63回目 かなわないから一事に徹する
ここでも今までの戦場と同じような展開になっていく。
兵の質と数においては芝上が有利。
少なくとも遠距離攻撃を続けてる限りは芝上が勝てるだろう。
しかし、指揮官の能力では宇都宮成綱が上回る。
この人物も英雄と呼ぶにふさわしい人物だ。
ヨシロウではまともに相手にならない程に。
それは分かってるから、ヨシロウも無駄な事はしない。
並みの武将程度の能力しかないのは、本人が良く分かってる。
だからこそ、派手な事はしない。
「守りに徹しろ!」
今は攻撃に出るときではない。
ひたすら守りを続けて、敵を迎撃する。
そうするしかない。
「味方がやってくるまでの辛抱だ」
こちらから打って出ない。
敵に向けて射撃を繰り返す。
とにかく近づけさせないこと。
それがヨシロウの出した指示になる。
「この際だ、荷物も壁に使ってしまえ」
それはそれで問題だが、今は敵兵を削るのが先だ。
下手に損害を出すわけにはいかない。
物資運搬の荷車や、それに乗ってる荷物も壁に使っていく。
下手に物資を守ろうとして人を前に出せば損害が増える。
そうなれば、物資を守るどころではない。
「とにかく身を守れ。
それを優先しろ」
宇都宮成綱の軍勢はまっすぐに芝上に襲い掛かっていく。
それを石弓と火縄銃で撃退する。
双方、そんな事を繰り返していった。
ただ、宇都宮勢の方が分が悪い。
遠距離からの攻撃を心がける芝上になかなか近づけないからだ。
ただ、宇都宮もそれに気づいて行動を変えていく。
弓を射掛け、射程外の部分を通って輸送・補給部隊に接近していく。
特に騎馬隊は速度を活かして行動していく。
「馬を狙え!」
ヨシロウも指示を出していく。
騎馬隊を放置するのは面倒だ。
その速度を削るために、馬を狙わせる。
乗ってる兵はどうでも良かった。
馬から下りれば、ただの歩兵になる。
そうなれば、機動力は使えない。
その指示通りに馬が狙われていく。
矢や弾が馬を貫いていく。
全部は片付けられなかったが、大部分は削ることが出来た。
これで輸送物資を狙われる可能性は減った。
(まあ、それくらいは)
そう思いながらヨシロウは次の指示を出していく。
補給物資を狙われる。
その可能性は十分にあった。
だから、この護衛は可能な限り重点的に行われている。
そのために直援が3000も付けられているのだ。
更にいうならば、その物資すらもどうでも良いものである。
大事なのは人だ。
人夫や御者、それらが守られればそれで良い。
物はいずれ回復する事が出来る。
しかし、人はそうはいかない。
技術や能力を持った人間を死なせるわけにはいかない。
それらは可能な限り守らねばならなかった。
現在の芝上は人材不足である。
人数ではなく、人材がだ。
能力のある人間がとても少ない。
だから人を使い潰すわけにはいかない。
それを守るためなら、物資などどうでもいい。
それくらい優先順位に差がある。
なので、敵があらわれた時点で、輸送・補給部隊の者達には逃げるように伝えてある。
言わなくても命惜しさに逃げ出す者達が多いのだが。
命令を伝える伝令からそれを聞いて、よりはっきりと逃げ出す者達もいた。
これで人の被害は大きく下げることが出来る。
もちろん物資も大事だ。
だが、いずれ回復できるそれらよりも、人が優先される。
物資がなくなることで、戦争が継続できなくなっても。
それでも構わなかった。
ならば、また物資を集めて攻め込めば良いのだから。
それよりも、攻め込んできた敵を撃退していく。
その方が今は大事だった。
芝上も敵がかなり弱ってるのを知っている。
諜報活動で、相手の兵力も判明している。
ならば、ちょっとした損害でも宇都宮にとっては大きな戦力低下になる。
優先して敵を打ち倒していかねばならない。
必然的に、お互いの弱点を狙った戦いになっていく。
宇都宮は相手の物資を。
芝上は相手の人を。
それぞれ潰して、退却させる。
それがこの戦場における目的になっていた。
同時にそれが、この戦争を終わらせる引き金になっていく。
この場における戦闘が、この戦争における決戦になっていく。
宇都宮川はそうと考えてこの場に臨み。
芝上はそうと知らぬままに戦闘に突入していく。
戦闘そのものは芝上有利ではある。
遠距離射撃で宇都宮勢は数を減らしていく。
たとえ接近したとしても芝上勢も不利とはいえない。
確かに接近戦はそれほど得意ではない。
だが、出来ないわけではない。
そうなっている。
実戦を経て、場数を踏んだ兵士が多くなっている。
接近戦でもそれほど不利になる事もなくなってきている。
また、石弓や火縄銃などの遠距離攻撃を主体としてるのは確かだが。
芝上勢も訓練で接近戦のやり方を身につけている。
その技は決して精緻で複雑なものではない。
しかし、短期間で人が身につけるには十分なものだった。
「そりゃあああああああ!」
叫び声と共に振り下ろされる。
槍が、刀が、銃剣が。
あるは突き出される。
まっすぐ前に。
それらは単純だが効果的に敵を倒していった。
振り下ろす。
突き出す。
単純な動作だ。
だからこそ無駄が無い。
簡単におぼえられる。
短期間で身につける事が出来る。
その技で宇都宮勢を圧倒していく。
圧倒は出来なくても、互角の戦いに持ち込んでいく。
それでも芝上勢の方がやはり弱い。
個人的な能力でいえば、武士には負ける。
より長期間の訓練をつんできた者達に。
しかし、それを数で補っていく。
よほどの差がなければ、同時に2人3人を相手に戦えるものではない。
射撃で敵の数を減らされた宇都宮勢はこの点で不利である。
数の差が戦闘の結果にあらわれていく。
結局、宇都宮勢が求めるほどに、物資を破壊する事は出来なかった。
それをやるには、抵抗する者達が邪魔になってしまう。
奪うにしても燃やすにしても、作業時間が必要だ。
それをとる事が出来ない。
持ち込んだ松明であちこちの荷物に火をつけているが。
芝上の動きを止めるほどの被害を与えることは出来ていない。
そうするうちに芝上勢の一部が後方に戻ってくる。
襲撃を聞いて本隊の一部が駆けつけてきた。
それらが宇都宮勢に襲い掛かっていったところで、勝敗は決した。




