#28 奈緒とエルフちゃんと演劇
「ねえクルル、貴女演劇部に興味ない?」
奈緒さんが私を誘ってくれたのは、文化祭が終わって色々なことが落ち着いた後の事でした。
「えんげきぶですか?」
「ええ。エルフのクルルなら舞台映えするかもしれないって」
「ぶたい? ばえ?」
「そこから説明しないと駄目だったわね。なら、明日の放課後時間ある?」
「大丈夫ですよ。クロサキさんも誘いますか?」
「いえ、貴女だけでいい。クルルだけに見せたいものがあるから」
「見せたいもの、ですか」
奈緒に誘われて翌日に私がやって来たのは、トウキョウという場所にある二階建ての大きな建物でした。奈緒はその場所を『ゲキジョウ』と私に説明してくれました。
「演劇は基本的にこういう場所で見るものの事を言うの。他にもオペラとか色々あるけれど、私達がやっている演劇というのはこの中にある舞台でお客さんの前でやる見せ物、そう思ってほしい」
「知らない言葉ばかりです」
「知らなくても大丈夫。実際のものを見れば分かるし、私が沢山教えてあげるから」
「それなら......お願いします」
いつもよりグイグイくる奈緒に私は苦笑いしながらも、お言葉に甘えて二人で初めての演劇を見ることになりました。
そしてそれから二時間。私は夢のような世界を見ることになりました。
奈緒達と同じ人間が私のような違う種族(の雰囲気)の衣装を纏って、時に笑い時に泣き。一つの物語を演じていました。
(これが演劇......私がまだ知らない世界)
私にとって初めての世界は、私自身の心を奪うには十分過ぎて、奈緒がどうして私をここに誘ったのか何となく分かったような気がしました。
「どうだった? 初めて見た演劇は」
約二時間の体験が終わった後、興奮冷めやらぬまま私は奈緒の家に招かれました。
「最高でした。演劇ってあんなにもワクワクするものなんですね」
「今日のはジャルンがコメディだったから面白い場面が多かったけど、もっと他にもジャンルがあるからまた違った感想を持てるかも」
「他のジャンル......すごく気になります!」
そこで私は奈緒と今日見た演劇の感想を語り合い、ここがよかったとか悪かったとか沢山語り合いました。
(これがこの世界で言う“友達”、なんでしょうか)
「ふふっ」
ふと奈緒が私を見て笑ったので、私が不思議そうに「どうかしたんですか?」と尋ねると、奈緒はこう答えました。
「ごめん、クルルを誘ってやっぱり正解だったなって」
「そうですか?」
「だってこんなにも楽しそうに語り合える友達、初めてだったから。クルルは気づいていないかもしれないけど、見る前と後で表情がすごい変化してる」
「そ、そんなにですか?」
自分の顔の変化なんて分からないので、思わず顔が熱くなって手で押さえてしまいました。それを見て奈緒はまた笑い、本当に嬉しそうにこう言葉を付け加えました。
「クルルが舞台に立つの、楽しみになってきた」
2
「奈緒は私にとってとても大切な友達であり、私に演劇を教えてくれた先生です。それだけの人なんです。だから、そんなこと言わないでください、悲しくなります」
クルルは目に涙を溜めながら奈緒に訴えた。今まで見せたことがなかった彼女の表情に、その場にいる全員が驚きつつも、彼女の言葉に続く。
「クルルの言う通りだ奈緒。部外者の俺が言うのもあれかもしれないけど、全てが終わったわけではないんだろ? なら、あの日を乗り越えて一年後にリベンジすればいいじゃないか」
「そうだよ。奈緒ちゃんが一番頑張ってきたのは誰よりも私達が分かっているし、これからだって応援している。もう一度ゼロからやり直そう?」
「悠、雛......私......本当にやり直せるかな」
「やり直せるさ。それに今日この場所に俺達を呼び出して、衣装にまで着替えたのはまだ諦められない証拠だろ?」
やり直したい気持ちの表れがそれだと悠は分かっていた。そうでなければ、わざわざここに呼び出す理由もないし、謝罪だけなら別の場所だってできる。
彼女がここを選んだのは何よりの証拠だと思ったのだが、
「これは、その......」
奈緒は何故か少し顔を赤くしてモジモジしている。思っていた反応と違った悠は、不思議そうに奈緒を見つめるが答えは返ってこない。
「あれ、俺何か間違ったこと言ったか?」
「な、なにも違くない! そ、そ、その通りよ。ゆ、ゆ、悠が言った通りこんなので諦められないんだから。ぜ、絶対来年はやり直してみせるんだから!」
普段のクールさはどこへ行ったのか、奈緒は顔を真っ赤にして練習場を出て行く。
(な、何だったんだ一体)
悠はそう思いながらポカーンとしていると、他の三人がヒソヒソ話を始めた。
「やっぱりそうだったんだねー奈緒ちゃん」
「姉ちゃんってああ見えて大胆なところがあるからさ。あの衣装見たときは驚いたけど、今になって納得した」
「奈緒はなにかあったんですか?」
「クルルちゃんもその内分かると思うよ」
色々聞こえてはくるが悠は全て聞かなかったことにした。




