#47 世界を飛び越え君の元へ 前編
俺はスーノさんに連絡を取り、翌日4人でクルルがかつて過ごしていた家に向かった。
「いらっしゃい。遠くからわざわざご苦労様」
「こちらこそ大人数で突然押しかける形になってしまい、すいません」
スーノさんは俺の突然の電話に驚いた様子はなかった。アスタールはスーノさんのところにも挨拶に行ったらしいので、こうなることはおおよ予想していたのかもしれない。
「話はアスタールさんから聞いたのかしら」
「断片的にですが。クルルは......本当に、エルフ族の長になるんですか?」
「ええ、そうよ。クロサキさん達にはそうは見えなかったかもしれないけど、クルルはねああ見えてすごい大事な使命を持ってこの世界に来ていたのよ」
「大事な使命? 私達には一度もそんな話をしては」
「しなかったのではなく、できなかったの。それが誓約であって、破ってはいけない掟。いくら仲良くなってもそれだけは話すことができないの」
いくら辛くて一人で戦っていても、超えてはいけない一線は守り続けた、ということがクルルのやってきたことの一つだったらしい。
「それでも一人で頑張り続けたのか、クルルちゃんは」
「それがエルフ族のトップになるということなの。どんなに辛くて悲しくても、それが試練だと言い聞かせて自分の中の甘えと戦う、それが上に立つ資格があるということ。そしてクルルはそれをやり遂げた」
まるで自分事のようにスーノさんは語る。クルルのお義母さんであり続けた彼女にも、何か事情があるのかもと思ったところで、スーノさんは言葉を続ける。
「そこまで覚悟を持って今日まで生きていた彼女を、崩せる覚悟は貴方にはあるの? クロサキユウ」
おっとりした口調が突然真面目な口調に変わって、俺は鳥肌が立つのを感じる。スーノさんは目を離さず俺の目を真っ直ぐに見つめ続けた。
「俺は」
それを含めて彼女というエルフを背負えるだろうか。この先はただ好きという気持ちだけでは越えられない大きな壁の数々が立ち塞がっている。
ーその壁を俺は越えられるのか?
ー越えられる覚悟はあるのか?
俺の答えは、もう決まっている。
「それでも俺は、クルルに会いたい。会って話がしたい。それでもクルルが自分の世界に残りたいというなら受け入れる。けど、俺はこのままクルルとの関係を終わらせること何てできない」
そんな壁はぶっ壊して彼女に会いたい。四年前にできなかったことを、俺は今やってみせたい。
「悠......」
「ったく、昨日まであんな顔していた人間とは思えないな」
「やっと悠ちゃんらしくなったね」
俺の言葉に三人はそれぞれそんな言葉を漏らす。少しだけ恥ずかしい気持ちにはなるが、俺は座っていた椅子から立ち上がり、そしてスーノさんに頭を深々と下げた。
「だからどうかお願いします。俺に......彼女に会わせてください。一度だけでいい、クルルが住む世界に行かせてください」
「私達からもお願いします。私の大切な友達に会わせてください」
「「お願いします!!」」
それに合わせて奈緒達も頭を下げてくれた。改めて一緒にいてくれた彼女達に、心の中で感謝をしながら俺は頭を下げ続けた。
「こんなに愛されちゃって。羨ましいわね、クルルは。でもそれだけのことをしないと、掟は変えられないのかもしれないわね」
「スーノさん......」
「二日間」
「え?」
「クロサキさん達に与えられる時間は二日間。それ以外は貴方達の身体のことも考えてあの場所にいさせることはできない。その間にクルルに会って、言葉を交わしてきなさい」
「スーノさん、ありがとうございます!」
2
向こうの世界への扉を開くためには準備が必要ということで、この日は俺達は一度家に帰ることにし、異世界へ向かうための準備をした。
「と言っても具体的にどんな準備をするんだ?」
帰り道そう言い出した啓介に、誰もが答えを持っていない。
「ただの旅行とは訳が違うんだよな」
「うん。そもそも私達、どういう場所に行くの? 気候は?」
「寒いとか暖かいとか分からないよね」
「そういえばクルルが、エルフは寒いも暑いも気にならないみたいなことを言っていたな。あとあくまで本の世界での話だけど、エルフって大体森の中で暮らしているイメージだったりするけど」
「そうだ! 俺も確かにそんなイメージだ!」
「なら私達が向かうのは」
「森の中?」
俺達がこれから向かおうとしているのは未知の世界。それ故にどんな対策を取るべきか悩んでいると、スーノさんからメッセージが届いた。
『伝え忘れていたけど、向こうに行ったら向こうの服装に着替えてもらうから、あまり荷物を持ち込まない方がいいかも。ここの物は向こうの世界にとっては全てが異物みたいなものだから。なるべく気をつけてね』
「ということ、らしい」
「向こうの服装ってどんなの着させられるんだろう」
「クルルちゃんも最初からこっちの服を着ていたから、想像できないよな」
「可愛い服だといいなぁ」
啓介達が未知の世界に心躍らせる中で、俺は少し気になるがあった。
(俺達自身が異物みたいなもの、なんだよな)
スーノさんは持ち込み品のことを言っているけど、それは俺達人間に対しても共通する。
(アスタールが醸し出していた雰囲気のエルフが、多いって考えた方がいいよな)
クルルやスーノさんが特別なだけで、覚悟して向かわなければと思いながら、俺はいよいよ異世界への出発の朝を迎える。




