら検証してみるか。瘴気エリアとかに当たりたくないけどさぁ。出来れば、とっととスールを見つけて脱出したいしな。ていうか旅も大分長くなってきたから、そろそろ一か所にしばらく腰を据えたーい!
早く見つかりますよに!
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という、非常に余計なフラグを立ててしまった感がある訳で。
「見つかりませんわね……」
俺の横を歩きながらそう呟いたリズの声に、張りがない。
ザルツベック大空洞の中ですでに一晩過ごし、早探索二日目。今の所何の収穫も得られていない。
スールは勿論、他の見つけたかった素材も特に見つけられていない状況だ。一応来る前に植生地の情報は集めて来たんだけど、やっぱり情報が古かった感じかね。スールの目撃情報がある場所もすでに二か所まわったけど、影も形もなかった。元々誤情報だったのか枯れちゃったのかはわからないが。
そんな感じでなんの成果もないのに、モンスターには結構エンカウントする。場所がそれほど広くないだけに交わして進む事も出来ず戦闘を余儀なくされる。そのせいか、疲労の色が皆に見え始めていた。
……事前に情報を入手していたスールの植生地は残り一つとなった。今はそこに向かっているところだった。
もしこれでそこにもないとなると、いよいよ情報がなくなる。まだ諦めるわけではないが、以降の探索は完全に手探りだ。次こそあってくれよ……と懲りもせずフラグを立てそうな事を考え始めたところだった。
「わぷ」
突然前を歩いていたユマがたちどまり、周囲をきょろきょろしながら歩いていた俺はその彼女の背中にぶつかってしまった。
「あ、ごめんねヒビキ」
「いや、大丈夫だけど……どうしたの、ユマ? 急に立ち止まって」
「あー、うん。ちょっと気になる事があってぇ」
そう口にすると、彼女は荷物の中から一枚の紙を取り出す。それは事前に購入していたザルツベック大空洞のマップだった。そこに彼女が書き込んだメモを眺めて、うんと頷く。
「やっぱりそうかぁ」
「どうしたんですの?」
俺の横にたっていたリズがユマの手元を覗き込みつつそう口にする。そんな俺達に視線を返し、彼女はこう口にした。
「この先、進まない方がいいかも」




