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ロア平原⑤


「覚悟は大丈夫? ヒビキ」

「……大丈夫」

「足が震えてるようだけれど」


ユマの問いかけに頷いた俺に対して、ノインさんが突っ込みを入れてくる。その言葉に俺は「うっ」とうめき声を漏らしてから、気合を込めるつもりで腿をパンパンと叩いた。


「大丈夫!」


今後は力強く答えて、俺は視線を前に向ける。


その先には一本の巨大な植物がそびえていた。高さは俺の身長よりもゆうに高く、その根元には動物の骨らしきものがいくつか転がっている。その見た目は樹木のそれではなくあくまで草のようなものであったが、一本一本がかなりの太さを誇っていた。


この植物の名はタイテン。今回俺達……というか俺が目標としてきた植物の一つだ。


ようするに俺はこれからラーニングするためにこの植物に触れる必要があるんだが……この植物に近づくには、ユマの言葉通りに覚悟を決める必要があった。


……うん、覚悟は決まった。


覚悟といっても、そこまでのリスクは高くない。守るべきところさえ守れれば、ラーニングするまでに大きなダメージを負う事はないハズだ。ラーニングを済ませれば後は──


「リズ、合図したら頼むよ」

「お任せくださいませ!」


リズの元気のいい返事に、俺は笑みを返す。

うん、その後は彼女が何とかしてくれるハズだ。


よし。


「ノインさん、行きます」

「わかったわ」


俺の言葉にノインさんが抜剣するのを確認し、俺はゆっくりとタイテンに向けて歩き出す。さぐるようにすり足でだ。そのすぐ後ろでノインさんも動き出す気配を感じた。リズとユマはそのままだ。これは予定通り。


そうやって20mくらい進んだ辺りだろうか。タイテンの枝葉のいくつかが揺れた。それを見た俺は歩みを止めて、左手を握って脇を締め、拳を顔の前に持ってくるように移動させた。そして一度後方を確認し、ノインさんと頷きあってから──俺は一歩前に踏み出した。


その瞬間だった。根本から幾つも伸びている枝葉の内数本が──俺の植物の認識とは大きくかけ離れた動きを見せた。


イメージとしてはカメレオンの舌。


数本の枝は一度縮むと、それを射出するかのようにしてこちらの方に伸びて来た。


「ぐっ……!」


伸びて来た枝はまるでタコか何かの触手のように、俺の体の数か所に絡まる。右足首、左の太腿付け根、そして……首元! 右手の方に伸びて来た枝はノインさんが斬り落としてくれたおかげで俺に触れる事はなかったが……絡まった枝──というか蔦は即座に俺の体を締め付け始める。


だが首は腕でガードしていたおかげで、締められる事はなかった。事前にちゃんと確認していたが、さすがにタイテンに即座に骨を折ってまで締め付けるほどの力はない。


俺は首元に右手を伸ばす。左手はガードに使っているから動かせないので。後は触れてほんの少し待てばラーニングできる……そう思った時グンッっと体が前に引っ張られた。


「ひあっ!?」


情けない声が口から洩れると同時に、俺はバランスを崩して地面に倒れこむ。それでも引く力は収まらずそのまま地面を引きずられる。


こんなに引く力が強いのか! コイツ本当に植物かよ!


なんてことを考えている暇もない。更に追加で伸びて来た枝が今度は肩から胸の谷間辺りを通って脇腹に絡みついた。まずい、とにかく腕が動かせるうちに掴まないと! 幸いというかなんというか、最後に伸びて来た蔦は丁度掴みやすい位置だったので慌ててその蔦を握る。……その後すぐに"覚えた"という感覚が来たので、俺は叫んだ。


「リズっ!」

「はいっ!」


すでに事前に準備していたのだろう、彼女が放った魔術が俺とタイテンの本体の間に撃ち込まれ、俺を拘束している枝が一気に切断される。


直後再び枝が射出されるのが見えたが、それは踏み込んで来たノインさんの件によって切断された。


そして次の瞬間にはタイテンの根本が大きく爆発するのが見えた。


最初に枝を切断された時には変化のなかったタイテンだが、さすがに根本を爆破されてしまえばどうにもならないらしい。その巨大な植物は地面に倒れ伏しそのままびくびくとしているようだったが再び枝をこちらに射出してくる気配はなかった。


「大丈夫?」

「はい」


駆け寄って来たノインさんが俺の体に絡みついた枝を握って引っ張ると、剣で切断してくれる。


体に関しては締め付けられていた所は多少痛みは感じるが、激痛というほどではなく動くには問題なかった。


「離れるわよ」


全ての枝を斬り捨てたノインさんの手を借りて立ち上がると、念のためタイテンの方を警戒しつつ距離をとって行く。そうして先ほど枝が伸びて来た場所より離れた所までたどり着いて、俺はようやくため息を吐いてから、小さくガッツポーズをして呟いた。


「タイテン、ゲットだ!」



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