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隣人のエルフちゃん  作者: りょう
出会い編 異世界からやって来た少女
30/56

#29 エルフちゃんとコタツ

 奈緒の一件も無事落ち着きを取り戻し、季節も本格的に秋から冬へと移り変わり始めた頃ー


「クロサキさん、コタツというものはどういうものなのでしょうか?」


 悠の家にやって来たクルルが、開口一番そんなことを聞いてきた。最近よく二人で出かけている奈緒からそんな言葉を聞いて、気になったらしい。


「コタツかぁ。もうそんな時期か」


「奈緒は寒い日になるとコタツを用意して、そこで暖まりながらミカンやとしこしそば?を食べたりすると言っていました」


「年越しそばはともかく、ミカンを食べるイメージはあるかもな」


「私、コタツというものを体験してみたいです!」


「その願い、叶えてあげたいんだけど、難しいんだよな」


「どうしてですか?」


「この部屋、コタツを用意できる高さのテーブルがないから、ホットカーペットしかないんだ」


 悠の部屋にあるテーブルは足が高いもので、コタツを敷けるような足の短いテーブルがない。その代わりにホットカーペットとストーブで寒さを凌いでいるので、そもそもコタツセットがないのだ。


「そうなんですか、残念です......」


 悠の言葉を聞いて露骨にガッカリするクルルに自分の心も痛むのを感じる。


(何とか願い叶えてやれないかな)


 クルルの部屋に行って用意するのも、男子としては気が引けてしまうので何か別の方法を考えたときに、悠はあることを思いつく。


「そうだ、一つだけ方法がある」


「本当ですか?!」


「言い出しっぺの家なら、コタツがあるんじゃないか?」


「言い出しっぺ?」


 ー三十分後


「それで私の家に来たと」


「名案だろ?」


「いっぺん死んでみる?」


「悪かったから、その鋭利な何かを閉まってくれ!」


 悠とクルルは二人で奈緒(と啓介)の家にやって来た。彼らの家のテーブルの構造は知っていたので、きっとコタツが用意されていると確信していた。


「まあ、クルルにコタツの話をしたのは私だし、今日は啓介もいないから丁度暇していたから、別にいいんだけど」


「ありがとうございます、奈緒」


 余程コタツに触れられるのが嬉しいのか、クルルは満面の笑みで奈緒に感謝を述べる。


(そんなに喜ぶものではないと思うんだけどなぁ)


 コタツを知っている悠としては、クルルの過剰すぎる期待に逆に苦笑いを浮かべる。


(俺も異世界に行ったらこんな反応するのかな)


 ここまではしゃがないにしても、見るもの全てが真新しく感じるのかなと、クルルを見ていると思ってしまう。


「これがコタツなんですね!」


 悠がそんなことを考えているうちに、コタツのある部屋に案内されクルルはキラキラと目を輝かせている。


「クロサキさん、見てください! これがコタツ、コタツだそうです」


「ああ知っているよ」


「これもこの世界の文化なんですねぇ」


 そこにあるのは言わずもがな、誰もが知っているTHE コタツで、クルルと悠の反応には大きな温度差がある。

 彼女の反応を見ている分には二人とも飽きないのだが、話を振られるとどう反応すればいいか分からない。


「あの、それで一つ聞いていいですか?」


「ん? どうかしたか」


「コタツって何をする場所なんですか?」


 思わず二人はズッコケた。


 2

「はぁ、幸せです」


 コタツに入るなりクルルは顔を蕩けさせ、最大の幸せだと言わんばかりの声を発している。いつもピンと立っている耳がふにゃふにゃになっているくらいなので、余程気持ちいいのだろう。


「外国人が日本の文化に触れる時ってこんな感じなのかしら」


「それは俺も思った」


 一つのコタツに悠、奈緒、クルルの三人でぬくぬくしている時間はとても平和な時間だ。最初は文句を言っていた奈緒も、今は一緒にこの時間を楽しんでいる。


「コタツにみかんって、まさしく冬って感じだな」


「もう十一月なんだから当たり前でしょ。クリスマスも正月もあっという間に来てしまうわ」


「時間が過ぎるの早すぎだよな。主に夏休み後半辺りから」


「色々起きすぎたから、ね。主にクルルのことでだけど」


 二人でクルルを見ると、心地よすぎたのかコタツに入ったまま寝息を立てていた。それを見て思わず二人で吹き出してしまう。


「本当にすごい子ね。たった一人で異世界にやって来て、本当だったら色々不安なはずなのに、そんな様子を一度も見せなくて」


「かといって無理をしているわけではないんだよな。多分素でこうなんだと思う」


「知った風なことを言うわね。それぐらい好きってことなのかしら」


「奈緒まで俺をからかうなよ。そんなんじゃないって言っているだろ?」


「ならこの前どうしてクルルの妖精の衣装に興奮していたのかしら」


「なっ、ば、馬鹿なことを言うなよ」


 思わぬ所から矢が飛んできて悠は思わず飲んでいたお茶を吹き出してしまう。


「その反応がもう図星ってことでしょ?」


「やめろ!」


「静かに。クルルを起こしてしまうでしょ」


「誰のせいだと」


 テーブルを拭きながら悠はクルルを見る。確かにあの時クルルのことを可愛いと思ったし、それを伝えようともしてしまった。

 だが啓介にも指摘されたときにも言ったように、その感情が好きという気持ちに繋がるとは限らない。


「俺は別にクルルに対して、そんな感情を抱いてないよ」


「いい加減こっちも頑なの貴方を見るのも飽きたんだけど」


「頑なってお前なー」


「私は、私達はいい加減乗り越えなさいって言っているのよ」


「っ!」


 からかいから急に真面目なトーンになる奈緒に、悠は奥歯を噛み締める。


「言われなくてもとっくに乗り越えてるよ」


「ならどうして、悠は何も分かってくれないの? いつも平気な顔をしている貴方が、本当はボロボロなことを私達が心配しているのを。いい加減分かってよ!」


「知ったことを言うなよ」


「知っているから言っているの! 私達は幼馴染なんだから、貴方の気持ち誰よりも理解していることくらい分かるでしょ?」


「それは......」


 悠は何も言い返せない。奈緒が言っていることは正論だし、理解している。理解しているからこそ、彼の心は抉られる。


「もういい、帰るよ」


 だからこの場から逃げ出してしまおうと、コタツから出てまた逃げだそうとした。


 ー逃げてしまえば辛い現実を蓋して目を背けられると思ったから


「逃げちゃ駄目」


 でもその彼を後ろから優しく包み込んでくる影があった。


 「私達から、私から逃げないでよ悠......」


「奈緒......」

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