31回目 歴史上の有名人を意識して
「こうなったら、四の五の言ってられないな」
北条が巨大化する前に。
そうなる前に、相手を封じ込める。
その為にも、上野国を制圧する。
それを土台にして、武蔵国をとる。
これが出来なければ先はない。
問題は、どうやってやるのかである。
一気に勢力を拡大拡張したとはいえだ。
周りに比べれば小勢力でしかない。
頑張っても大した事は出来ない。
それは分かってる。
そんな状況で出来る事は何か?
どうやってこの状況を打破するのか?
普通にやったら勝てるものも勝てない。
何か出来るなら、とっくに手を打っている。
「さて、どうしたもんか」
アツヤも頭を抱える。
とりあえずは情報を集める。
既に行われているが、それを更に進めていく。
どこに道があり、どこに村があり、どこに町があるのか。
そして、敵となる者達がどこにいるのか。
更に詳しく情報を集めていく。
それらをもとにして、何をどうすればいいのかを考える。
普通にやっていたら絶対に勝てない。
それは分かってる。
ならばどうやってしのぐのか?
この状況をどうやって有利にしていくのか?
とにかく兵力が全然足りない。
何万と繰り出せるならともかく。
そんな事が出来るような大所帯ではない。
そもそも、家臣といえるような存在がほとんどいない。
そんな状態で、統制のとれた戦闘など出来るわけがない。
計略や謀略の類も意味がない。
吹けば飛ぶような勢力の働きなど、誰が気にするものか。
そんな連中が動いたとて、誰も相手にしない。
そもそも、効果的な策謀など繰り出せるわけがない。
その為の人材も技術も知識もないのだから。
もっとも、このあたりはアツヤが授ければ済む事ではあるが。
「今使えるのは……」
手持ちで動かせるものは何か。
何があって、どれくらい使えるのか。
とにかく考えていく。
手持ちで動かせるもの。
用意出来るもの。
戦いに勝つための手段。
「無い事もないか」
思いつく事はある。
実行出来るかは分からない。
成功についてはもっとおぼつかない。
しかし、この状況でもやれそうな事は一応ある。
「でもなあ……」
問題なのは、それをやらせる事が出来るかどうかである。
「なるほど」
話を聞いたチヨマツも考え込む。
内容はとんでもないものだった。
よくそんな事を思いつくものだと驚いた。
だが、それくらいしか手がないのも事実だった。
「主なものにはかってみましょう」
そう言ってから、息子達と配下を集めていく。
「神託が下った」
集めた者達にそう言って話を進めていう。
「今、我らは厳しい状況にある。
それを救おうと、我らの神は策を授けてくれた」
その声に、村の頃からチヨマツに従って来た者は「おお!」と歓声をあげた。
しかし、無理矢理吸収された新参者は首をかしげていく。
彼らの気持ちをまとめると、次のような言葉になるだろう。
「こいつは何を言ってるんだ?」
口にしなかったのは、干からびて死にたくなかったからだ。
そういう祟りを信じてるのに、神託を信じないのも問題ではあるだろうが。
そして、チヨマツが口にしたのはとんでもない内容だった。
多くの者は呆気にとられた。
血気盛んなものは、「バカな!」と声をあげた。
そんな反応をものともせず、チヨマツは続ける。
「他に方法がないなら、これでいく」
周囲は更に騒然となる。
無茶だ、無理だ、という声が上がっていく。
確かにその通りだ。
だが、チヨマツは気にしない。
「文句があるなら、他の方法を言え。
無理だ、駄目だなんて誰でもいえる。
効果的な提案が出来ない無能はいらん。
居ても邪魔だから、首をはねる」
そう言うと、全員黙った。
無茶苦茶だと思ったが、首を飛ばされてはかなわない。
「言いたい事は分かる」
全員が黙ったところで、チヨマツは考えを伝えていく。
「俺だってこんなの無茶苦茶だってのは分かってる。
だがな、普通にやってたら勝てはしない。
やれる事は何でもやらなくちゃならん」
「…………」
その場にいる者は黙って頷く。
その通りなのは、この場にいる誰もが理解していた。
自分達の立場と周りの状況。
どう考えても最悪だ。
まずいなんてものではない。
本当に最悪なのだ。
そんな状況を打破しようとしたら、普通になどやってられない。
あらゆる手段を使っていくしかない。
それは分かっているのだが。
それでもチヨマツの提案、神託と言われるものは想像を超えた。
「まあ、駄目なら駄目でそれまでだ。
どうせこのままでは潰れる。
ならば、やるだけやってみるだけよ」
その声には、諦観に似た開き直りがあった。
それ故に、なんでもやらかす狂気もはらんでいた。
居合わせた者達はそれを感じ、背筋に怖気をおぼえた。
「どうせ駄目なら、せめて嫌がらせくらいはしてやらないとな」
そして、チヨマツは新たに手に入れた領域の者達に通達を出す。
それを受け取った者達は唖然とした。
しかし、逆らう事は出来ない。
そんな事をすればどうなるかは、町や村の者達も知っている。
彼らも自分達の目の前で、人が干からびてしなびてい死んでいくのを見た。
同じ目にあってはかなわないと、言われた通りに動き出す。
それを見てアツヤは「よしよし」と頷く。
「がんばってくれよ。
でないと飲み込まれるからな」
このままではのし上がってくる者に吸収される。
歴史に名を残す英雄に。
「どこまで出来るか分からないけど。
北条早雲、あんたには負けられない」
妙に対抗意識を燃やし、まだ見ぬ英雄をしのごうとする。




