34回目 統治するための機構、いわゆる役所すらも無いんです
国中を引っかき回した。
比喩や誇張ではなく、文字通りにそうした。
人を引っ張り、たき付け、動かし。
そうして広範囲に渡って敵を翻弄し。
国主を始めとした勢力を引っ張り回した。
そうして得た上野・武蔵の二カ国。
小さな集落の村長がなしえた成果としては異例である。
だが、大きな問題は即座にあらわれた。
単純に、統治機構がない。
その事による問題があらわれていった。
当たり前だが、村一つを治める程度の人員しかいない。
そこから一気に市町村を三つほどの規模の地域を手に入れたと思えば。
その三つの市町村を治める人材や機構をととのえる前に、国を手に入れてるのだ。
統治などまともに出来るわけもない。
もちろん、国といっても現代的な意味での国ではない。
日本の旧国の事である。
都道府県といった方が分かりやすいだろう。
なので、国家を統治するというのとは意味が違う。
ただ、都道府県として見ても、その統治範囲は極度に大きい。
始まりとなってる上野国。
現代でいうところの、群馬県。
ここから始まり、南下して。
埼玉・東京・神奈川といった三つの都道府県を手に入れている。
合わせて四つの都道府県をこれから治めるのだ。
市町村すらまともに統治出来る体制をもたない者がだ。
それでも、手に入れた以上はどうにかせねばならない。
その為の手を打っていく。
まず、アツヤが手を回していく。
その為に、制圧した地にいる者達の髪の毛を切り取って燃やした。
それにより、多くの者達が霊魂吸収が出来る状態になっている。
これを使って、悪さをしたり考えたりしてる者を即座に死滅させる事が出来る。
これにより、最低限の治安は保っていった。
また、統治者であった武家なども、これで手なずけていく。
逆らえば干からびて、しなびて死んでいくと。
それが嫌なら統治に協力しろと。
こうして、統治機構をほぼそっくりそのまま使う事が出来るようになっている。
そこで働く者達の忠誠心など全く期待出来ないが。
恐怖で縛り付ける事が出来てるならそれで良かった。
人間、そういう時にこそ勤勉さを発揮する。
死ぬ恐怖に逆らう者などいない。
腹をくくるか、投げやりになってるならともかく。
だが、それだけではいけないのも確か。
ここから少しずつ手を入れていく事になる。
現状は現状で問題もあるのだ。
その問題を少しずつ片付けていく。
「何はなくとも、足下からだな」
アツヤは国の状態を表示しながら呟く。
全体の運営は当面は何とかなる。
吹けば飛ぶような体制ではあるが。
それでもしばらくはどうにかなる。
そうした安全性が確保出来てるのを確かめ、身近な場所の改善改良をしていく。
まずは基点となった村の統治機構。
そこから発展して、近隣の村や町を統治する機構。
そこを芝上を中心としたものにしていく。
その為にも、組織図を明確にしていく。
どんな役目や役割が必要で、どういった仕事をさせていくのか。
それを文字や組織図として書き出していく。
他の者に伝えていく為だ。
まず、何をやるのかはっきりさせねば、人は動く事が出来ない。
組織としてやっていくなら、必要になる。
ここで、既存の統治機構のあり方が役立つ。
全てをそのまま使うわけではないのだが。
それでも、もとになるものがあると分かりやすい。
何も無いところに何かを作るより、ひな形があった方がやりやすい。
あとは必要に応じて、付け足したり削っていく。
それでたいていの場合は何とかなる。
そうして出来た組織図をもとに、人を配置していく。
形だけの状態だが、組織らしいものを作っていく。
そして、規約や職務を決めていく。
どんな仕事をするのか、その上で何を守るのか。
これもハッキリさせておく。
当面は、今まであった役所のようなものの仕事を継続していく事になる。
そうして実際に仕事をやらせながら、実務をおぼえさせる。
その際に、少しだけ手を加えていく。
性格や人間性を見て採用した者達。
役所の職員として働いてもらうこれらに、最低限必要になる教養を授けていく。
読み書きや計算に実務に必要な知識など。
ほとんどがレベル1やレベル2の水準ではある。
だが、それらを最初に与えて、実務に馴染むまでの時間を短縮する。
おかげで、稼働からほどなく業務が回るようになった。
これには役所を切り盛りしていた武家の者達も驚いていく。
そうして組織の土台を作る。
それがある程度軌道にのったら、より大きな組織に成長させていく。
これを繰り返して、芝上家の足下に組織を作っていく。
その頂点に芝上家の者を据えて。
お飾りでもいいから、誰が頂点なのかをはっきりさせねばならない。
もっとも、チヨマツの息子達はお飾りではなく、相応の能力はもってる。
仕事に慣れればしっかり切り盛り出来るようになる。
そうなるまで、それほど時間もかからない。
最初の半年で、村の周辺を含む地域をまとめる組織が出来る。
次の半年で、それが更に拡大する。
次の年には、それが市町村規模に拡大した。
三年目に入る頃には、アツヤが手を加えずとも動くようになった。
「まずは、これで良しと」
まだまだやらねばならない事はある。
だが、とりあえず土台は出来上がった。
少しだけ安心できるようになった。
ただ、ここで避けては通れない出来事も起こる。
チヨマツの隠居。
当主の交代。
もうこれが避けられなくなってきた。




