25回目 領主を配下に
領主の館に出向いたチヨマツは、すぐに中に入る。
相手を油断させるために、物資を運び込みながら。
荷車にのった食料などを見て、領主らは深く頷く。
「でかした!」
賞賛すらした。
しかし、館の中に入った途端にチヨマツは刀を抜く。
「何をしてる、控えろ!」
叱責が飛ぶ。
しかし、気にする事なくチヨマツは、
「この館は我らが制圧した。
大人しく従え!」
と逆に威圧する。
「何を考えてる、血迷ったか!」
「いたって正気だ。
だからこのような事をしている!」
問いただす領主にチヨマツも言い返す。
「此度の出兵、あまりにも落ち度が多い。
こんな事には従えない」
言いながら領主とにらみ合う。
両者ともに譲れないものがある。
一歩も引かない、それどころか相手を飲み込もうとする。
「ええい、話にならん!
者共、こいつを斬れ」
当然領主はそう言う。
チヨマツもそれは予想している。
「もし、ここで我らが戻らねば、町に火を放つよう指示をしている。
それでも良いなら、斬りかかってこい!」
大見得を切っていく。
さすがに領主も少し驚くが、
「やれるものならやってみろ!」
気にせず始末をつけようとする。
チヨマツの言ってる事がハッタリだと思っての事だ。
しかし。
チヨマツは手にした太鼓を叩く。
その音に応じて、館の外、取り囲む塀の向こう側から矢が飛んできた。
いずれも火矢だ。
「見ての通り、我らは既に準備万端。
そちらがその気なら、こちらもそのように動く」
さすがにここに来て、領主もこれがはったりではないと考えた。
「こちらに従えば悪いようにはしない。
ただし、やるというなら、町ごと燃やしてやろう」
その言い方に、領主とその郎党もさすがに考える。
目の前にいるチヨマツとその従者は少ない。
荷馬車を引いてきた者を含め、10人くらいだ。
しかし、外には何人なのか。
それが分からない。
それらが町に火を付けていったら、どうなるのか。
それを考えると迂闊に動けない。
しかし、領主の近くにいる者達の中の一人が動く。
大柄な体で、長刀をよく使う者だ。
血の気が多いと普段から知られていた者だ。
それがチヨマツへときりかかっていった。
さすがに領主も慌てる。
今、この時にそれは悪手だった。
町が燃やされるかもしれないのだ。
だが、その心配は杞憂に終わる。
決して良い方向にではなかったが。
襲いかかった男。
その長刀が届くより先に、男の首が飛んでいた。
瞬時に近づいて、抜く手もみせずに刀を抜いたチヨマツの次男によって。
その動きを見て、領主も周りの者達も愕然とした。
チヨマツの次男の動きは尋常のものではなかった。
(いったい、何をした……)
目を見張る領主。
動きがほとんど見えない。
本当に瞬く間に武者を一人切り倒した。
それを見て領主は嫌でも理解する。
(勝てん……こんな事が出来る奴には勝てん!)
領主もその郎党も武家である。
武士として生まれ、武士として様々な事を身につけてきた。
だから分かってしまう。
瞬時に切り伏せた者の腕前が。
それを相手にしても勝ち目などないと。
だからといって及び腰になるわけにもいかないが。
勝ち目が無くても譲れないものがあれば退くわけにはいかない。
しかし、それと同時に武士として守らねばならない事もある。
勝てない戦はしてはいけない、やるからには勝たねばならない。
無謀な突進だけが武士のありかたではない。
問題は、その勝ち筋が見えない事だ。
「どうするのだ」
領主達にチヨマツが問いかける。
「我らに従うか、ここで町ごと潰えるか。
選べ!」
容赦のない選択肢を突きつけられる。
それを受けて領主は、
「…………分かった、降伏する」
下手な意地を捨てる事にした。
こうして領主をくだしたチヨマツは、すぐに次の行動に出る。
「では、隣の領地へと向かう。
そこを制圧する」
降した領主と郎党を引き連れて。
「なお、その前にやっておくべき事がある」
そういってチヨマツは、領主や郎党の髪の毛を一房切り取っていく。
それを竈まで行って、火にくべた。
「今後、我らに叛意を抱けば、即座に天罰が下る。
信じるかどうかはそちらの自由。
ただし、やるなら命がけで事におよべ」
一応忠告はしてやった。
聞いた方は、さすがに首をかしげる。
こいつは何を言ってるんだ、という顔をする。
しかし、すぐにその考えを払拭する事になる。
郎党の一人が、その場に膝を突いたのだ。
体をしなびさせながら。
「あ、ああ、あああああああああ……」
悲鳴をあげていく郎党。
それを呆然と見る領主達。
そんな領主達に、
「どうやらこの者、叛意を抱いていたようだな」
とチヨマツは告げた。
その言葉を疑う者はもういなかった。




