#33 聖夜の幻想曲 クルル編①
「クリスマスは俺と二人で過ごしてほしい」
悠の言葉にクルルは一瞬何を言われたのか分からず、目をぱちくりとしばらくさせてから、
「えぇぇ!?」
オーバーすぎるリアクションを取った。
「何で誘ってきた本人が驚いているんだよ」
「す、すいません。まさか本当にクロサキさんにそんなことを言われると思っていなかったので」
「俺ってどんなキャラに思われているんだよ」
反省するところはあるのは自覚している悠だが、クルルにそんな風に思われていたのは心外だった。
「でも......本当にいいんですか? 私なんかと」
「誘ったのはそっちなのに、今更どうしたんだよ」
「だって、その」
その先の言葉をクルルは言えずに口ごもる。何となくではあるが、クルルは彼女のことを心配してくれているのかもしれない。
「大丈夫、さっき連絡入れておいたから」
悠はそう言ってクルルの頭に手を置き撫でた。
「な、な、なっ」
すると突然クルルは顔を真っ赤にして、口をパクパクさせ始める。
「お、おい、どうしたんだよいきなり」
「クロサキさんの変態です!」
「はぁ!?」
頭を撫でただけで変態呼ばわりされて、悠も思わず変な声を出してしまう。
「わ、私の頭を、そ、その、撫でていいのは、私が許可した人だけです!」
「安易な行動だったのは謝るけど、何もそこまで言わなくてもいいだろ......」
まさかそこまで言われるとは思っていなかったので、悠は少しだけへこむ。
「と、とにかくクロサキさんはまだ許可を出してないので、お触り禁止です!」
「今まで何度かお触りしたような気がするんだけどなぁ」
「それはそれ、これはこれです」
「一緒だと思うんだけど」
「うぅっ......」
余程恥ずかしかったのか、クルルは顔を真っ赤にしたまま俯いている。
(クリスマスの話からまさかこんな展開になるとは)
明らかな拒絶反応だったので、悠もその先の言葉は出てこず、気まずい空気だけが部屋に流れ続けた。
そんな状態が続いて十分後
「ようやく、落ち着きました」
「とりあえずよかった」
落ち着きを取り戻したところを見計らって、改めてクルルにクリスマスの話をする。
「クロサキさんが私を選んでくれたのは嬉しいのですが......その、色々と大丈夫ですか? 啓介さんや、雛、奈緒に怒られるような気がします」
「怒られる可能性はあるけど、過去にも似たようなことがあったから、そこまで心配しなくて大丈夫だよ」
「似たようなこと?」
「あ、えっと」
栞との関係はクルルにまだ話をしていないので、悠はどう説明すればいいか悩む。
(今はまだ話せないし、とりあえず嘘を言っておくか)
「ほら、その、昔約束をすっぽかした事があったんだよ。その時はすごい怒られたんだけど、謝ったら許してくれたからさ」
「それならいいんですけど......」
それでも少しだけ元気のないクルルが気になりながらも、悠はクリスマスをクルルと一緒に過ごすことを決めたのだった。
2
クロサキさんと別れた私は、自分の部屋に戻っても顔の赤みが消えませんでした。
(不意打ちが過ぎますよクロサキさん......)
私は自分の頭を自分で触る。まだ少しだけ彼の温もりが残っているような、そんな錯覚を覚えました。
(何であんな反応をしてしまったんでしょうか、私)
あれは人間のスキンシップの一つということは私は理解していました。それなのに、
ー今までもクロサキさんが何度か私に触れたことがあったはずなのに
ー許可なんて必要ないのを分かっているはずなのに
何故かあの瞬間だけは恥ずかしさだけが増して、拒否をしてしまいました。
(こんな気持ちにさせられたのは、クロサキさんが初めてです。こんなに、こんなに恥ずかしくさせられたのは)
この気持ちが果たして恥ずかしいで合っているのかは分かりませんが、きっかけはきっとクリスマスの誘いをクロサキさんが受けてくれたから、だと思います。
ークロサキさんが幼馴染みよりも私を選んでくれたこと
その事が何よりも嬉しくて、でも少しだけ申し訳ないところもあって。色々な感情が私の中でぐちゃぐちゃになって、どう表現していいか分かりません。
(でも嬉しいのに、悲しいこともあるんですよクロサキさん)
クロサキさんはさっき一度だけ私に嘘をつきました。私には何か悟られまいと、思い出したくない何かを隠すように彼は堂々と私に嘘をつきました。
(苦しむだけなら、どうか私に話してほしいです。隠し事ばかりされると、私も悲しくなってしまいますから)
自分のことを棚に上げて言えることではないかもしれないですけど、どうかクロサキさんが私に心を許してくれた日にはー
(私もクロサキさんに話したいこと、話さなければならないことが沢山あるんです)
私は自分の胸に手を当てると、少しのドキドキ少しの痛みを感じました。
3
「姉ちゃん、夕飯が出来たからそろそろ部屋から出てきてくれ」
部屋の外から弟が私を呼ぶ声が聞こえる。けど私はそれには答えずに、黙って布団の中でうずくまっていた。
(悠は......幼馴染みよりもクルルを、エルフの彼女を選んだんだね)
こうなる結果は予想できていた。彼の心の変化は本人以外の全員が気づいていたし、それを見るたびに胸の奥がズキリと痛んだ。
(私はまた、負けたんだ)
一度目は栞に。二度目はクルルに。
「ねえ啓介」
「どうした姉ちゃん」
「失恋ってたとえ二回目でも辛いわね」
「......二回目じゃなくても、いつでも辛いよ」
「......そうね」
弟の言葉に私の頬には涙が流れ出した。




