ザルツベック大空洞⑥
小屋に戻る前に合流したノインさんには滅茶苦茶謝られた。護衛対象が危機に陥っていた時にその場にいられなかったのがその理由だが、想定外の事態の上護衛としてはリズが残っていたし、後いってしまえば瘴気獣相手では純近接の彼女では殆ど何もできなかったはず。とにかく気にしないでくださいと何とか宥めた。
そして小屋に戻ったら戻ったで今度はユマに滅茶苦茶心配された。
まぁそれはさておき。
小屋に戻った俺達は早速会議を行う事になった。内容は今後の方針についてだ。
俺達が潜るのは地下だけど、瘴気は地表だけではなく地中までも汚染する。地表よりは汚染の進行が遅いし、アリステラさんに教えてもらった瘴気に侵された範囲は当初の情報より大分広がっているとはいえ、ザルツベック大空洞とその範囲が被っているわけではない。
ただザルツベック大空洞はかなり広大で範囲が被っている部分がないとはいいきれないし、少なくともリスクのレベルがあがったのは間違いない。
それを加味した上で、俺達が出した結論は──探索の継続だった。
今回の旅の主目的は、ユマの研究の為。その研究は瘴気への対抗手段に対する研究だ。
ザルツベック大空洞を今回の主目的に据えたのは、大空洞およびその周辺に素材が豊富という事以上に一つの理由がある。
それは、スールという植物。別名、"ユグドラシルの眷属"。
別段、ユグドラシルと同じ種とか、そういったわけではない。というかユグドラシルがそこまで解析されていないので。そして外見はただの草であり、巨大な木とされていたユグドラシルとは似てもにつかない。なのに何故そのような名前がついているかといえば、過去のある逸話が理由だ。
なんでも過去に瘴気に侵され命の危機に陥った人物が、このスールを煎じた薬を飲む事で回復した事例があるらしい。また本来なら瘴気に侵された場所では植物はすぐに枯死してしまうハズだが、スールはしばらくの間持ちこたえたそうだ。
……らしい、そうだ、というあいまいな表現になってしまうのは、この話が数十年以上前の話だからだ。伝聞等で伝えられた曖昧な話しか残っていない。こんな逸話が残っているなら試してみる検証者がいてもおかしくないのだが、それもない。
そもそもスールの入手が困難すぎるからだ。
逸話にあるスールの群生していた土地は、とっくの昔に瘴気に飲まれている。過去に召喚された人間が確認しにいったこともあったが、そこは草一本生えていない荒野だったそうだ。当然スールも存在しなかった。
じゃあ、スールが手に入る場所は他にないのかと言われると、そうではない。他にも複数存在する。
……いや、存在した、か。そのほかの植生地もその殆どが瘴気に飲まれてしまっていた。だが、一か所だけ自生しているのが確認されている場所があった。それがザルツベック大空洞だ。
何故地下に生えているのかは不明だが(数が少なく満足に検証できていない)、過去に何度か確認されている。だが、そこにあるスールがザルツベック大空洞から持ち出された事はない。
それは、スールが非常に弱い植物だからだ。
採取してしまうと、一日も持たずに枯れてしまう。土ごと採取しても駄目。採取してその場で加工した調合者もいたが、効果はみられなかった。……そもそも数が少なくて、有効な加工・調合の仕方も試せないのだ。
そんなスールが、今回の俺達の最終目的だ。
レアな上に保存も無理、有効な加工方法も不明なスールだが、俺がいえば問題の大部分が解決する。
ラーニングさえできれば俺の体力の限りはいくらでも生やすし、俺が力を通している間は枯らすことなく維持できるはずだ。そうすれば、帰った後にいくらでも研究できる。
……過去に瘴気に対して有効だったという逸話が残っているだけで、研究したところで有効な結果は出ないかもしれない。そもそも逸話が眉唾ものでしかない可能性だってあるのだ。
だけど、ユマがこれまでに膨大な資料を漁った中で見つけた、瘴気に対してなんらかの効果をもたらすわずかな可能性。その可能性が目の前の広大な空洞の中にあるかもしれないのだ。
俺達は、突入を決定した。もし今後瘴気の範囲が更に広がってしまったら、この地下空洞に生えたスールも枯死してしまうだろう。今回のアタックがラストチャンスになる可能性もある。というか今後リスクの値が上がることはあっても下がる事はないはずなので。
……アリステラさんが手を貸してくれると安心なんだけどなー。まぁでも俺の能力公開したところで無理だろうな。現状俺達がやろうとしていることは蜘蛛の糸を掴むような話だし、更にその蜘蛛の糸の先に答えがあるかもわからない。更に言えば召喚者は瘴気獣を抑えるのに必要な存在なので、前線から外せないだろう。
もし、万が一瘴気獣とまた遭遇したら……俺が頑張るしかないのかなぁ。タイテンとかが相手に通用すればいいんだけど。




