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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私の愛

作者: ツツジ

自死表現あります。ご注意ください。


 



()()()()()()()()()





 厳粛に見守っていた中、ヴェール越しの声は誰の耳にもはっきりと聞こえた。

 結婚相手への愛を誓う場面で、真逆の言葉。参列者からどよめきが起こる。

 唖然とする神父や花婿を他所に、花嫁はまたもや決まりを破ってヴェールを自分で上げた。綺麗に化粧が施された、美しき少女。


 紅蓮の瞳は何かしらの、確固たる意思を表していた。






 アネモネ・クローバー侯爵令嬢。筆頭侯爵家の長女であり、完璧な淑女と男女問わず人気者で、最も王妃として相応しいと民からの評判もいい令嬢だ。





 今日は彼女と、王太子となった()()()()ヘーゼル・ディーハンドとの結婚式である。

 つい先月、貴族学園を卒業したヘーゼルはアネモネの一つ下。彼もまた、文武両道でカリスマ性も高く、王としての素質が充分にある。

 アネモネは王城で王妃教育の最終段階を受けながら、ヘーゼルの卒業を今か今かと待ちわびていたという。

 



 その想いが報われた良き日のはずなのに。

 参列者を見渡すアネモネの表情は酷く冷たい。




「あ、アネモネ……?」

「気安く呼ばないでくださいませ」

「何で……」


 冷たく突き放され、ヘーゼルの顔に絶望が浮かぶ。金髪碧眼と見た目も完璧なヘーゼルを、アネモネは鼻で笑った。


「何で? それはこちらの台詞ですわ。私、()()()()()()()、言いましたわよね? 『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』と」


 その内容に、覚えがある者達は視線をさ迷わせた。

 ヘーゼルもまた、さらに血の気を失っていく。

 ここまでしかと告げた所で、アネモネはようやく目的の人物達を見つけた。





 国王、王妃、両親と兄。

 そして、()()()()モンド・ディーハンドとその横に座るダリア・カレンティナ男爵令嬢。

 皆一様に、青ざめていた。その様子に、アネモネは呆れてため息をついた。





「あら? 何故、皆様が被害者のような顔をされているの?

 幼い頃から愛して愛して止まないのに、学園で男爵令嬢と真実の愛とやらに落ちたモンド様。

 去年の卒業パーティーでモンド様に寄り添い、私に対して誇らしげな顔をしていたダリア嬢。

 令嬢らしくもなく取り乱して泣き叫ぶ私に、嘘をついて王妃教育を続けさせた国王様王妃様。

 私の愛を知りながら、王妃になりたいからだと嘘を言って権力を手にしようとする御父様御母様御兄様。

 初恋の人が手に入ると嘘に乗ったヘーゼル様。

 どこが被害者ですか?」


 スラスラと出てくる言葉は、とてつもない醜聞ばかり。

 だが、誰もがアネモネに気圧されて動けない。


「王城の侍女(すずめ)はお喋りでいいですわね。おかげで、騙されていると分かりましたもの」



 第二王子の方が優秀だから、第一王子は男爵令嬢との愛に生きるとして玉座から引いてもらおう。

 アネモネ嬢は王妃からすげ替えるには惜しいから、そのままにしよう。

 婚姻さえしてしまえば、諦めつくだろう。



 歌う様に聞いた話を告げていくアネモネの姿は、悲しげだが何よりも恐ろしい。

 最後まで告げ終えた彼女は大きく息を吐き、一切の感情をその顔から捨てた。





「馬鹿にしないでくださいませ」





 たった一言。それだけで、アネモネの抱えた怒りの重さを知るには充分だった。

 震え、歯を鳴らし、目を見開く。十人十色でも恐怖を表す人々に、アネモネは小さく吹き出し、高らかに笑った。


 とても楽しそうに、ウェディングドレスの裾を持ってその場で回る。

 狂ったように、否、狂った笑い声が静まり返った教会で響き渡った。


 恐ろしい。逃げたい。しかし、怖くて動けない。

 たった数分しか経っていないが、アネモネ以外には何時間にも思えただろう。





 不意に、アネモネが立ち止まる。両腕を広げて、今日初めて笑みを浮かべた。



「さて、皆様ご覧下さい。脳裏に焼き付けてください。感情を軽んじて国の歯車にされかけた令嬢の、()()()()()ですわ」






 刹那、アネモネの体が()()()

 血が、肉片が、辺りに降り注ぐ。

 近くにいた神父や花婿、その親類達が赤く染まっていく。






 それを皮切りに、教会は阿鼻叫喚の図へと化した。






















 時限式の爆薬を飲み込み、体内から爆死。




 アネモネの死を、宮廷医師はそう判断した。

 だからといって、あの死に様が記憶から消えるわけでない。


 参列者はこぞって、アネモネが名を挙げた人物を吊るし上げた。

 全員が自分達以上に苦しんでいたが、元を正せば悪いのは自分達だ。自業自得だと、罪悪感を減らす為に叩き続ける。




 それから僅か数ヶ月で、国は地図から消えた。

 王族や高位貴族はダメージが抜けきらず、まともに国を動かせていない。

 その上、参列者には他国の来賓も居たのだ。弱った国を見逃すはずはなく、易々と攻め入り手中に収めた。


 アネモネの評判は、他国にも轟いていた。幼い頃からしっかりとした令嬢。私利私欲を持たないのではと心配する声も少なくはなかった。

 その彼女が泣き叫ぶ程の願いを踏みにじり、時限式の爆薬を服用しての自死を選ばせるなど、あってはならない事だったのだ。

 原因である王族と貴族を公開処刑とし、侵攻は終わった。





 アネモネの墓は王城の跡地に建てられ、二度とこの様な事件を起こしてはならないという各国の戒めの象徴となった。

 



連載が上手く筆が進まないので、気晴らしにさらっと書いた短いお話でした。

定期的にやべぇ女が書きたくなります。

なお、アネモネもクローバーも花言葉が怖いリストから選びました。


他、異世界恋愛、ハイファンタジー連載などしております。

宜しければそちらも読んでみて下さい。

感想、誤字脱字、ブクマ、いいね、全てお待ちしております!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 皆さん疑問を呈してないので、私の読解力の問題で申し訳ないのですが、侍女のくだりがわからなくて。 どのように騙されて第二王子との結婚を決めたのでしょう? 本当は真実の愛に落ちてないのに…
[良い点] こういう話、好きです! 次期王太子妃だって人ですもの、道具のように使われるだけではたまりませんよね。 愛していた人に裏切られ、ただ利用されるだけの人生。とても切ないです。
[一言] 衝撃! 花言葉知りたいけど知りたくない矛盾がぐるぐるしています。 心情からも心に残る作品でした。 ヤベェ女を見たい怖いのぐるぐるにハマっています笑
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