#51 再会の春
新年最初の更新です!
2025年もよろしくお願いします
あれから二年の月日が経ち、俺は高校を卒業して、大学生になった。
(もう桜の季節か......)
クルルには一度も見せることができなかった桜。彼女が帰ってきたら見せたいと思っているのだが、果たしてそれもいつになるのだろうか。
「おはよう、悠」
大学への通学中の電車内。今日は偶々奈緒と同じ車両に乗り合わせる。
「一週間ぶりか。啓介は元気か?」
「ようやく仕事に慣れてきたって感じね。まさか就職するって言い出したときは驚いたけど、ちゃんと仕事はできているみたい」
「一年経てば慣れてくるよな」
高校を卒業した俺達は、奈緒、雛、俺は別々の大学に。啓介は就職の道を選んだ。高校生までずっと一緒だったからか、会えない日が増えてくると時々寂しくもなる。
「悠は大丈夫なの?」
「何が?」
「あれから二年経って、本当は辛いんじゃないかって思って」
「辛いと言えば辛いけど。でも俺も約束したからな、いつまでも待つって」
「珍しく男らしいこと言うわね」
「珍しくは余計だって」
そこまで話したところで俺が降りる駅に到着してしまう。
「じゃあまた」
「無理だけはしないでよね」
「分かっているよ」
奈緒と別れ、俺は駅に降り立つ。
「無理をしてでも俺はクルルを待つしかないんだけどな。奈緒」
最後に彼女には聞こえないようにそう言葉をもらし、そのまま大学に向かうのだった。
2
翌日は講義もなかったので、丸一日休日だった。特に課題も出されていなかったので、俺はゲームをやったりして趣味の時間だけを過ごしていた。
(高校生の頃は誰かしらいたから、やっぱり寂しく感じるな)
それぞれが自分の道を歩き始めた今、一人になる時間も増えた。空いてしまった穴を無意識で感じているのか、俺は物足りない時間だけを過ごしていた。
大学に友達が居ないわけでもないし、一緒に出掛けたりもするが、やはり足りていないものが一つ、ピースが埋まっていない。
(クルル、俺はやっぱりお前に会いたい)
言葉に出さずとも俺は願ってしまう。二年という時間はあまりにも長すぎて、もう会えないのではとすら思ってしまう。
その不安は時間が経てば経つほど大きくなって、同時に会いたい気持ちもどんどん大きくなる。
ピンポーン
そんな時ふと家のチャイムが鳴った。啓介辺りが家に来たのかと思い、俺は重い腰を上げる。
(余計な心配させたかな、これは)
昨日の奈緒とのやりとりを思い出し、少し苦笑いしながら俺は玄関に向かう。
「今開けるから待ってろ」
俺はドアノブを回して、家の扉を開いた。
ーそこに待っていたのは、
「初めまして。昨日お隣に引っ越してきたので挨拶に来ました」
二年前と同じ光景で。
「クルルと言います」
でもあの時とは違って、しっかりとした言葉で、俺の目を真っ直ぐに見つめている。
「クル......ル?」
ワンピースを着たエルフの女の子だった。
「ただいま帰りました、悠さん」
「本当にクルルなのか?」
「はい、クルルですよ。やっと約束を果たせました」
「っ!」
俺は耐えきれずにクルルを抱き締めていた。
「ゆ、悠さん?!」
「遅いよ、クルル。どれだけ俺は待ったと思っているんだよ」
「ごめんなさい......やらなければならないことが沢山あったんです」
「あれから二年、俺達高校も卒業しちゃったんだ。本当はクルルも一緒に卒業したかったんだ」
「私も......あの場所にもう一度だけ帰りたかったです。私にとって沢山思い出を作ってくれたあの場所に」
俺達は外にも関わらず言葉を交わし続ける。今は恥ずかしい気持ちよりも、彼女に伝えたいって気持ちの方が強い。
「もう、離さない。絶対に」
「私も......離れたくありません。悠さんと、皆とこの世界で一緒に過ごしたい」
二年という時間はあまりにも長すぎたけど、抱き締めた彼女の身体はあの時よりも一回り成長していて、俺達が大人の階段を上った何よりの証拠だった。
(そういえばまだこの言葉を贈っていなかったな)
「クルル」
「はい」
「おかえり」
「はいっ! ただいま、悠さん」
3
これ以上玄関前で何かをやるのは目立つということで、クルルを俺の部屋に招き入れた。
「悠さんの部屋は相変わらずなんですね。もう少し変わっていると思っていました」
「余計なお世話だ。別に一人暮らしなんだし、いいだろ?」
「でも......今後はそうも言っていられないですよ?」
クルルは何か意味有り気な視線を俺に向けながら、怪しく微笑む。
「ど、どういう意味だよそれ」
「それはまた追々、ということで楽しみにしていてください」
そこまで言われるとすごく気になるのだが、クルルはこれ以上話す気はないらしく、別の話を振ってくる。
「それより、奈緒達は元気にしていますか?」
「ああ、元気だよ。高校を卒業してそれぞれの進路に進んだから毎日会うことは難しくなっているけど、一ヶ月に一度くらいは会っている」
「じゃあその内会えますかね」
「ああ、会えるよ。後で連絡入れておく」
俺はクルルに麦茶を渡して、彼女の隣に座る。
「本当に二年、経ってしまったんですね。あれから」
「今更実感したのか?」
「お義母さんに言われたときも驚きましたが、悠さんの話を聞いて改めて実感させられました」
「スーノさんにも会ったのか?」
「はい。扉を開けるのはこちらの世界ではお義母さんだけですから」
「あれから会ってないんだよなスーノさんに。今度会いに行くか」
「それがいいかもしれないですね。お義母さんも喜ぶと思います」
会話がなかなか続かず部屋に沈黙が流れる。本当は沢山話したいこと、聞きたいことがあるのにうまく言葉が出てこない。
(駄目だ、頭の中が真っ白で何も浮かばない)
二年前よりも明らかに成長しているクルルに、見惚れてしまっている自分がここにいる。来年には俺も成人になるし、どうしても意識してしまう部分もあるが、クルルはそれを受け入れてくれるだろうか。
「どうかしましたか? 悠さん」
ついついクルルに見入ってしまっていた俺を、クルルは不思議そうにこちらを見てくる。
「わ、悪い。クルルが、その、可愛くなったなって」
「か、可愛い、ですか?」
「ああ。すごく可愛い」
口に出すと止まらないクルルへの言葉。
「可愛くてもっと抱き締めたいし、その、もっと色々なことをしたい」
「色々なこと?」
「た、例えば、その」
慣れない言葉に俺は少しだけ言い淀む。こういうところはやっぱり経験の浅さが出ていて、クルルを困惑させるだけになってしまう。
「悠さんなら、私、いいですよ?」
「え?」
「私は悠さんのお願いなら、何でも聞きますよ?」
「あっ」
わざわざ耳元で囁いてくるクルルに、俺は耐えられず、またしても彼女の身体を抱き締めていた。
「ごめんクルル。こんなに近くにいたら、我慢できない」
「我慢しないで?」
何かが俺の中でプツントキレる音がした。




