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隣人のエルフちゃん  作者: りょう
出会い編 異世界からやって来た少女
32/56

#31 聖夜の幻想曲 序曲 前編

「くりすます? 何ですかそれは」


 12月半ば。今日も悠の家に入り浸っていたクルルが、テレビでやっていたクリスマス特集を見て不思議そうに首を傾げた。


「そうか、すっかり忘れていたけどもうすぐクリスマスか」


「何かのイベントなんですか?」


「イベントだな、一年に一度の。ほら、今テレビに映っているのが、クリスマスツリーって言って、クリスマスにはこういうのがそこら中で飾られていたりするんだ」


「ツリー......木ってこ事ですか?」


「正確にはもみの木って言う特別な木で、ここに飾り付けをしたりするんだ」


「すごい綺麗です......」


 テレビに映るクリスマスツリーを見ながらクルルはうっとりとしている。今見ているのは都内で点灯されているクリスマスイルミネーションで、悠の家の近くでは見られないものだ。


(こういうところに行くのは、大体カップルだよな)


 クリスマスデートは定番中の定番だ。クルルと出かけるとなればそういう意識もしてしまうかもしれないので、見に行かないかとは提案ができない。


(栞とは一度一緒に行ったことあるけど、あれも綺麗だったよな)


「クロサキさん、クロサキさん」


 一人で思い出に浸っていると、クルルに身体を揺さぶられ現実に戻される。視線を戻すとクルルが上目遣いで悠のことを見つめていた。


「ど、どうした?」


 変なことを考えていたせいで不意打ちを食らい、悠は舌を噛んでしまう。


「私、クロサキさんとクリスマスツリーを見に行ってみたいです」


「お、俺と? 皆とじゃないのか?」


「奈緒達とも見に行きたいです。ですが、二人きりでも行きたいです」


 急な誘いに悠の心臓の鼓動がより早くなる。思えば今見ているテレビは、『クリスマスに二人で過ごすデート特集』という内容で、クルルはそれに触発されて二人で行きたいと言いだしたと思われる。


(いくら何でもタイムリー過ぎるだろ)


 避けようとしていた事を直球で投げつけられて、悠はクルルの誘いにどう答えればいいか分からなかった。


 2

 クルルへの返事は一度保留にしてもらった悠は、翌日の学校で啓介にその事を相談した。


「年貢の納め時が来たんだな」


 自動販売機でホットココアを買いながら、啓介は一言そう切り捨てた。


「そんなこと言うなよぉ」


「いい加減自分の気持ちに素直になれよな。皆とっくにお前の気持ちに気づいているんだぞ」


「違うって言っているだろ!」


「ムキになればなるほど、分かりやすいぞお前」


 相談する相手を間違えたと悠は思いながら、ホットコーヒーを口にする。滅多にコーヒーなんて飲まないのに、今日はどうしてもブラックな気持ちになりたい日だった。


「姉ちゃんが聞いたら、悲しむだろうな......」


「何で奈緒の名前が出てくるんだよ」


「さあな、それはお前自身で気づけ」


 啓介が何を言いたいのか分からず、悠はそのまま黙って缶コーヒーを見つめ続ける。それを見て今度は啓介の方がため息を吐いた。


「本当昔から変わってないなお前は」


「なんだよ藪から棒に」


「もっと素直になれよって話。お前がどうしたいか一度ちゃんと考えるべきだよ」


「俺がどうしたいか、か......」


 昨日のクルルの顔を思い浮かべる。彼女は本気で自分のことを誘っていたのは悠にも伝わってきたし、自身もそれに答えるのもいいと思っている。


 ーでもそれは何を意味するのか


 それが分からないほど悠も馬鹿ではない。


「よく考えてから返事してやれよ。多分これから大変だろうから」


「大変? 何が?」


 その時啓介が言った言葉の意味を知ったのは、その日の放課後。


「相変わらず汚い部屋」


「開口一番酷いこと言うな」


 奈緒が何故か悠の家に遊びに来た。理由を聞いたが、何も答えてはくれず半ば強引にやって来た。


「この前は勝手に家に来たんだし、その埋め合わせくらいしてよ」


「いや、あれはどちらかというとクルルが」


「何か文句でも?」


「すいません」


 クルルを連れて行ったのは自分ではあるので、奈緒には逆らえず仕方なく奈緒を家に上げる事に。


(クルルですっかり慣れつつあるけど、普通じゃないんだよなこれって)


 いくら幼馴染みとはいえ、男女が二人きりになるという状況はドギマギしてしまう。


「ねえ悠。クルルと何かあったの?」


 少しだけ時間が経った後に、奈緒がそんなことを言い出す。啓介と話をしたばかりのせいで、悠は心臓が止まりそうな感覚を味わう。


「な、何がって何が?」


「質問を質問で返さないでよ。クルルの様子が少しおかしかったから、なにかあったのかって雛と話してたの」


「べ、別になにもない、です」


「敬語になっているわよ」


「き、気のせいだ」


 ジト目で奈緒に見つめられるが、何とか平静を保つ。


(勘がよすぎるだろ、奈緒も啓介も)


 この姉弟はつくづく悠の心を読んでは、的確に突いてくるから恐ろしい。


 「教えてくれないならいいけど。私が話をしたいのはそれじゃないし」


 「じゃあなんだよ」


 「もうすぐ12月25日でしょ?」


 「そうだな」


 「私と一緒に出かけない?」


 「別に構わな......は?」


 クリスマスという単語がなかったので、軽くスルーしかけたが、悠はそこまで言ってようやく気づく。


 「今なんて?」


 「今年のクリスマスは二人きりで出掛けないって誘っているんだけど?」


 「いや、え?」


 「私じゃ駄目なの? それとももう予定が入っていたりするの?」


 「そうじゃないけど」


(何が起きているんだ? 奈緒が俺を、何で?)


 啓介が言っていたこれからが大変、という意味はこの事だったらしい。


 「皆で過ごすとか、じゃなくてだよな?」


 「勿論。私は貴方一人を誘っているの、悠」

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