95回目 侵攻開始 遠江・三河・尾張
織田信長。
この時期では尾張の中にいる領主の一人に過ぎない。
才能はあるが、それでも何が飛び抜けてるというわけでもない。
そう評価されていた。
「そんな人間をですか?」
「ああ、そんな人間をだ」
アツヤの声にますます訳が分からなくなる。
(そんなに凄い奴なのか?)
疑問がわいてくる。
だが、アツヤたっての願いだ。
「分かりました。
生け捕りにしてきます」
そう言うしかない。
そんなわけで、尾張侵攻に際して通達が出される。
『織田信長を生け捕りにせよ』
いきなりの無茶な話である。
いったいどうしたんだと誰もが疑問を抱く。
しかし、そう言われたならばそうするしかない。
幸いにも、
『無理なら無理でしょうがない。
諦める』
とも書いてある。
信長の生け捕りに拘る必要はない。
それだけでもかなり肩の荷がおりる。
作戦に少々の修正を加え、尾張に侵攻していく。
今回に限って、美濃からも出兵がある。
ただし、尾張の軍勢と戦うのが目的ではない。
西側から逃げないように、そちらをふさぐ為だ。
そちらから攻め込まれる可能性も考えてもいる。
やってきても撃退は出来るが、面倒は少ない方が良い。
そうして包囲をしてから行動を開始する。
尾張の制圧と、勢力の壊滅。
これらは今までと変わらない。
ただ、織田信長の確保という面倒が加わる。
これが侵攻を今までよりも面倒なものにした。
それでも戦力差はあるので追い込む事は出来る。
問題は生け捕りに出来るかどうかだ。
なかなかの難題である。
「でも、失敗してもいいって言ってるし」
「駄目でもともとでやりますか」
実際に戦う事になる者達は、そう言って行動を開始していく。
戦闘は順調に進んでいき、尾張の勢力を潰していく。
手こずる事はほとんどない。
唯一の例外が信長のいる所になった。
何せ、生きて捕らえねばならないのだ。
どうしても攻め方が及び腰になる。
いつもより攻略に時間がかかり、戦い方もおっかなびっくりになる。
ただ、結果を見れば、全ては上手くいった。
信長は生きて捕らえられ、それ以外の軍勢は壊滅となる。
損害も思ったほどには大きくはならなかった。
ただ、時間だけは今までよりはかかってしまった。
慎重さが必要になるだけに、どうしても行動が慎重になる。
いつものように鉄砲や大砲をぶっ放すわけにはいかなかった。
それが前線の兵士達の不評としてあがっていく。
いつもならもっと楽に攻略出来たのにと。
まったくもってその通りなので言い訳も出来ない。
「そこまでする必要があったんですか?」
ハルヨシらもそう聞いてくる程だ。
「それをこれから確かめる」
アツヤはそう言って捕らえた信長の所へと向かう。
それを聞いたハルヨシは「はあ……」と漏らして首をかしげる。
「いったい、何をそこまで拘ってるのやら」
いまだ真意が分からない。
そんな疑問をよそに、アツヤは信長の所へと向かった。
場所は既に聞いている。
出向くのはそう難しくはない。
そうして向かった先に、一人の男がいた。
そいつの頭の中に話しかけていく。
「初めまして」
「ん?」
その男は顔をあげ、周りを見渡す。
「はて……」
「ああ、ちょっと待ってくれ。
姿を見せるから」
そう言ってアツヤはその男の目の前に姿をあらわした。
「これで見えるかな」
「うぬ……」
相手は目の前にあらわれたアツヤに驚く。
「面妖な……」
「まあ、そうだろうね」
当然の反応に肩をすくめる。
いきなり声をかけられ、しかも突然あらわれる。
驚くのが普通だ。
盛大に驚かないだけでも大したものだ。
肝が据わっているのだろうか。
「まあ、そう警戒しなさんな。
確かに幽霊や化け物みたいになってるけど。
基本的には人間だから」
「……そうなのか?」
「多分ね」
答えあぐねる問題だった。
自分でも自分の状態が分からない。
人ではないのは確かだが。
「とりあえず、幽霊とでもしておこう」
そう言ってアツヤは問いかけへの返答とした。
「それよりも聞きたい。
あんたが信長か?」
「いかにも」
相手は頷いた。
「俺が織田信長だ」




