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隣人のエルフちゃん  作者: りょう
クルル編② 約束の先
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#55 あの日のヒーロー①

「じゃあ私はここで。クルルはまた今度連絡するわね」


「今日はありがとうございました、奈緒。おやすみなさい」


 ファミレスを出たところで奈緒とは別れて、クルルと二人で家路を歩いていた。


「すっかり夜になってしまいましたね」


「ファミレスで長話していたからな」


「でも楽しかったですよ? 悠さんや奈緒と沢山お話できて」


「俺も楽しかったよ。ただ」


「ただ?」


「ああいうのを人前でやるのは、恥ずかしいかな」


 俺はさっきのあれを思い出して、恥ずかしくなる。ノリだったとはいえ、まさかあんなタイミングであーんなんてするとは思わなかった。


「悠さんはああいうの嫌だったんですか?」


「嫌ではない、けどさ。せめて誰も見ていない場所でやりたかったなって」


「私は平気でしたよ?」


「クルルは、な。俺にはああいう場所でやれるだけの度胸を、今は持ってない」


「今はということは今後は期待してもいいんですよね?」


「過度な期待はしないでくれよ?」


 栞の時にも少しはこういうイベントはあったものの、あの時はまだ中学生だったし、初めてのお付き合いだったから浮かれていた所もあった。

 けどもう俺も間もなく成人だ。恥ずかしいところは恥ずかしくなる。


「それにしても悠さんにも可愛いところがあるんですね。恥ずかしがるなんて」


「からかうなよ。むしろ何でクルルも初めてのはずなのに、恥ずかしくないんだよ」


「二年前に雛にこういうことした方がいいって教えてもらっていたんです。だから練習していたんです」


「あーんって練習できるものなのか......」


 雛もいつの間にそんなこと教えていたんだと思いながらも、クルルが楽しそうに語るのでそれ以上言うのはやめた。


「クルル、一つ聞いていいか?」


「何ですか?」


「クルルは......二年間あっちの世界で何をやっていたんだ?」


「何って正式に長になるために、色々なことをやっていましたよ。エルフ族のトップになるんですから、厳しいこと沢山しましたよ?」


「すごいな。とてもそんな経験をしているようには見えないよ」


「えへへ。これでもすごいんですから、私」


 ドヤ顔を決めるクルル。そんな彼女も可愛らしく思えるが、彼女の言葉以上に厳しい修行をしたのは想像できる。

 それを笑顔で語れるのだから、クルルは本当にすごいのかもしれない。


(皆それぞれが頑張っているんだよな。奈緒も啓介も、雛もクルルも。それに比べたら自分は本当に普通なんだよな)


 特に大きな目標を持っているわけでもなく、ただ平凡な二年間を過ごしていた。


「少し羨ましいよ。クルルも他の皆も」


「悠さん?」


「さっきも言ったと思うんだけど、俺はこの二年間で何もしていなかったんだよ。普通の大学に通って、特に何かするわけでもなく時間だけを過ごしてきたんだ」


 無気力だったとかそういうわけでもない。俺は何もしようとしなかった、ただそれだけだった。


「本当格好悪いよな。偉そうにクルルに色々なこと言っているくせに、自分は何も出来ていないんだよ」


 夜道に自分の声が虚しく響く。それは俺が二年間溜めていた自分の気持ちだった。


「格好悪くないですよ、悠さんは」


「え?」


「悠さんは何も格好悪くないです。二年前も今も、私にとって悠さんはずっと格好いいヒーローです」


「俺はそんな......ヒーローじゃないよ」


「だって二年前、私のためにエルフの里まで来てくれたじゃないですか。それだけで充分私にはヒーローですよ」


「あの時はただ必死に動いただけだよ。それにクルルだって本当は迷惑だったんじゃないか?」


「迷惑? どうしてですか?」


「だって、アスタールさんから聞いたけど、本当だったらもっと早くに自分の世界に戻らないといけなかったんだろ? それを俺が引き止めてしまったんじゃないかって思ってさ」


「それは......」


「それにずっと引っ掛かっていたことがあったんだよ。それも聞いていいか?」


 俺は足を止めてクルルを真っ直ぐに見つめる。


「私にずっと聞きたかったこと、ですか?」


「クルルはどうして、この街にわざわざ引っ越してきたんだ?」


 今までは疑問に思うこともなかった事だったけど、アスタールから話を聞いてその疑問は生まれた。


「それはどういう意味ですか?」


「そのままの意味だよ。ここで一人暮らしをしていたらアスタールさんに見つかる可能性が高くなるはずなのに、どうしてわざわざこの場所に引っ越してきたのか気になっていたんだ。少なくとも何かキッカケがなければこんな場所に引っ越さないと思うんだよ」


 異世界に来た理由は知っている。でもどうして彼女はお義母さんから離れてまで、こんな地を選んで引っ越してきたのか、何か意味があるのか考えてしまった。


「......その理由、悠さんは心当たりはないんですか?」


「俺? そんなの」


 心当たりなんてあるわけがない、そう言いかけたとき、俺は口を止めてしまった。


(何だ?)


 一瞬だけ感じた今の違和感は。


「く、クルル、今の言葉はどういう」


「自分の頭でよーく考えてくださいね。近いうち答え合わせをしますから」


 答えを探っている間にいつの間にか自分達のアパートに到着してしまう。それは時間切れを示していた。


「悠さんが何て言おうと、私にとってはヒーローです。その言葉の意味をちゃんと考えれば答えが出ますから、頑張ってください」


 頭を悩ます俺を置いてクルルが先にアパートの中に入っていく。俺は彼女を呼び止めることもできず、取り残されてしまった。


(何か......俺は忘れているのか? いや、そんなわけ)


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