#43 お泊まり再び
クルルともう一人のエルフは、何やら口論をしているようだった。俺は声をかけるべきか悩んでいると、もう一人のエルフがクルルの元から去り、こっちに歩いてきた。
「失礼」
俺とすれ違いはしたが、向こうは何も気にした様子もなく公園から去っていく。どうやら俺がクルルの知り合いということは知らない様子だった。
「あっ、クロサキさん......」
その代わりにクルルが俺に気づいて声をかけてくるが、明らかにいつもの様子とは違かった。
「クルル、今のは」
「何も......聞かないでください。それより私に話があるって言っていましたけど、どういうお話でしょうか?」
「いや......」
どう考えても今から告白できるような雰囲気ではない。むしろ何を話してもクルルはちゃんと聞ける状態ではないし、ちゃんとした答えが返ってくるような気もしない。
(困ったな......奈緒にあんなこと言った手前、今日中に話をしたかったんだけど)
「とりあえず家に帰ろうか、クルル」
「はい......」
とりあえずこのまま外にいても寒いだけなので、一度俺はクルルを連れて家に帰ることにした。
「あれがクロサキユウか。とても危険な人物だ。クルルには早く帰ってきてもらわないと」
2
家に帰った後もクルルはずっと同じ調子だったので、話を切り出すのはとてもじゃないけど難しかった。
「なあ、クルル」
「......」
「悪い、何でもない」
よほどさっき会っていたエルフが、クルルにはよほどショックなことだったのか、会話すらできない。
でもこのまま家に帰してしまうと、クルルに何か起きてしまいそうなそんな予感がして、彼女を一人にもできない。
(本当にどうしたらいいんだ、これ)
とりあえず今日はクルルには泊まってもらって、明日改めて話を聞くしかないと思った。
「とりあえず今日は疲れたし、お風呂入って寝ようか」
「え? でも私......」
「クルルの事情は無理に聞かないよ。話したくないこともあるだろうし。でも今日は家に帰しちゃいけない、そんな予感がするんだ」
「私、そんなことは」
「それにそんなに身体が震えているのに、無視できない」
「本当......クロサキさんは優しすぎます......」
「俺は自分がしたいと思っていることだけをしているだけだよ」
俺からしてみればクルルの方が優しすぎるのだが、本人は気づいていないので口にはしない。
「そういえば服はどうする? 今から部屋から取ってくるか?」
「いえ......が着たいです」
服は取りに帰りたいと言うと思ったが、クルルは何故かモニョモニョ何かを言っている。
「何か言ったか?」
「今日くらいは......最後の思い出のためにも......クロサキさんの服を着てみたいです」
「へ?」
クルルから返ってきた言葉が、あまりに予想外で変な声を出してしまった。
「クロサキさん。私、その、彼シャツというのを......着てみたいです......」
目を潤ませながら突然そんなことを言い出したクルルに、俺は熱でもあるのかと疑ってしまった。
「しょ、正気か? クルル。もしかしてこの前みたいに熱があるのか?」
「ま、真面目に話しています! 今日は......その、クロサキさんに甘えたいんです」
ヤバイ......クルルがおかしくなってしまった。
3
クルルのお願いを無下にすることもできないので、彼女のお願いを聞いてあげることにした。
つまりクルルが俺の制服(冬服)を着るわけだが、
「どう、ですか? 似合っているでしょうか」
その破壊力はラノベとかで読んだことがあるようなものの、何十倍も破壊力があった。
「クロサキさん?」
その破壊力を前にして、俺はクルルを直視なんてできるはずがなかった。
「わ、悪い。そ、その、ちょっと破壊力が」
「はかいりょく?」
「い、いや、気にしないでくれ。それより、寒くないのか?」
「はい。エルフはこういう寒暖差には強いんですよ?」
「そ、そうか」
(鼻血ものだぞ、これ)
お父さん、お母さん、俺は今日死んでしまうかもしれません。
「とりあえず俺もお風呂に入ってくるから、ちょっと待っていてくれないか?」
「はい。待っていますね」
俺は自分の理性を保つためにも、逃げるようにお風呂に入った。
「ふぅ......参ったな、これ」
湯船に浸かりながら、言葉が漏れる。まさかクルルが急に甘えん坊に変わって、自分の理性が追いつかない。
(何がきっかけあったとしたら、さっきの出来事が間違いなくそうだよな)
クルルも知ってか知らないか、さっきとても気になる発言をしていた。それよりも彼シャツの方が破壊力が高すぎて聞きそびれてしまった。
(最後の思い出って、どういう意味だよクルル)
それだとまるでもうすぐお別れしないといけないみたいじゃないか。
(この気持ちも伝えられていないのに、別れなんて嫌だぞ俺)
いや、そもそもお別れなんて望んでいない。
「クロサキさん、入りますよ?」
色々考え事をしながら浸かっていると、風呂場の外からクルルの声が聞こえる。
「え、は? ちょっと?」
俺が制止する間もなく、クルルは当然のように風呂場に入ってきた。勿論裸で。
「く、く、クルル?!」
「もう少し湯船に浸かりたくて一緒に入りに来ました」
今日のクルル、おかしい。おかしすぎる。




