ハザト大森林⑥
そんな感じで使えそうな植物や、希少な薬草をラーニングしつつ、俺達は森の中の行動範囲を広げていった。当然ハリオンの活動予測範囲には近寄らないようにだ。
幸いな事に、今の所ハリオンを含めて魔物の類の襲撃は受けていなかった。トラブルといえばちょっと危ない植物に引っかかったくらいだ。
誰が引っかかったかって?
ハイ、ワタシです。
よりによってキャリア短いとはいえ採取を本業にしているといえる俺が引っかかるとか、情けないほどにも程がある。しかも大転倒するしさぁ。
まぁそれ以外には大きなトラブルが起きていない。ハザト大森林の探索は実に順調と言える……と思ってたんだけど。
ハザト大森林での散策を開始して一週間程たった頃。その日の散策を終えて、汗も流して借りている四人部屋(さすがに個室4つ借りるのは費用が掛かりすぎるし、二人部屋二つにしようとしたらリズが「ヒビキ様と一緒の部屋がいいですわ!」と主張したのでそうなった。まぁ費用は抑制できるし、ノインさんも構わないといってくれたので……俺自身は少しの間ユマと同室で暮らしてたから今更だし)でのんびりしていると、ベッドの上に座ったユマが何やら難しい顔で地図と睨めっこしている事に気が付いた。
「ユマ、どうしたの?」
つい先ほどまでリズにマッサージをしてもらっていたため(公爵令嬢にマッサージしてもらうのってどうなんだ……しかも筋肉痛が出てきてるの俺だけだし)ベッドの上でうつ伏せになっていた俺は、ベッドの上に両手をついて体を起こした。マッサージを終えた後そのまま俺の横でゴロゴロしていたリズがちょっとびっくりしていたが、とりあえずそれは気にせずに声をかけると、ユマは地図から目を離してこちらに視線を向けて来た。
「うん、ちょっと気になる事があってさぁ」
「気になる事って?」
「事前に貰っている情報と、薬草の位置にずれが生じているんだよねぇ」
「ずれ?」
「いくつか、予測した場所で空振りしたのがあったでしょ?」
「ああ、うん」
確かに、事前に入手した情報から散策したが目的のものが見つからないのは何度かあった。その植生情報は少し前の奴だからそういう事もあるだろうと思ってたんだけど……
「明らかに何者かに食べられたものもありましたし──ハリオンの移動が影響しているのではないでしょうか?」
ベッドの上で仰向けになったリズがユマではなく俺の方を見上げながら、そう予想を口にする。
「ああ成程。本来その辺りにはいなかったその薬草を餌にする動物がハリオンから逃げてきて、新たな餌場になっちゃったのか」
「うん、それは勿論あると思うんだけど……それよりちょっと大きな問題がおきるかもしれないわぁ」
「大きな問題?」
「うん、一部の薬草がハザト大森林では取れなくなるかも」
「? どういうこと?」
ハリオンから逃げた動物が餌を求めて移動したとしても、別段数が増えたわけじゃない。採取できる場所は変わるかもしれないが、取れなくなるということはないのでは? ハリオンの領域に踏み込まないといけないかもしれないが。
そんな疑問に対して、ユマはすぐに答えを返してくれた。
彼女は一つ指を立て、
「例えば、グラシアンっていう草はあるんだけど。これ毒にも薬にもならないザ・雑草なんだけど、繁殖力がやたら強くてね。ほっておくとどんどんそこら中に生えちゃうの。そうするとグラシアンに栄養を取られちゃって、他の草が伸びなくなっちゃんだぁ。ただ、このグラシアンは餌にする動物が多いから──」
「……成程、解ったぞ。ハリオンが他の動物を餌にすることによって、ハザト大森林の中の動物の絶対数が減る。それによって、グラシアンが大繁殖する可能性があると」
武器のメンテをしていたノインさんが顔を上げて言った言葉に、ユマが頷く。
「そういうことだねぇ。それにそれ以外にも例えばジーギスって草があるんだけど。これの実を餌にするスラーっていう動物がいるのね。この二つって実質共生関係でさ、スラーが食べて糞をすることで別の場所で繁殖するのね」
「動物と植物は密接に影響しあっているって事ですのね」
成程なぁ。ハリオンが好物の餌を失ったことで森の様々な植物にも影響が出る可能性がある……いや、もう影響が出ているのか。
「とはいえ、これに関しては話が大きすぎてわたくし達がどうこうできる話じゃありませんわよね」
「だな、ハリオンをすべて狩るというわけにもいかないだろうし。ギルドの人間が対策を考える事だろう」
「そうなんだけどねぇ」
二人に言われて、ユマもこれ以上考えて無駄と考えたらしく地図を放り投げて横になった。それを見てノインさんは武器のメンテに戻り、リズも眠くなってきたのか体を起こして自分のベッドに戻っていく。
そんな3人の姿を見ながら、俺はある事を考えていた。
もし、もしだ。コッコラをどこかでラーニングできたなら、この問題どうにかできるんじゃないかと。




