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ぬくもり


「ねぇ、ヒビキ。何かあったの?」


──衛兵の詰め所でいろいろ事情説明を終えた俺は、あの後そのままユマの家へと向かった。採集は途中で終わった形になったが、そもそも今回街の外で採集は一切していなかったし、今日の薬草はすべて家を出る前に採取して鞄に詰め込んできてある。なので今日の納品に関しては問題ない。


次回以降の事を考えると、話をしなきゃいけないことがあるんだけど……


今日の薬草を並べつつ、どうやって切り出そうかと考えていた時にかけられたのがその言葉だった。


「……突然どうしたの?」


今後の説明の都合上話はする必要はあったから隠すつもりはなかったんだけど、まだそのつもりのないタイミングだったので思わずそう聞き返してしまうと、ユマは眉尻を下げてから俺の事を指さした。


「肩。さっきから時たまちょっと震えてる」


……。


自分ではその震え自体には気が付いていなかったけど、理由自体には心当たりがあった。


どうやって話すかとか、事情を説明する事を考えたときに、先ほどの出来事と、その時感じた感情がどうしても思い出されるのだ。震えが出ているとしたらそのせいだろう。


「それに、入って来た時あからさまに安堵した感じがあったし」


……それは自覚があった。


大丈夫だと思いつつも、外を歩いている間はもしあいつらの仲間に遭遇したらとかそういった不安があった。ユマの家という"安全地帯"にたどり着いた時に安心したのは確かだ。しかしよく見られているなぁ……


ここまで感づかれていれば、話さない理由はない。どちらにしろ話すつもりだったのだ。なので、俺はユマに対して今日起きたことを一から説明した。


一通り話を聞き終えるまで眉根を寄せて、相槌だけで静かに俺の説明を聞いていた彼女は、話が終わると俺の方に歩み寄ってきて……慈愛のこもった視線を向け、


「ユマ……?」


名を呼ぶ俺の声には答えず、彼女はこちらへ腕を伸ばすと、背中に手を回しぎゅっと抱きしめてきた。


「え、ユマ、何? どうしたの?」

「ごめんねヒビキ、怖い事思い出させちゃって?」


ぎゅっと抱き寄せられているので、耳元で聞こえてくる声。


「話している最中も時折体震えてたわ」

「……それは気にしないで。どちらにしろ事情話さないといけないと思ってたし。それにほら、俺は元は男なんだから、大丈夫だって……」


そこまで口にした所で、ユマが俺を抱きしめる力が強くなった。


「それは関係ないでしょ?」

「え?」

「男だとか、女だとか。元がどっちだったとしても、そういった目にあって怖い気持ちになるのは仕方ないわよ」

「……うん」

「ふふ、震えが止まって来たわねぇ」


……情けない話だけど。こうしているとユマにすごい守られている気がして、落ち着いてきた。そんな俺の後頭部を優しく撫でながら、彼女は言葉を続ける。


「ねぇ、ヒビキ」

「うん」

「今日は……ううん、今日からしばらくウチに泊まるといいわ。不安でしょ? 自宅で寝るの」

「うん……でもいいのか?」


大丈夫だと自分の中で言い聞かせていたけど、不安があったのは嘘じゃない。その点ユマの家はウチより街の中心部に近くより治安もいいし、彼女自身が一人暮らしで中には希少な薬もあるから防犯対策もきっちりしている。──何より夜も一人にならずに済む。ありがたい申し出ではあるけど……


「一応俺も元は男なわけだけど……」

「ヒビキはどっからどう見ても可愛い女の子にしか見えないよぉ~。むしろこんな可愛い子を一人で帰せないかなぁ」


抱き合っていた体を離し、視線を合わせたユマの顔には、いたずらっぽい笑みが浮かんでいた。その表情を見て、俺の顔にも自然と笑みが浮かんだ……と思う。


そうだよな、別に俺がユマに何かしようという考えがある訳じゃないし、うん。


「……それじゃしばらく、ご厄介になってもいいか?」

「ヒビキなら大歓迎だよ~。あ、でもそしたら一度着替えとか取りにいかないといけないよね。一緒に行こうか?」

「いいの?」

「今仕事ちょうどキリ良かったからへーき」

「……ありがと、ユマ」

「いえいえ。じゃ、いこっか」

「うん」


彼女の言葉に頷きながら。単純すぎるかもしれないけど、俺は一つの決心がついた。だから彼女と並んで彼女の部屋を出た後、俺は彼女に向けて言った。


「ユマ。今日の夜、大事な話がしたいんだ」





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