ロア高原①
おしっこちびりそう!
別に膀胱が限界が近いとか、女性の体は尿道が短いから我慢が云々とかそんな話ではない。
今、俺の周囲ではいくつもの音が鳴り響いている。何かがぶつかり合う音、爆音、獣の吼え声、唸り声。
温泉のある街から旅立ち日を重ね、目的地にたどり着いた俺達は早速洗礼を受けていた。
第二の目的地、ロア高原。ハザト大森林と違いはよく開けたこの地にはある特徴がある。
それは好戦的な獣たちがそこら中に闊歩しているということだ。その場所に立ち入ればそこら中で獣たちが争う弱肉強食の世界が目に入る事になる。
当然人間も足を踏み入れればその世界に巻き込まれる事になる。
事前に調査はしていたので知ってはいたし、その覚悟をした上でやって来た訳ではあるんだけど。
踏み入れてそれほど経たないうちに集団に襲われるとは思わなかったんだよな!
調べた限りはロア高原の外周部分はそれほど獣の数は多くなく、いたとしても食料元の豊富な中央地帯からはじき出された弱い生物か”はぐれ”であり、強い動物の群れと遭遇する確率は低いとあったんだけど。
まぁ確率低いっていってもゼロじゃないからね!
リズが爆発や衝撃波の魔術を使って襲い掛かってくる獣たちを弾き飛ばす。その魔術をかいくぐりこちらに肉薄してくる獣はユマが放つ水の弾丸やクロスボウの一撃で迎撃する。それすら抜けてくるものはノインさんが受け流し、切り伏せる。
俺達を襲ってきているのは猿と虎を合わせたような怪物だった。その胴体部分は虎のような立派な体躯をしているが、その体毛は猿のような毛色だ。そして顔と尻尾は猿に酷似しているが、口だけは大きく裂けており巨大な牙を備えている。前の世界の記憶から見るとひどくアンバランスさを感じる獣だ。
そんな怪物が七匹、群れを成して襲ってきたのだ。
だが俺を除いて他の三人は冷静だった。視界が開けた場所だったので、襲撃に早々に気づいたのも助かった。尤も視界が開けているからこそこちらの存在に気づかれた可能性も高いが。獣たちの襲撃に気づいた三人は即座にフォーメーションを取り、見事にその襲撃を捌いている。すでに二匹は物言わぬ躯となっており、残りの五匹もその体躯のどこかに傷を負っていた。前回のハザト大森林ではその実力をみることはなかったが、今は充分すぎるほどに見せつけてくれていた。
ん? 俺は何をしているのかって?
何もしてませんよ!!
考えてみてもくれ、俺は普通に暮らしている分には身の危険を感じるような事に遭遇することはまずない日本で暮らしていたわけで。そんな俺がこんな化け物じみた獣に、しかも集団で襲われて平気でいられるわけないだろ! 事前に覚悟をしていたとはいってもさ! 一応ハザト大森林でハリオンに襲われかけてるけどあれはすぐに圧の強すぎる大ハリオンが現れたせいで、ある意味そういった恐怖は消し飛んだともいえるし。
むしろ、襲い掛かってくる連中の姿を目の当たりにしてもおしっこちびらずに踏みとどまっているのを褒めて欲しい! ノインさんにも言われたけど、こういった時に護衛対象に変に動かれると逆に困るといわれたのを守っているのだ。足は竦んでいるし、震えてるけどな!
それに動かずガクブルしている俺にも、一応の役目もある。
俺達は現在元々の進行方向、風上の方から襲撃を受けている。その結果どうしても戦闘をしている三人はそちら側に意識をさかれてしまっているが、周囲には俺でも感じ取れるくらい強い獣の血の匂いが漂っている。これを嗅ぎつけて風下から獣がやってくる可能性があるのは解っていた。だから現時点では戦闘ではほぼ役に立たない俺は出来るだけ後方に注意を払うようにしている──って考えてる側から何か見えるぅ!
「後方、獣の姿! 数は4……か5!」
まだ距離があるので具体的な姿は確認できないが、茶色の何かがこっちに向かってきているのが見えたので俺は即座に声を上げる。
「ちょっと……厄介ね!」
背後から聞こえるユマの声。確かに襲撃してきている猿顔がまださばき切れていない状態で敵の増援はなかなかに厳しいだろう。それでもそも声に切羽詰まった感じがないのは余力がある感じではある。まぁユマはいざとなったらいくつか切り札があるっていってたしな。
首元にぶら下げておいた小型の双眼鏡を覗いて姿を確認すると、それは狐のような獣だった。ただやっぱりその口元に牙が見えるから真っ当な狐ではないのは確か。
そんなことより、だ。こいつは事前に調べた限りだと、明確な弱点があるはずだ。見間違いでなければ、俺でもなんとか対処できるかもしれない。




