リズロッテ・アークレイン⑤
えらい勢いで自分を推してくるリズロッテさんをなんとか押しとどめた俺は、横に座るユマの事を見る。
彼女は、明らかに困惑した表情を浮かべていた。
そして恐らくは俺も同じような表情を浮かべていると思う。
確かにリズロッテさんが上げた条件は魅力的だ。実力も費用の面(勿論無償はありえないだろうが)も、見張りの件についても。だが、彼女の言った中でただ一つだけメリットにならない点がある。
俺の正体についてだ。彼女は俺の正体を知っているから気にしなくて済むと告げたが、それは知られてもいい情報だ。実際後々トラブルになる事を避けるため、ノインさんにもちゃんとその点を伝えた上で契約交渉するつもりだった。付き合いの浅い相手に伝える意味はないが、王都の貴族や王宮に関わっていた人間の大部分が知っている情報ではないので、あまり隠し通す意味はないのである。
それに対して、俺の能力を知られた場合、王都の貴族に知られる可能性は高くなる。リズロッテさん自体はそれを利用しそうな気配はないが、その親である公爵自体がどう考えるか不明だ。
キャラ濃いけど、王城でも割と献身的に世話をしてくれた彼女だ。実力あるフリーの女性魔術士はかなり貴重な存在だと思うので、出来れば頼みたいところではあるんだが……
答えを出せず、困惑顔のユマと満面の笑みのリズロッテさんを代わる代わる見てしまう俺。しばしの沈黙の後、口を開いたのはユマだった。
「アークレイン様」
「ここには公爵令嬢として座っているつもりはございませんので、敬称は不要ですわ。それに呼び方もリズ、或いはリーゼで構いませんわよ、クレインさん」
「わかりました。私もユマで構いません。……それで、二つほど確認させていただきたい事があるんですが」
「なんでも聞いていただきたいですわ!」
ユマの言葉に、彼女は自らの胸に手を当て、自信満々の顔で頷きを返す。
「それではまず一つ目。ご存じの通り私達はこれから旅に出ます。その場合、旅先まで監視の人間は付いてくるんですよね?」
「そうですわね、そうなると思いますわ」
「その旅の中で、ダンジョン等に潜る可能性もある旨は募集要項に書きましたが、そういった際は監視の方はどうするのですか?」
ユマのその問いに、リズロッテさんはわずかに考える仕草を見せた。それから改めてユマの方に顔を向けて彼女は口を開く。
「恐らく……潜る事自体を辞めるよう依頼するか、同行を願い出るとは思いますわ。召喚者の方は庇護対象であり明確に危険な場所に向かうのを黙ってみているとは考えられませんもの」
げ……それは不味い。
レアな薬草は当然採取が難しい場所にある事が多い。ダンジョン然り人の生活圏を外れた場所に向かう必要がある。そういった場所に出向くからこそ、ノインさんだけではなく魔術士の募集も掛けたんだけど……覚えるだけならそれほど不自然な動きには見えないかもしれないが、何の力も持たないハズの俺がわざわざ草を採取に行くのも繰り返せば不審がられるかもしれない。
だとしたら──
「もう一つ確認です。もしこの旅の最中にヒビキになんらかの能力が見つかった場合、貴女はどうしますか?」
「どうもしませんわよ?」
即答だった。
「規則により、強制的に能力の開示を求める事はできませんし。まぁ普通は召喚直後に能力確認させて頂いておりますので、そこで発覚いたしますが……なので、ヒビキ様が望まない限りは伝える事はありませんわね」
「公爵家としても囲うつもりはないと?」
「これもヒビキ様が望まない限りありませんわね。そのつもりなら王城にいる間に動いておりますし」
そう断言する彼女の顔は、これまでと変わりがない。自信満々の笑みを浮かべたまま。
その顔をユマはじっと見つめ一つ頷いてから、俺の方に向き直って行った。
「ヒビキ、彼女に依頼しましょう。断る理由がほぼないわ」
「……うん、そうだね」
どうせ監視がつくなら、明らかにこっちに友好的でここまで言い切ってくれる彼女に頼んだ方がいいだろう。もちろん彼女との付き合いがまだほぼない状態な以上、すべての言葉が信用に値するかわからないけど、恐らくは報告という仕事の為に俺についている相手よりはマシなはず。
俺はユマと頷きあった後、リズロッテさんと向かい合って告げる。
「契約に関する詳細はこれから詰める事になりますが、よろしくお願いします」
「ありがとうございますわ! これからずっと一緒ですわね、ヒビキ様!」
いやずっとかどうかはわかりませんけど!?




