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ザルツベック大空洞④


瘴気から産まれ、瘴気をまき散らしこの世界を汚染するもの。


本来なら俺のような異世界から呼ばれたものが、討伐する事を求められる存在。


この世界に来た俺が初めて見る存在、瘴気獣は一目見ただけで禍々しいと感じる事が出来る存在だった。


「お姉様、逃げてください」


思わず、腰が引けてしまう。そんな俺を庇うように、リズが俺の前に立ち……術を放つ。彼女が得意とする爆炎の魔法──だが、瘴気獣の元で起こった爆発は明らかにいつもより弱かった。


……そうだ、瘴気は魔力までも減衰させる。いくら優秀な術士とはいえ、まだ若く経験の少ない彼女の術では瘴気獣の対抗手段にはなりえない。


その事を思い出し、俺はリズの袖を引く。


「無理だ、一緒に逃げるぞ!」

「ここは私が時間を稼ぎます! お姉様は早く」


俺の言葉に彼女はそう答え、瘴気獣に向けて身構える。俺もリズも動きはそれほど早くない。単純に逃げても捕まると判断したのだろうが……


そのリズの顔が青白い。精神的なものから血の気が引いているのだろうが、瘴気の影響も受けているのかもしれない。瘴気は吸って即命を落とすほどではないにしろ、人体には害はある。あまり長い時間を吸っていたらまずいはず。


だが、俺の体に不調はない。そう、俺達召喚された人間には瘴気影響しない。


俺は改めて、地面に手をついた。


俺が生やした植物まで、瘴気無効化の効果が適用されているからはわからない。だが、リズの魔術よりは通用する可能性がある。アイツを倒せる程の力はないと思うが、タイテンなら少なくとも足止めできる可能性はあるはず。足止めできれば逃げれるかもしれない。そう思って、力を行使しようとしたその瞬間だった。


──弾け──


森の中に、よく響く、だが静かな声が響いた。それと同時、銀色の何かが瘴気獣の側面から叩きつけられ、こちらへ向かってこようとしていた瘴気獣の大きな体が弾き飛ばされた。


「へ?」


突然の想定外の光景に、俺の口から間抜けな声が漏れる。見上げてリズの顔を見たが、彼女はフルフルと首を振った。


今、一体何が起きた?


あらためて銀色の何かを見ると、そこにあったのは宙に浮かぶ何本からの剣だった。束ねられるようにまとまっていたそれらは、役目を果たしたのかのようにばらけると、瘴気獣を弾き飛ばしたのとは逆方向に飛んでいく。


その光景を視線で追っていると、その向こうから鎧姿の女性がこちらに駆けてくるのが見えた。


宙を漂う剣はその女性の元へと飛来すると、彼女の下半身を覆うような位置で宙を浮いたままその動きを止めた。その光景はまるで大きく膨らんだスカートのようだ。


森の中をかなりのスピードで駆けてくる彼女はこちらに視線を向けると、大きく口を開き、


「離れていろ!」


短くそう叫んだ。


「離れましょう、お姉様」


その言葉に即座に呼応したリズが、俺の腕を掴んで立ち上がらせてくる。


「彼女は召喚者です。任せて問題ありません」


そう告げて、あまり自体が飲み込み切れていない俺の手を引いてリズが駆けだす。それと同時、体勢を立て直した瘴気獣が女性の方へ向けて駆けだした。だが女性はとくに慌てる事もなく、落ち着いた様子でまるで詩でも諳んじるように言葉を発する。


「薙ぎ払え」


それは、まるで彼女の使い魔か何かのようだった。スカートのように彼女の周りを浮いていた剣の半分程度が彼女の言葉に応じて前方へ飛ぶと、大きく左から右へと横薙ぎに瘴気獣の足元に叩きつけられた。その一撃によって瘴気獣は前足を断ち切られ、勢いのままつんのめる。


「穿て」


そうして勢いを止めた瘴気獣に、今度は正面から衝角のような形でまとまった剣が、それこそラムアタックのように顔面に叩きつけられた。更に奴の顔面に大きく食い込んだそれは、そこから花が開くように周囲に広がった。それにより、奴の顔はずたずたになる。


これで本来なら動きを止めそうなものではあるが、瘴気獣はまともな生き物ではない。動きは鈍くなったものの、奴はまだ動こうとしている、


だがそれは彼女も理解していたのだろう。獣の近くまですでにやってきた彼女は、足を止めると右手を突き出す。


「全面攻勢」


彼女の元に残っていた剣も、彼女の元から離れ、元々瘴気獣を斬りつけていた剣と共に、奴の周囲を囲い──


「踊れ」


発せられたその言葉が、死刑宣告となった。


瘴気獣の周囲を囲った十数本の剣は、彼女のその言葉を合図としてそれこそ踊るように激しく飛び回り、瘴気獣はズタズタにされ……十秒もする頃には奴は黒い粒子となり、その姿は消失した。


リズに引っ張られながらちらちらとそちらを見ていた俺の口から、思わず言葉が漏れ出る。


「いや、つっよ」



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