#4 エルフちゃんの印象
クルルを見送った後戻ると、三人が悠を見ていた。
「な、なんだよ三人して」
「なあ悠、これからお前はどうすんだ?」
「どうするって何が」
「だって俺達一週間後には学校が始まるんだぞ? その間はどうするのかって話」
「そういえばそうだったな」
「中途半端なことだけは私許さないわよ。ちゃんと面倒見るなら責任を持って」
「分かってるよ」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だって」
そう返事しながら自分の席に戻る。悠は宿題の三分の二は既に終了し、あとは一夜漬けすれば終わるところまで進めていた。
啓介と奈緒も同様なのだが、この集まりで一番の問題児なのは雛。
「ねえ悠、ここ分からない」
「ここさっきも教えただろ。なんで覚えてないんだよ」
「奈緒ぉ、悠が意地悪する」
「いやいい加減覚えなさいよ。雛」
雛の成績は決して悪いわけではない。しかし毎度その場しのぎのところが多く、こうして改めて教え直さなければならないところが多い上に、一瞬で忘れてしまう。
おまけに宿題を溜め込むタイプなので、毎度困らされている。
(本当よく四人で同じ高校に通えたよな)
中学校まで一緒なら分かるが、流石に高校までこの四人で通えるとは思っていなかった。一人暮らしになった悠にとって三人の存在はとても大きいのだが、いつか離れなければならないと考えると少し心細くもなる。
「で、実際のところどうなんだよ、悠」
「何がだよ」
「クルルちゃんの事に決まってんだろ。あんな可愛い子だったらお前だって」
「いい加減なこと言うのやめろ!」
「痛ぁ!」
不意打ちでまたクルルの話題を出され、思わず啓介の背中を叩いてしまう。
照れ隠しとか決してそういうわけじゃない。断じて照れ隠しととかでは……。
「でもいい子だよねクルルちゃん。見た目はまだ幼いのにしっかりしてるし」
「あれくらいの態度、ウチの弟にも見習ってほしいわね」
「何で俺が見習わなきゃいけないんだよ?!」
「弟想いの姉からの願いよ」
「どの辺が弟想いなんだよ。むしろ奴隷としか……痛い! 頭割れるから!」
啓介の言葉に対して返事としてヘッドロックをかます奈緒。
「私、啓介のことちゃんと思ってるわよね?」
「は、はい。す、すごく弟想いの姉です」
「相変わらずの上下関係……」
「本当双子とは思えないくらい、上下関係がハッキリしているよね」
啓介と奈緒の姉弟関係は決して悪いわけではない。ただ力の差が激しい。奈緒の相変わらずの恐怖政治っぷりに、悠と雛は苦笑いを浮かべる。
「話逸れちゃったけど、私クルルちゃんとならもっと仲良くなれると思うんだ」
「雛の性格なら誰とでも仲良くなれるんじゃないか」
「そんな事ないよ。私だって友達は選ぶし」
「そうなのか?」
「当たり前でしょ。クルルちゃんだって、この子なら友達になっても大丈夫だって思って沢山話したんだもん」
雛にとってクルルはどうやら好印象だったらしい。それは悠も同じでまだ悠達とのコミュニケーションに戸惑いはあったものの、拒否するわけでもなくむしろ自分から話していこうという姿勢が見られた。
「でもあの子、まだ私達に遠慮してた。別に私はあの子がエルフだろうがなんだろうが、友達になりたいっていうなら拒否はしないわよ」
「相変わらずのツンデレだな、奈緒は」
「な、つ、ツンデレなわけないでしょ! 気に入った人にしか心を開かないだけで」
「それをツンデレって言うんだよ」
「っぅう!」
反論できずに唸る奈緒。彼女も弟や悠には厳しいが、友達想いのすごくいい子なのは悠が一番知っている。そのツンデレ成分も、ツンよりデレ成分の方が多めだし、それを指摘されて恥ずかしがる様子も可愛げがある。
「……悠、お前もそろそろ気がついてやれよな」
「何が?」
「分からなきゃいいよ」
この後悠達は雑談を混ぜながらも宿題を進め、何とか夜が明ける前には全員が宿題を終えることができた。
「もう無理……寝かせて」
「よく頑張ったよ雛」
日が昇るとともに力尽きたように眠る雛達三人。それに対して悠は眠らずに外へ出た。
(少し眠気覚ましに散歩でもするか)
まだ夏なこともあり、朝日が昇るのも早く、マンションの外に出た時には眩しい日差しが悠の顔を照らした。朝日の眩しさに目を瞑ると、後ろから声をかけられる。
「く、クロサキサン」
声をかけてきたのはクルルだった。時間はまだ朝の五時過ぎ。偶然会うには早すぎる時間だった。お互いに「おはよう」と挨拶を交わすと、クルルが隣にやってきた。
「朝早いんだな」
「はい。早起きの川流れって言いますし」
「早起きは三文の徳な。ことわざと混ざってるぞ……ふわぁ」
大きなあくびをしながら悠はツッコミを入れる。朝日を浴びたせいか、眠気が一気にやってきて、このまま眠ってしまいそうだった。
「あのクロサキサン……」
「ん?」
「今から散歩しませんか? 朝の風景も見てみたいです」
「散歩? 別に構わないけど」
「あ、ありがとうございます!」
満面の笑みになったクルルを見て、悠の眠気は一気に覚めた。