#42 あの日の答え
病院からの帰り道。俺は話せるのは今しかないと思い、奈緒を呼び止めた。
「悪いな、奈緒。こんな顔の俺と二人きりなんて嫌だろ?」
つい数十分前まで泣きじゃくっていた俺の目はまだぐしゃぐしゃなのは分かっている(顔は一度洗った)が、昨日そのままにしてしまった話をこのままにしておけなかった。
「別に構わない。私はああいう悠を見れただけで満足だから」
「恥ずかしくなるようなことを言うなよ」
会話が続かない。自分から呼び出しておいて、肝心の会話を切り出せない。
(何やっているんだ俺、早く切り出さないと)
「ねえ、悠」
そんな風に俺がモタモタしていると、遂には奈緒の方から話を切り出されてしまった。
「悠はどうして今日、一人で栞に会いに行ったの?」
「どうしてって、それは......自分の気持ちにしっかりケリをつけたかったんだよ」
「その割には号泣していたけど?」
「それは......恥ずかしいところを見せたよ」
「別に構わないよ。あんな悠を見たのは久しぶりだし」
「だから恥ずかしいからやめてくれって」
「冗談はここまでにしておくけど、本当にそれが悠の本音でいいのよね?」
「本音? 当たり前だけど」
そうでなければ栞に会いに行くという決断はしなかった。勿論完全に吹っ切れているわけではないけど、彼女に会いに行けたのは、ほんの少しだけ前に進めた証拠だと思っている。
「なら、答えを聞かせてほしい」
「答え?」
「五年前、ちゃんと聞けなかった答え、それ以外にないでしょ?」
(やっぱりそうなる、よな)
俺が少し遠回しにクルルのことを好きだって言おうと思っていたのに、奈緒の方から答えを求められてしまった。
(逃げるな、そういうことか)
俺は昨日啓介に手助けを求めたのだが、こう断られてしまった。
『お前が始めた物語なんだろ、悠。ここで他人の力を借りるな。お前自身が姉ちゃんに答えを出してくれ』
そう言っておきながら奈緒とここまで一緒に来た辺り、啓介なりのパスを出してくれたということだ。
(あの時は逃げた答えを、今出すしかないんだな)
「今から話すことは俺の今の本心だ。だから奈緒も、受け止めてほしい」
「うん」
心臓の音がさっきからうるさい。これは緊張から来ているもので、クルルにたいして感じている者とは違うものだ。
(正直すぎるな、俺の心は)
一つ大きく深呼吸した後、俺は奈緒と真っ直ぐに向き合った。
「俺は......クルルが好きなんだ。半年前に出会ったあの時から。啓介が言っていた一目惚れなのかはともかく、俺はクルルのことが好きなんだ」
俺の言葉を奈緒は黙って聞いてくれている。それに心の奥で感謝しながら、言葉を続けた。
「だから奈緒、五年前の告白の返事をさせてくれ。俺は......奈緒の気持ちには答えられない」
2
「はぁ、本当に遅すぎるのよ。......悠の馬鹿」
答えなんか分かっていたのに、私は本当に少しだけ期待していた。
ーもしかしたら悠は私を選んでくれるって
本当に小さい希望だったかもしれないけど、その希望が叶えばいいって私は望んだ。
ーそれが叶わなかっただけの話
そう、それだけの話なんだ。
(こうなることだって、普段の悠を見れば分かり切っていたはず。だから覚悟だって決まっていたはず、なのにどうして)
どうして私は......。
「悠、私」
「ありがとう、奈緒。そして、ごめん」
「謝らないでよ。私を振ったんだから、潔く行きなさいよ」
「でも、お前」
「今は一人にさせて。後でちゃんと帰るから」
「......分かった」
悠は私を置いて帰ってくれる。今一人にさせてもらわないと、情けない顔を見せてしまいそうで嫌だった。
(おかしいな。泣かないつもりだったのに、何でこんなに涙が出てくるの?)
勝手に期待していたのは自分なのに、勝手に待ち続けたのは私なのに。
(こんなに涙が止まらないのか、分からないよ......)
一人残った私は、ただただ泣き続けた。
3
奈緒に言われたとはいえ、置いてきたことが心配だった俺は、一度啓介に連絡を入れて、その後のことは弟に任せた。
『分かった。こっちのことは任せておいてくれ』
「ありがとう、啓介」
『なあ、悠』
「ん?」
『姉ちゃんは......いや、何でもない。とにかく、こっちは任せてちゃんとやってこいよ』
「ああ」
俺はそのまま家へ帰宅する。既にクルルが帰宅していることは啓介の話で分かっている。
(ここからが本番だよな)
俺は今から告白をする。クルルに好きだって。その想いが届くかは分からないけど、それでも俺はこの気持ちをクルルに伝えたい。
(そういえばクルルの家に直接行くのは今日が初めてか)
やっぱり緊張してくる。俺は一呼吸を入れた後に、家のチャイムを鳴らした。
「......あれ?」
すぐに出てくると思いきや、五分待っても出てこない。ドアノブを回してみるが、鍵が掛かっていた。
「おかしいな。確か駅前で別れたって言っていたのに」
一人でどこかに寄り道するような性格ではないし、約束を反故するような子でもない。
(何だ、この胸のザワつきは)
嫌な予感がした俺は、急いで来た道を戻っていった。
(クルルっ、どこへ行ったんだ)
どこかへ消えてしまったのか、そう思ったがクルルの姿は家から五分くらいの近くの公園にあった。
「クルル、よかった、こんなところに」
彼女の姿を見つけて、声をかけようとしたが、俺は止めてしまう。
ーよく見るとクルルは誰かと一緒にいた
(あれは......エルフ?)
4
啓介さん達と駅の前でお別れした後、私は真っ直ぐに家に帰った。
(クロサキさんと奈緒はどんな話をしたんですかね。私にも話があるって言っていましたけど)
私は少しだけ胸を躍らせて帰宅すると、私の家の前に誰かがいた。
「お、お父さん?!」
そして私はその人、エルフに見覚えがあった。
「こんな時間までどこに出掛けていたんだ?」
「そ、そんなの私の勝手でしょ? そもそも一人暮らしをしているんだから」
「なるほど、一人暮らしをしていたら何でも許されるんだな」
「そ、そこまで言ってないけど、どうしてここに」
動揺を隠せない私に、お父さんはこう告げる。
「お前には今すぐ一人暮らしを、いや、この世界での暮らしを辞めて元の世界に帰ってもらう」




