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隣人のエルフちゃん  作者: りょう
クルル編① エルフの少女と男子高校生
45/56

#44 生き続ける意味

「く、クルル、本当に熱とかないんだよな? 正常なんだよな?」


「おかしなこと聞きますね、クロサキさん。私だってたまには大胆なことをしますよ?」


「大胆すぎるんだよ!」


 別の人格に移り変わったのではと思ってしまうくらい、大胆すぎるクルルの行動に俺はとにかく戸惑う。


「そんなに......私と一緒は嫌でしたか?」


「ち、ちがっ、そうじゃなくてだな」


 大胆のくせに突然悲しい顔をされると、俺の良心が痛む。


(何が、クルルをここまで動かしているんだ)


 そんなに重大な話をしていたのだろうか。あのエルフと。彼女の性格がこんなにも大きく変化するほど、とても大事な話を。


「とにかくクロサキさんには拒否権がありません! お隣失礼します」


「ちょっ、おまっ」


 クルルは有無を言わさず俺の隣に入ってくる。ただでさえ狭いお風呂だというのに、二人分となっては窮屈以外に何物でもなかった。


「ふぅ、気持ちいいです」


「ふぅ、じゃなくてさ。ほんとうにどうしたんだよ、クルル」


「どうもしていないですよ? 私はいつも通りですよ」


「いつも通りなわけないだろ? 一度もこんなことが無かったじゃないか」


「私はいつでもできるんですよ。こういうこと」


 クルルはそう言うと俺の腕を掴んできた。


(もう、駄目だ。限界だ、俺の理性が持たないっ!?)


 服を着ててもやばいことを、裸でされたらもうダメだ。


「クルル!」


 俺は彼女を勢い余って抱きしめてしまった。


「く、く、クロサキさん?」


 今度はクルルが驚く番だ。


「クルル、頼むから何かあったなら俺に教えてくれ。俺の理性が壊れる前に」


「何も、なかったですよ。本当に」


「本当に何もなかったなら、どうしてこんなにもお前は震えているんだよ」


「それはクロサキさんが抱き締めているからで」


「違うだろ? 公園にいたときからずっと身体が震えていたの分かっているんだよ。だからどうか答えてくれ」


「......」


 俺は優しく彼女を抱き締めるが、それでもクルルは何も答えてくれなかった。


 2

 風呂から出た後は、クルルも大人しくなってしまい、俺のシャツを着ていたがさっきみたいな行動を取ることはなかった。


「そろそろ寝ようか、クルル」


「はい......」


 もうこれ以上は話せることはないと思い、俺達は一つのベッドで眠ることになった。


「ごめんなさいクロサキさん。今夜ぐらいはこうさせてください」


 さっきとは違って、クルルはいつもと変わらず落ち着いた口調で二人で寝るには狭いベッドに入ってきた。


 俺はクルルに背を向けて、クルルは俺の背中を見つめる形で。


「少しは落ち着いたのか?」


「クロサキさんが言っていたように、私は少しおかしかったのかもしれません。今日は色々なことが多すぎて、私の中がおかしくなっていたのかもしれないです」


「色々なこと、か。半分俺のせいだよな、ごめん」


「謝らないでください。それに私がどうにかしないといけない問題なのでこれは」


「......今になっても教えてくれないのか?」


「ごめんなさい」


 クルルは頑固なのか、やっぱり大事なことを話してくれない。昔の自分を見ているようで、俺は何とかしてあげたいって思ってしまう。


「......奈緒から話は聞いたと思うんだけどさ、栞の一件があって俺は最近まで生きた心地のしない抜け殻みたいな生き方をしていたんだ」


「知っています」


「栞はもう二度と目を覚まさない、それは俺のせいなんだって。栞は目を覚まさない、なのに俺は生き続けていいのかって。でもある日を境に俺は頑張って生きてもいいんじゃないかって、その理由を見つけたんだ」


 クルルにずっと伝えたかった言葉が次々と出てくる。


(男なら、ここで引くなんて格好悪いだろ俺)


 クルルに気持ちを伝えるなら、今しかない。俺は意を決して言葉を続けた。


「夏に俺はある女の子に出会ったんだ。夏休みが終わりそうになったある日、突然隣に引っ越してきた女の子に」


「それって」


「その女の子はいつも元気で、まだ日本に......地球に来て短いのに、言葉もしっかりしていて。本当は大変なことだって沢山あったのに弱音も一度も吐かなくて強い女の子なんだ」


「クロサキさんが思っているほど、その女の子は強くないです」


「常に謙遜なところも追加、だな。とにかく俺はそんな女の子に出会えて、少しでも生きる意味を見つけたんだ。だから俺は......その女の子に感謝している」


「感謝しないといけないのは......私の方なのに」


 俺は大きく深呼吸して、身体をクルルに向ける。


「クロサキさん?」


「俺はその女の子と一緒に過ごしていくうちに、感謝の気持ちが少しずつ好きって気持ちに変化していたんだ。最初はそんなこと自覚していなかったけど、最近になってようやく俺はその気持ちに気付いた」


「す、好き?」


「ああ。俺はその女の子が......クルル、お前のことが好きなんだ。多分初めて出会ったあの日から」


 俺はクルルの目を見て、そして自分の気持ちをようやく告げた。クルルはその言葉を聞いて、すごい驚いた顔をしたけど、すぐに泣きそうな表情に変わった。


「クロサキ......さん。私は......」


「すぐに返事はいらない。でもこれだけは伝わせてくれ。俺はクルルのことが好きだ」


 3

 答えを、出せなかった。


 クロサキさんが私を好きだって言ってくれたのに、それがすごく嬉しいはずなのに、私はその気持ちに答えられなかった。


(クロサキさんは私に出会ったおかげで変わったって言っていましたけど、それは私もなんですよ)


 私に背中を向けて寝息を立てているクロサキさんを、私はぎゅうって抱き締める。


「暖かい......」


 つい声が出てしまう。


「私も好きです、クロサキさん。......でも、この気持ちを伝えることはきっともうないと思います」


 私は彼が眠っていることを信じて、小さな声でさっきの告白の返事をする。


「クロサキさんはきっと、こんな勝手な私を怒ると思います。奈緒も、啓介さんも、雛も。皆怒ると思います。だから今のうちに言っておきます、ごめんなさい」


 私は皆に大事なことを隠したままだった。話さないとって思っても、どういう反応をされるかが怖くて。もしかしたら日常が壊れてしまうかもしれない、そう考えると本当のことを話すことはできなかった。


「クロサキさんは私のことを強い子だと言ってくれました。でも本当の私は、臆病で、いつも笑って誤魔化しているとっても悪いエルフなんです。だから」


 ーだから私は、嘘つきな私は......。


「クロサキさん、ありがとう。私を好きって言ってくれて。そして......さようなら

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