98回目 相談役 織田信長
信長の扱いはアツヤも困っていた。
今まで通りにやるなら、信長も処刑となる。
生かしておくわけにはいかない。
だが、実際に信長を見て、アツヤは考えを少し変えた。
(武士らしくないんだよな)
理由はこれである。
武家の出であるし、立派な武士である。
しかし、その考えや行動が武士らしくない。
どちらかというと現代人に近い。
そこが今まで通りの処分を躊躇わせた。
この時代にこういう人間は少ない。
このまま殺すのは惜しい。
(それになあ)
武家の事を知ってる人間も欲しい。
もとより全滅させるつもりではいるが。
考え方や行動を知ってる人間は、いてくれると助かる。
「────とまあそんな訳だ」
「なるほど」
説明に信長は頷く。
「その能力をうちで使ってもらいたい」
「そういう事であれば異存はないが……」
生きながらえる事が出来るなら、それはありがたい。
しかし、そうどうしても引っかかる事がある。
「しかし、我が家中の者達は?」
「皆殺し」
それは変わらない。
芝上で欲しいのは信長だけだ。
他が必要というわけではない。
むしろ邪魔でしかない。
そんな連中を生かしておくわけにはいかなかった。
信長だけが例外なのだ。
「いっておくけど、交換条件で他の連中を助けるとかはないから。
それならあんたにも死んでもらった方がいい」
釘をさしておく。
信長を生かす為に他の連中の助命などしてられない。
「確かにあんたは貴重な人間だ。
出来れば手元に置いておきたい。
だけど、その為に他の連中を生かしておくってんなら、一緒に処分する」
ここだけは譲れない部分だった。
ブラック企業体質の一掃。
それがアツヤの求める所だ。
それを微塵も残すつもりはない。
その為に武士など一人として生かしておくつもりはない。
「まあ、あんたが拒むならそれでいい。
ただ、処刑はしない。
あまり自由はないけど、こちらの監視下で生きてもらう」
酷い話である。
便利そうだから生かしておく。
しかし、必要のない縁者は全て皆殺し。
そんな状況で生きていけというのだ。
「ロクデナシとしかいえませんね」
「分かってるよそれくらい」
言われるまでもなくアツヤにも自覚はある。
だが、だからと言って辞める理由はない。
「諦めろ。
自害するってんならどうしようもないけど。
こちらとしてはあんたを殺すつもりはない」
もうそれは決定事項だった。
信長の意思の確認もしない。
本人の意向などどうでも良いことだった。
ただ、芝上にとって必要だからと生かされる。
芝上の意向だけがそこにあった。
それで信長が自害するならどうしようもないが。
だが、アツヤ達の方で信長を殺すつもりはない。
攻撃してきたらやむをえないが。
そうでないなら生かしておくつもりである。
(まがりなりにも天下人にまでのし上がった人だし。
その知見も欲しい)
未来を知ってるアツヤのそういった考えもある。
他の多くとは違う発想。
それが欲しかった。
アツヤ自身の好奇心もある。
天下に王手をかけたのは何だったのかを知りたい。
それは芝上にもよりよい何かをもたらすだろうとも。
「まあ、そういう事だから。
あとはお前の自由にしろ。
死ぬのもよし。
戦うのもよし。
それならそれでかまわない」
そう言ってアツヤは姿を消す。
それを見て信長はため息を吐いた。
「……是非もなし」
今の信長に出来る事など高が知れている。
言われたとおり、自害するか、返却された佩刀で攻め上がるか。
それくらいしかないだろう。
さもなくば、言われたとおり飼い殺しにされるか。
それ以外の選択肢など存在しない。
存在しない選択肢を、これから作っていくのもあるが。
どのみち、今の信長に出来る事はほとんどない。
ただ、不思議と死ぬつもりはなかった。
なんとなく見届けたいとは思った。
芝上がやろうとしてる事を。
それは信長がやろうとした事にどこか似ている。
だから、どうなっていくのか知りたいと思った。
あるいはそれは、死なないための言い訳なのかもしれない。
その為に現状を正当化しようとしてるだけなのかも。
信長もそうは思う。
それでもだ。
芝上が何を為そうとしてるのか。
それを見届けたいとは思う。
それにだ。
「死んでどうなるというものでもなし」
そんな考えもある。
死んで来世に行くという考えには、どこか信長は否定的だった。
本当にあるかどうかも分からないのに、それを頼ってどうするのかと。
また、仮にあったとしても、それはこの世を全うしてからの話だとも。
信長はまだ生きてる。
生きてるから、これからを見届ける事が出来る。
何が出来るかは分からないが。
それでも、生きてこの世にいるのだから、この世でやれる事をやっていける。
死ぬのはそれからでも良い。
「さて、どうなる事やら」
行き着く先がどんなものなのか。
それは分からない。
だが、今できる事をただやっていく。
そう考えてこれからを生きていこうと思った。
芝上家相談役。
それが織田信長の新たな肩書きとなった。




