#34 聖夜の幻想曲 クルル編②
約束のクリスマスまで残り三日。
「へえ、悠とクリスマスにデートに行くんだー」
クリスマスというものを具体的に知らない私には、誰かにアドバイスを聞きたくて、雛さんの家に遊びに来ていました。
「本当なら奈緒にもアドバイスをもらいたかったのですが、今は頼れるのは雛さんしかいなくて、ごめんなさい」
「いいのいいの。私もクルルちゃんと二人で遊んでみたかったから。それにね、奈緒ちゃんも誘っても、きっと大丈夫だったと思うんだ」
「どうしてですか? 私はきっと奈緒のことを傷つけて」
「誰がいつ傷ついたの? クルル」
その言葉と一緒に雛さんの部屋の扉が開かれ、奈緒が入ってきてしまいました。
「な、奈緒?! どうしてここにいるんですか?」
「そんなの決まっているよ。私が呼んだんだから」
「雛さんっ!」
あまり嬉しくないサプライズに、私は思わず怒ってしまいました。
(部活ならともかく、それ以外で直接会って話すなんて私はまだそんな度胸ないのに)
あれから部活で顔を合わせてはいましたが、クリスマスの件で話をするのはこの日が初めてでした。
「だから、クルルは何を言っているの? 私は傷ついていたりしないし、クルルを嫌いになってもいない」
「でも、私は」
「それにクルルは勘違いしているみたいだけど、私は何も諦めていない。クリスマスは譲っただけ」
「譲った......だけ?」
「そう、譲っただけ。私の戦いは何も終わっていない」
「奈緒......」
私は思わず泣きそうになってしまいましたが、奈緒の言う通りだと思い、泣くのはやめました。
(気が早すぎますよね、ちょっと浮かれすぎていました)
「それにクルルは悠のことを好きとかそういう感情があるわけではないでしょ?」
「えっと、好きという感情がなんなのか分かりません」
クロサキさんと一緒に話したり同じ時間を過ごすことは楽しいですが、私にはその気持ちが奈緒の言っている“好き”というものなのかは分かりません。
(たまに胸がズキリと痛む事もありますが、それがどういうものなのか、私には分かりません)
「私はいつか悠に自分の気持ちを届けたいって思っている。今まではずっと隠してきたけれど、クルル、貴女が来てからそうも言えなくなった」
「私が来たから?」
奈緒が何を言っているのかは分かりませんでした。私がこの場所に引っ越してきたのは偶然ですし、クロサキさんとは勿論初対面。
「悠も人のことを言えないけど、クルルちゃんも大概だよね奈緒ちゃん」
「見ているこっちは焦れったいけど、私には好都合かな」
雛さんと奈緒が何かを話していますが、私には理解できなかったのでそのままスルーして、二人に今日の目的を話しました。
「私、服について今日まで勉強はしてきたのですが、自分だけではどうしても限界が来てしまったんです。だから雛さんにアドバイスをもらおうと思ったんです。どうかお二人の力を貸してください、お願いします」
2
クリスマスまで残り二日。悠はスマホを使って、当日のプランを一人考えていた。
(クルルは東京に行ってみたいって言っていたから、川口駅から京浜東北線に乗って東京駅へ向かうのが一番か)
悠も東京には産まれて数回行ったことがあるくらいの知識しかないので、プランを考えるのにも一苦労だった。
(啓介に聞いてみるのもアリだけど、あいつも俺と一緒だよな)
知り合い全員が地元から出たことがないようなものなので、頼れる人がおらず悠はため息をつく。
(あと二日。明日はクリスマスイブだし、そっちはそっちで忙しいんだよな)
クリスマスはクルルと二人で出掛けるが、イブは奈緒達も集めて五人でクリスマスパーティーを開くことになっている。
本当だったら奈緒と会うのも気まずいので、避けようかとも思ったが自分だけ不参加なんて言えるはずもなかった。
(意識しすぎなのも分かっているけどこのままじゃ男らしくないよな俺)
自分が選んだ道を引き返すなんて格好悪い真似だけはしないためにも、悠の苦悩は続いた。
ーそして翌日
「お邪魔します」
「邪魔するわ」
「おっす、元気にしてたか悠」
「悠、元気にしてたー?」
終業式以来初めて五人が悠の家に集合して、クリスマスパーティーが開催された。
「それでねクルルが、大事な場面で台詞を噛んだりして」
「それは秘密にするって約束だったじゃないですか、奈緒!」
「すごいねクルルちゃん。もう役者の練習始めたんだ」
「これは次の大会は期待できるかもな」
アパートの一室で行われたささやかなパーティーは大いに盛り上がり、楽しい時間だけが過ぎていった。
「っと、氷がいつの間にか切らしてたな。ちょっと買いに行ってくる」
その途中で氷が無くなっている事に気がついた悠は、腰を上げて一人で近くのコンビニに買い出しに向かおうとした。
「待って。私もついて行っていい?」
「え? あ、ああ」
そこについて行きたいと奈緒が言い出して、悠と奈緒の二人で近くのコンビニまで向かうことになった。
(気まずい......)
まさかここで奈緒の方から二人きりになることを望んでくるとは思っておらず、悠の足取りは少し重い。
それとは裏腹に、奈緒は何も気にしていないかの如く優々と歩いていた。
「奈緒、その、俺」
コンビニへ向かうまでの道は我慢できたが、帰り道ずっと黙っていた悠はつい口を開いてしまう。
「何? どうしたの?」
「明日の件は......悪かった」
一度言っておきたかった謝罪の言葉。けどそれを却って奈緒を傷つける言葉だなんて、
「何を謝るの?」
「え?」
「別に悠が選んだことだし、明日クルルと二人で出かける、ただそれだけの話でどうして謝るの?」
「だって」
「だって、何? 私がその程度で傷ついていると思っているの? それなら甘く見られているわね私も」
「違うのか?」
「大間違いよ。一昨日クルルにも宣言しちゃったけど、私は何一つ諦めていない。貴方に......悠に、私の気持ちに気づくまで絶対に」
「おい、それはどういう」
「自分で少しは考えなさいよ、馬鹿」
奈緒はそう言うと悠の手にあるコンビニ袋を取って先に帰ってしまう。残された悠は、その場に立ち尽くしたまま動けなかった。
(奈緒、なんでお前はそんなことを......)
涙を流しながら言えるんだよ。




