ロア高原②
ちらりと横目で確認してみれば、ユマが"切り札"の一つに手を掛けているのが目に入った。
「ユマ、俺の方で迎撃してみる。駄目だったらフォローよろしく!」
「りょーかい!」
そのユマに対して声を掛けてから、俺は駆けてくる狐擬きの方に体を向けて腰を落とす。
ユマがリズやノインさんの支援を求めなかった以上、ユマの切り札はあいつらを何とかできるレベルのものなんだろう。それでいて今の状況で使わないのなら、かなり貴重な物なんだろう。
だったら俺がアイツ等をなんとかできれば、その貴重なアイテムはキープできる。そして最悪失敗しても後はユマがなんとかしてくれる。
だから俺はやれる事をやろう。今後の事を考えたらただ見ているだけにもいかないのだから。
大地に触れた手に力を籠める。使うのは両手。頭には生やしたい植物を双方の腕に向けてイメージする。消耗は激しいが効果範囲的にすぐ側で使う事はできないので、出来るだけ離れた位置で生やせるように力を使う。──距離があってはっきりとはわからないが、これで奴らのすぐ前方に草が生えたはず。
そしてそのすぐ後にその場に飛び込んだ獣たちが、立て続けに転倒した。
……よし!
生やしたうちの一つは以前俺が襲われた時に使用したヌベタの草だ、その草を勢いよく踏んだ獣たちはその分泌された粘液によって転倒する。そして更に先頭を走っていた2頭に衝突した残りも巻き込まれて転倒した。
──これで勢いが止まった。そこに追い打ちをかけるように、もう一種別の草を生やす。
伸びて来たのは地を這うように広がるヌベタとは異なる、小さな樹木のように幾つもの葉を伸ばして上に向かって伸びる植物だった。それが勢いを止めた獣を囲うように伸び、その中央に座する花……といういうよりウツボカズラのようなものを獣たちの方へ向けて──その中からうっすらと紫色に色づいた煙のようなものを噴出した。
次の瞬間、獣たちが甲高い鳴き声を上げた。先頭の二匹はその鳴き声を上げた後、地面の上でびくびくと痙攣しだす。残りの三匹の内、一匹は前の二匹と同様に倒れ伏し痙攣しだし……なんとか立ち上がったの残りの二匹は「ギャン!」と大きく鳴いた後、倒れ伏した二匹は放置してよろよろとしながらすごすごと退散してゆく。
「……っし!」
その光景を見て俺は、声と共に地面についていた手を握りしめ強くて前に引いた小さなガッツポーズをしていた。
あの獣の名前はコクウという。事前に調べたロア平原の生息生物の情報の中にきっちり記載されていたなかの一種類だった。その特徴は──非常に発達した嗅覚。恐らく先ほども俺達の戦闘で生じた血の匂い辺りをその嗅覚で捉えてやってきたのだろう。
だが、それほどまでに優秀な嗅覚なら弱点にもなりうる。
先ほど俺が生み出したのは、ハザト大森林でラーニングしたユーリカという植物だ。最初に覚えたプリシャーと似ているが、その植物が吐き出すのは催涙ガスではなく、酷い悪臭のするガスである。
そう、コクウたちは俺達ですらダイレクトで嗅いだら倒れてしまいそうなその悪臭を、その優れた嗅覚でダイレクトに吸ってしまったのだ。
その結果は見ての通り──直撃を受けたコクウたちはその悪臭に耐え切れず失神し、なんとか意識を保った二匹を朦朧とした状態で逃げ出していった。作戦大成功である。
襲撃が完全な風下からだったのが助かったぜ。これ風向きが逆だったら壮絶な自爆になるからな……
とはいえ、これで倒しきれたわけじゃない。どれくらいかかるかはわからないがいずれ回復して復活してくるハズだ。俺は再び地面に手をつくと、力を送り込んでユーリカとヌベタを枯らす。それから腰に下げた少し大きめのダガーを抜いて、生唾を飲んだ。
今の失神をした状態なら武器を使った戦闘などしたことはない俺でも、アイツ等を倒す事ができる。事前の学習でどこを刺せばいいかだってちゃんと勉強してあるんだ。俺にだってやれるハズ──
「お見事、ヒビキ」
そんな俺の肩をポンと叩いて、ユマが俺の横を駆け抜けていった。
「あ、ユマ!」
「トドメ差してくるわ! ヒビキはそこでじっとしててね!」
「あっ……」
そういって手を振って、ユマは数十m先の倒れたコクウの元へ駆けてゆく。俺が皆の元から離れる事を危険と思ったのか──或いは俺が躊躇わずにアイツラに止めを刺せないと思われたか……どちらにしろその点を心配されたんだろうなぁ……俺獣とか捌いたこともないって話ユマにしたこともあるし。
うう、採取者としては早く慣れてそういった心配させないようにしないとなぁ……獣の体の一部も素材になる事あるんだし。




