44回目 質はともかく数で圧倒する
相模・伊豆の南方方面は、防御部隊を残してほぼ回収。
荷馬車などを利用して可能な限り迅速に兵士を移動させていった。
そしてそのまま北の戦線に向かわせていく。
それらはまず、長尾軍に向かっていく。
領内に侵入して来たそれらの、長く延びた側面を突くために。
勝てなくてもいいから、とにかく敵を分断。
少しでも数を減らしていく。
この時、芝上軍は石弓を可能な限り装備して事にあたる。
そして、遠距離射撃を旨に攻撃をさせていった。
接近戦はなるべく避ける。
大多数が相模・伊豆の切り取りに参加した農民達だ。
戦闘力はどうしても武士には劣る。
その差を埋める為に、遠距離攻撃に徹する。
接近されたら勝ち目が無くなる。
ならば、接近される前に倒す。
その為にも、可能な限り遠距離攻撃が出来る者を増やす。
その為に、石弓を可能な限り持たせていた。
連射は出来なくても、数で押せば相手を凌ぐ可能性が出て来る。
そして、連射性の悪さは、装填手を別に用意する事で解決する。
射撃する者の後ろに、三人四人と装填係を置いておく。
そうすれば、射撃の担当者は次々に矢を撃つ事が出来る。
これはアツヤの提言だった。
「前にこういうやり方を見た事があるから」
前世でたまたま見たテレビの内容を思い出す。
それは、火縄銃を使った連射方法だった。
いわゆる三段撃ちというものではない。
射手と装填手。
これを分けておく。
射手は射撃に専念し。
数人の装填手が火縄銃に弾を込めていく。
こうする事で、射撃人数そのものは減るが、射撃速度が上がる。
射手も、後ろに回って装填するという手間をかけずにすむ。
装填手は射撃を考えずに専念する事が出来る。
この利点はとても大きい。
アツヤはそれを石弓でもやらせていた。
石弓も装填に時間がかかる武器だ。
一人で全てをやっていたら連射が出来ない。
これが石弓の弱点の一つである。
加えて、通常の弓よりも射程が短いというのもある。
だが、使うのに筋力が必要無いこと。
操作が簡単な事。
この利点はとてつもなく大きく捨てがたい。
訓練時間の短縮に繋がる。
それを活かすために、アツヤは運用方法を変える事で対応していった。
おかげで、素人同然の連中をそれなりの戦力にする事が出来た。
その攻撃にさらされた長尾軍は各地で分断。
そして各個撃破されていく。
やむなく長尾軍は撤退に追い込まれていく。
多大な損害を出して。
しかもその撤退も大変な苦労をしてのものになる。
彼等は上野に結構食い込んでいた。
その分、撤退に時間がかかってしまう。
追撃する芝上軍は容赦なくそんな長尾軍を打ち破っていった。
そうして追撃に1万ほどを用いて、残りは宇都宮に向かっていく。
この時点で芝上軍も1万5000ほどに減っている。
数が減ってるのは、戦闘によるものもあるが、それだけではない。
道に迷ったり、進軍速度についていけずに脱落した者。
また、脱走した者もいる。
これらが結構な数になっている。
だが、宇都宮軍もそれは同じだ。
1万の軍勢も今は8000程に減っている。
数の上では、芝上軍の方が有利だ。
この数で敵を打ち砕いていく。
上野に入った宇都宮軍は、これに苦戦する事になる。
緒戦では勝利し、上野の奥深くまで食い込む事が出来たが。
それが仇になっていく。
芝上軍は攻め込んできた宇都宮を分断し、各個撃破していく。
内部に入り込んだために、逆に地の利を取られてしまっている。
後続部隊が次々に芝上軍に襲われていく。
それを警戒して宇都宮軍も足を止める。
まずは敵を迎撃しようと。
しかし、そうすれば今度は更に後続の輸送部隊を狙われる。
物資が強奪され、生命そのものをおびやかされる。
更に芝上軍の幾らかは、下野国に入り込み、村や町を襲っていく。
もはや芝上のお家芸とも言える、後方蹂躙だ。
戦場での勝利ではなく、戦争そのものの継続を困難としていく。
更には、敵の国力そのものに損害を与えていく。
「卑怯な!」
宇都宮側はそう叫んだとか。
しかし、そんなの芝上にとってはどうでも良いことだ。
「攻め込んできたんだろ。
それくらい覚悟しろ」
相手の嘆きを聞いた芝上側はそう返したという。
もはや武士同士の戦いではなくなった。
戦争は国も民衆も巻き込む悲惨なものである。
その認識があるかどうかの違いが出てきた。
芝上は、つまりはアツヤは戦争を国を巻き込んだ争乱としており、
この時代の他の武家は、武士同士が争うものという考えでいる。
実際には民衆も巻き込んではいるのだが。
土台となる考えに違いがあるのは確かだ。
その違いが損害の大きさに出て来ている。
たまらず宇都宮も撤退を始めていく。
そしてこれにも芝上軍は攻撃を加え、だめ出しをしていく。
かくて宇都宮も長尾と同じ末路を辿った。
この戦争において、長尾も宇都宮も同じくらいの損害を出した。
両者共に1万の軍勢を繰り出したが、それが半数以下になるまでにすり潰されている。
対して芝上は、3万の軍勢を出して、1万近くの損失を出した。
差し引きでは2万の生存者を出している。
ただ、芝上の1万の損失は脱落・脱走なども含めてだ。
戦闘による損失はその半分くらいである。
決して小さなものではないが、敵に比べれば小さな範囲でおさまった。
なお、前哨戦である国境での防衛。
武家によって行われたこの防衛戦における損害は全く含まれていない。
アツヤもソウイチロウ達も、これを戦闘による損害とは数えなかった。
命令違反による自壊。
いっそ、裏切り行為による結果として処理した。
この一戦により、芝上は周辺国の兵力を大きく削った。
また、相模・伊豆は国そのものを蹂躙し、国力を大きく減退。
当分は攻め込む余力も無くなった。
長尾と宇都宮は、そうした面ではまだ余裕がある。
しかし、失った兵力の大きさに、簡単には攻め込めなくなった。
まずは回復に専念する事になる。
何はともあれ、芝上は防衛を成功させた事になる。
当分は攻め込まれる心配は無い。
「そしたら、越後に攻め込もう」
アツヤは次の行動の指示を出していった。
「厄介な奴が出て来る前に」
多少なりとも歴史を知るアツヤは、目の前にある脅威の排除を考えていた。
上杉謙信という軍神の。




