39回目 まともにやっても勝てないのなら
それは対策会議での事。
迫る敵にどうするべきか。
対策を考える為に主な者が集められていた。
前線で防衛にあたる者はさすがにいないが。
それ以外で主要な者は議場に集められていた。
その場にてソウイチロウが放った言葉である。
「これより、第一回切り取り合戦を始めまーす」
居合わせた者は、何を言ってんだと思った。
そんな気持ちをどうにか落ち着け、
「殿、いったい何を」
と居合わせた者の一人が言う。
そんな彼に、
「いや、冗談じゃなく、本気でやる」
余計に質の悪い事をソウイチロウは口にした。
「どういう事ですか?」
弟のコウジロウが尋ねる。
他の者と違って、呆れたりはしていない。
兄の性格は彼がよく知っている。
どんなに茶化した物言いをしても、こういう場所でバカを言う者ではないと。
「何か策があるので?」
「そう大したもんじゃない」
ソウイチロウは応えて説明をしていく。
「敵が迫ってるのは分かってる。
こっちも対処しないといけない。
けど、正面切って戦っても勝てるとは限らない」
「そりゃそうだ」
はっきりと言うコウジロウに、武家出身者が青筋を立てる。
彼らからすれば、自分達の実力を下に見られてると思ったのだろう。
ただ、実際にはコウジロウの言うとおりである。
単純な戦力差と戦闘体制の状態。
それを考えれば芝上の方が不利だ。
これが、どこか一つ相手ならどうにかなるだろうが。
さすがに多方面から襲撃されたらどうにもならない。
「だから、基本的には防衛主体でやっていく。
攻め込んできた連中には、打って出ないで守りを固めてあたっていく」
「そうするしかないわな」
コウジロウにも異存はない。
武芸を中心に戦争に関わる様々な事を学んできたのだ。
現状、それが一番だというのは分かる。
ただ、兄の言い分からそれだけで終わらないのも察してる。
「でも、それだけってわけじゃないんだろ?
切り取りって言ってんだから」
「もちろん」
それを聞いて周りの者達もざわめいていく。
「それはいったい?」
武家のその意味を問うていく。
いったい何を考えてるのかと。
「なに、簡単な事だ」
笑いながらソウイチロウは考えを伝えていく。
「前にやった事を、もっと大規模にやるだけだ」
そして布令が出される。
支配下のあらゆる町や村に。
高札が掲げられ、布告を担当者が声に出して周囲の者達に伝えていく。
それが広がり、あちこちから人が集まっていく。
ただ、それは整然とした列を作ってのものではない。
雑多に一人二人と、やる気のある者だけが動いていく。
それらは記された目的地へ向けて進んでいく。
途中、道案内として、分かれ道や定まった距離ごとに人が置かれる。
役所の者であるそれらは、やってくる者達に声をかけ、進むべき方向を示していく。
これにより、誰も迷わずに目的地へと向かっていく。
南へ南へと。
そうして向かう先に集合地点がある。
上野・武蔵から集まった者達は、その場で出身地と名前を告げる。
それが書き記され、参加資格を得ていく。
相模・伊豆の切り取り合戦の。
『この度、相模・伊豆での略奪強盗を許可する。
手にしたものは全て自由とする。
なお、届け出をしないで行った者は厳罰とする。
届け出は、次の場所で行う。
道案内は曲がり角や主要な道にて行うので、そちらへ進むように』
出された布令である。
これがソウイチロウの策だった。
策と言って良いか悩ましいが。
まず、真っ正面から戦ってもしょうがない。
やりあって勝てるとは限らない。
どれほど有利な状況であってもだ。
その為、勝てる手段をとっていく事にした。
つまり、相手後方へと向かい、各集落を襲う。
あるいは、城や砦などを襲い、倉の中身を強奪する。
つまりは上野と武蔵でやった事だ。
これを更に拡大して行う。
それを促すための、切り取り次第とした。
つまり、略奪強奪の自由である。
通常、褒美や報酬は領主や統治者など軍を率いる者が出す。
その上で、ボーナスとして攻め込んだ地域での略奪強奪を認めたりする。
酷い話だが、これがボーナスのようなものになっている。
もちろん、やり過ぎは厳禁とされている。
その為、戦争してからいくらかは見逃される。
そして、ある程度時間が経ったら取り締まりが行われる。
この取り締まりまでの期間が略奪強奪を認めた期間である。
その後の統治を考えれば当然だ。
民心が離れてしまっては、領地を増やしても意味がない。
そんな地域は、反乱が増発するだけだ。
なので、略奪強奪は基本的に推奨されるものでもない。
だが、ある程度認めないと、兵隊が文句を言う。
命がけで戦って、それで禁欲を強いられるのだから、それも当然だろう。
なので、戦争の度に被害が拡大する。
織田信長などは、こうした行為を厳しい軍律で禁止したというが。
厳しく禁止するほど普通の行為として行われていたのだろう、それまでは。
そんな強奪略奪を最初から認める。
好きなだけやって良い。
ただし、対象地域は限定する。
期間は二ヶ月。
その間は好きにやって良い。
「という事を国中に伝えろ」
ソウイチロウは会議の場にいる者達にそう言った。
「その間、敵軍は前線で迎撃する」
「それで、集めた連中は?」
「道を外れて敵地に向かってもらう」
「そこで好き勝手やってもらうと」
「そういう事」
「なるほど、昔やった通りだな」
上野・武蔵を取る戦い。
その時に、足りない戦力を補う為に、敵の後方を襲撃した。
それを今回もやるだけだ。
可能な限り広範囲で。
「でも、いいのか。
他の国が荒れるけど」
「かまわないよ」
ソウイチロウは即座に返事をする。
「どうせ手に入れる事は出来ないし。
なら、少しでも相手に痛手を与えた方がいい」
「それで、村を襲えと」
「そうだ。
手に入らないなら壊した方がいい。
相手の生産力を削れる」
残酷なものいいに、居合わせた武家などは背筋が冷たくなった。
そして、相模・伊豆に向けて何万という人間が殺到する。
荷車や荷馬車を持ち込んで。




