結婚を申し込もうとした幼馴染が上司と結婚し、怪我で騎士を辞めた俺が守れたもの
初めての口付けは幼馴染とだった。
まだ二人とも子どもで、路地裏を駆けずり回って遊んでいる、本当に子どもの頃だった。俺はみんなを守る騎士に憧れていて、幼馴染は俺のお嫁さんになるのだと言っていた。
やがて俺は騎士の学校に合格して、見習い騎士になった。
幼馴染も大きくなって綺麗になっていった。俺の職場まで差し入れを持ってきてくれた幼馴染を先輩たちも可愛いと褒めるほど、幼馴染は可愛かった。
俺が見習い騎士からようやく騎士になって、幼馴染に結婚を申し込もうとした頃、幼馴染は俺の上司と結婚すると言ってきた。
子どもの頃から一緒になるもんだと思っていた幼馴染の一言が俺には信じられなかった。
そのせいだったかもしれない。
盗賊を捕縛する時に、ぼんやりしていた俺は腕に怪我を負い、二度と剣が振るえなくなった。
剣の振るえない騎士など騎士とはいえない。
俺は騎士を辞めて、街の門兵になった。
街に出入りする者の審査や入街料の徴収が主な仕事だ。荒事が起きても取り押さえることができれば剣を振るうこともない。
ある日、荷車の荷物の中にリボンの端を見付けたことから、俺の人生はまた変わった。
荷車を改めたら、身形の良い女児が見付かった。服装からして貴族だろう。
女児を保護し、荷車の持ち主を拘束して、騎士を呼びに行ってもらった。
攫われた貴族のお嬢様を偶然発見した俺は、元騎士という経歴からお嬢様の家で雇われた。
剣が振るえなくても、使用人として困ることはない。騎士時代に身に付けた礼儀作法や教養のおかげで執事見習いで雇われた。
奥様やお嬢様の付き添いで出かけて、俺の上司と結婚した幼馴染を見かけた。幸せそうに笑っている。貴族になった幼馴染は、使用人になった俺に気付くことはなかった。
街の門兵であった時よりも穏やかな日々を過ごし、お嬢様付きの侍女と想い合うようになり、恋人になった。
お嬢様の婚家にも妻と共に行き、お嬢様付きの侍女と執事としてお仕えしている。
お嬢様の参加したお茶会で控えていた時に幼馴染の噂を聞いた。平民で後ろ盾のなかった幼馴染との関係も、熱が冷めてみれば粗が見えたようだ。差し入れまで持って来ていた相手が騎士を辞めてから音信不通であること。妻の座に収まってしまえば、貴族の妻として人脈を広げようとはしないこと。貴族として相応しくしたい為に浪費や散財ばかりすること。幼馴染に愛想が尽きた夫は離婚し、親の知人の貴族の令嬢と再婚したそうだ。
子どもを取り上げられ、幼馴染は平民の両親の下に戻ったと、弟の手紙にあった。
騎士ではなくなった俺でも、攫われた幼いお嬢様を助けることができた。
剣を振るえなくなっても、俺の手は誰かを守れるんだ、と思いながら妻を見る。お嬢様のお子様の乳母になった妻と乳兄弟になった子ども。
幼い頃には思い描いていなかった家族がここにいる。