ザルツベック大空洞⑤
リズが召喚者っていってたし、ということは彼女は俺と同種で異世界から呼ばれた者。
ならば、あの宙を舞う剣はギフトによるものか。
……俺の能力と差がありすぎねぇ? 向こうはあんな化け物をあっさりと切り刻む力、それに対してこっちは草を生やすだけ。
……いや、僻みや自分の能力を貶めるのはよくないな。それに事戦闘能力であればある程度俺の力に戦う力がついてきたとはいえ比べ物にするまでもないレベルだが、俺の能力はそれとは別の方面でちゃんと役に立つ。ユマがちゃんとそういってくれた。
それに多分この能力じゃなかったらユマやノインさんと出会えてなかったしな。そう考えれば良かった。うん、特にこの世界でユマと一緒じゃない自分とか想像できないし。
リズは……まぁ、うん。城にいた時点ですでにあってるし、あのまま城に残っていたとしても仲良くなっていた気がするな。
「無事か?」
そんな事を考えていると、そう声を掛けながら先ほどの女性がこちらに向かって歩いてきているのが見えた。
「遭遇したばかりの状況だったので、特に被害は受けていませんわ。助かりましたわ、アリステラ様」
「こんな所でアークレイン家の令嬢に会うとは思っていなかったよ、リズロッテ嬢」
言葉を交わし合う二人は、どうやら知人のようだった。俺は会ってないが、俺が呼ばれた国の召喚者って事かな。
「そちらのお嬢さんは、お仲間さんかな?」
「ええ、パーティメンバーですわ」
俺の方に言葉と同時に視線が向けられたので、俺が慌てて頭を下げた。
「ヒビキ、です」
「私はアリステラ。カルバネ王国の召喚者だ、よろしく」
「よ、よろしくです」
差し出された手を握り返す。先ほどあの化け物を屠ったとは思えないくらい白く綺麗な手をしていた。まぁ武器握ってないしな。
「ここにいるという事は、目的地はザルツベック大空洞?」
「ええ、そうですわ。今私は冒険者としてポーション調合士に雇われておりますの」
「ヒビキさんが調合士?」
「いえ、私の相棒……がですね。私の方は採集担当です」
「なるほど……」
そこで彼女はふと考え込んだ。それから一度周囲に視線をめぐらせ、口を開く。
「先ほどの獣だが、見ての通り瘴気獣だ。リズロッテ嬢、奴がこんな所に現れた理由はわかるね」
「……瘴気に汚染された地域が広がっておりますのね」
リズの超えたに、アリステラさんが頷く。
「地図は持っているかい?」
「いえ、荷物は小屋の方に置いてきてしまっているので……取りに行きましょうか?」
「いや、この後報告に戻らないといけないからあまり時間はかけられないんだ。えっと……うん、これでいいか」
彼女は腰をしゃがみこむと(ちなみに先ほどまで展開されていた剣は、今は背中で折りたたまれた翼のようにまとまっている)、地面から一本の木の枝を拾い上げた。そして地面に地図を書き出す。この周辺地域の地図だ。
そして彼女はその地図の外れの方の一角を塗りつぶす。
「この辺りが、すでに瘴気に汚染されている。今回の瘴気獣は、ここで出現したのを抑えきれなくて逃がしてしまった奴だな。近場に召喚者がいなかったので仕方ないとは思うが」
それで連絡を受けたアリステラさんが駆けつけて討伐したのか。
「……多少は浸食が進んでいるのは考えておりましたが、思ったより浸食が進んでおりますわね」
リズがその地図に視線を落として考え込む。確かに、事前情報で得ていた場所より大分浸食箇所が増えていた。最近浸食されたのだろうか。
「アリステラ様、情報ありがとうございますわ。ちょっと検討が必要ですわね、雇い主に相談してみますわ」
「ああ、そうしてくれ。それじゃ私は先ほど言った通り、報告にいかないといけないのでこれで失礼するよ」
「ええ、ありがとうございましたわ」
「ありがとうございます、助かりました!」
リズと、ぺこりと頭を下げた俺にアリステラさんは笑みを向けると、身を翻しかなりの速度で走り去っていった。
そんな彼女を見送りながら、俺はふと口を開く。
「そういえば……彼女俺の事全く知らなかったね。説明しなくて良かったのかな」
「彼女は殆ど前線にいらっしゃいますからね。別段説明は不要と思いますわ、今のお姉さまは王国所属というわけではありませんし」
「まぁ……リズがそういうならいいか」
別に何か騙したってわけでもないし。
「それより、彼女に言った通りここまで浸食が広がっているとなると検討が必要ですわ。お風呂場もしばらくは使わない方がよいでしょうし、一度小屋の方へ戻りましょう」
「そうだな」
瘴気獣がついさっきまでいたわけで、しばらくは瘴気の影響が出る可能性がある。この温泉と、奴がやって来た方角へは近寄らない方がいいだろう。温泉はちょっとここよりは距離が離れるけど、別の場所にもあるしな。
「それにいつまでもここにいたらお姉様湯冷めしてしまいますわ。……わたくしで暖まります?」
「それがどういう事をさしているのかわからないけど、とりあえずいいです」




