48回目 二兎を追う者は一兎をも得ずとはいうが、両方とも見過ごせないならやるしかない
まず、目標として、上杉謙信の排除。
これは外せない。
戦争の天才に攻め込まれたら、さすがに対処しきれない。
実際にどれほどの才能があるのかは分からないが。
危険な敵はいない方が良い。
同様に、武田信玄にも出て来たもらいたいくない。
戦争の天才を相手に互角に渡り合った男だ。
そんなのが同じようにすぐ隣にいるというのが怖い。
「こうなるとなあ……」
それを考えると色々と悩む。
果たして上杉謙信を排除するだけで良いのかと。
武田信玄の抑えに、上杉謙信を残した方が良いのではないかと。
しかし、そんな考えはすぐに捨てる。
「どっちも最初に消しておいた方がいいか」
片方を残すと危険だから、両方を残す。
そう考えてしまいがちだ。
しかし、そうではない。
危険な輩を二人も残してどうするのか。
それらがどっちを向くか分かったものではない。
ならば、さっさとどちらも潰した方が良い。
「どっちもやるか」
そういう結果になる。
そうするしかない。
ただ、その為にやるべき事もある。
やはり、足元を固めておく必要がある。
その為にも、勢力を拡大せねばならない。
体制がまだ出来上がってない今、攻め込むのは色々な意味で危険だが。
それでも、グズグズしてる余裕もない。
軍勢が今少しまともに編成出来たら。
石弓や火縄銃がもう少し揃ったら。
兵士だけでなく、指揮官ももう少し揃ったら。
そうしたら攻め込む事にする。
「あと、5年ってところか」
特に理由はない。
だが、それを目安にする事にする。
そのことをソウイチロウ達に伝えていく。
話を聞いた彼らは、一様にため息を吐いた。
「相変わらず無茶を……」
「らしいと言えばらしいけど」
「困ったもんです」
「まったく」
芝上四兄弟はそう言って苦笑していく。
「まあ、言いたい事は分かりますから」
その理由もしっかり理解してるようだった。
「あと5年。
確かにそれくらいは必要である。
また、それくらいで事に出なければならない。
時間は、有るようで無いものだ。
呆けていたらあっというまに無くなる」
「忙しくなりますね」
そして、その話をもう一人にも伝えていく。
白髪と皺が増えた男は、
「無茶を言いますな、相変わらず」
と笑った。
「だが、あなたらしい」
「そう言われても、なんか嬉しくない」
むくれた表情をするアツヤ。
そんな顔を見て、
「まあ、そういう顔をしてくれるなら、言った甲斐がありますわい」
とチヨマツは笑った。
「しかし、ここまで大きくなるとは」
シミジミと呟くチヨマツ。
「村の底辺で虐げられていたのが嘘みたいです」
「そういや、あれから何十年も経ってるんだよなあ」
あまり年齢とかを気にする必要が無いからか、アツヤはすっかり忘れていた。
「もうそんなになるのか」
「早いものです」
流れる歳月の早さに驚く。
その間に、アツヤは特に変わる事もなく。
というか、自分の姿がどんなものなのか、ろくに確認も出来てないが。
しかし、目の前にその歳月を体現したかのような者がいる。
「あのガキがねえ」
そう思ってしまう。
小さな子供だった。
それが今や老人だ。
人生50年のこの時代では、もうお迎えが来る頃合いだ。
幸い、生活環境が良いせいか、まだ元気なものだ。
それでも老いは隠せない。
(もう、そんなに長くはないな)
そう思うと、アツヤの胸に寂寥がこみ上げてくる。
やむない事だが、切ないものでもある。
「しかし……」
「うん?」
「この先どうなるんでしょうなあ」
「さあねえ」
お互い何ともいえない事を口にする。
先の事とは何なのか?
秋の実りか、国の行く末か。
あるいは、そう口にしたチヨマツの余命か。
そのどれなのか。
あるいは全部か、それ以外の何かか。
何にしても、
「分からないよ、何がどうなるかなんて」
そう答えるしかない。
「まあ、上手くやっていくよ」
「不思議な力でですか」
「そうなるな」
「それは頼もしい」
「そんな便利なもんでも無いけどな」
神がかった力があるのは確かだ。
しかし、自由にふるまえるわけではない。
なので、チヨマツが求めるような何かを提供出来るかどうかは分からない。
「まあ、頑張るよ」
「そう言ってもらえると助かります」
笑ってチヨマツは頭を下げた。
本当に何がどうなるのかは分からない。
分からないなりに何とかやっていくしかない。
その厳しさを今までの日々で知った。
それはこれからも続くだろうと。
(頑張らないとなあ)
あらためてそう思い、これからについて考えていく。




