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隣人のエルフちゃん  作者: りょう
出会い編 異世界からやって来た少女
28/56

#27 エルフちゃんの叫び

 大会から二日後の休日。


 悠と雛、そして啓介の三人は何故か演劇部の練習場に呼ばれていた。


「啓介、奈緒はあれから大丈夫か?」


「ああ。しばらくは塞ぎ込んでいたけど、立ち直ったみたいだ。今日呼んだのだって姉ちゃんなんだから」


「そうなの?」


「ああ。姉ちゃんがどうしても俺達に来てほしいって。迷惑かけたからだって」


「迷惑だなんて、誰も思っていないけどな」


 今日は部活は休みらしく、練習場には悠達以外の姿はない。三人だけが練習場にある椅子に座らされ、呼び出した本人がやって来るのを待っていた。


 ー待つこと十分


「お待たせしました、クロサキさん」


 練習場に姿を現したのは奈緒ではなくクルルだった。やって来た彼女の姿を見て、悠達は少し驚く。


「クルル、その格好は?」


「これですか? これは二日前にやる予定だった演劇の衣装です」


 クルルはくるりと一回転しながら笑顔で答える。


「似合っていますか?」


 クルルが着ていた衣装は、まるで妖精をイメージさせるような緑を基調とした、ワンピースだった。

 エルフが妖精というのは繋がりはないかもしれないが、悠の目に映る彼女はとても華麗で、少しでも手を触れれば消えてしまうような、そんな本物の妖精を彷彿とさせる姿だった。


「似合っているよ、クルルちゃん」


「すごい可愛い!」


「ありがとうございます!」


 見惚れて声が出せない悠とは違って、雛も啓介もそれぞれが感想を漏らす。


(俺も何か言わないと)


 そう思っても、言葉が出てこない悠にクルルは少しだけ不安そうに見つめる。


「もしかして......似合いませんでしたか?」


 少し泣き出してしまいそうなそんな声に悠はハッと我に返り、彼女を見ながら何とか口を開いた。


「すごく、似合っているよクルル」


 少し照れくさそうに悠は言うと、目をそらしてしまった。


「ありがとう、ございます」


 それに対してクルルも、雛達の時とは違って頬を少し赤くしながら答えた。


(可愛い、なんてこんなところで言えるわけないよな)


 男として決められなかった自分に少し後悔しながらも、悠は話を変える。


「そ、そういえば、どうしてクルルだけなんだ? 奈緒はどうしたんだ」


「奈緒さんはまだ準備をしているので、もう少しだけ待ってください」


「準備って?」


「それは後でのお楽しみ、です!」


 悪戯っぽく片目を瞑ってみせるクルルに、やはり悠はドギマギしてしまう。衣装も相まって、彼女の仕草一つ一つが彼の心を大きく揺さぶった。


(ただの衣装なのに、変な気持ちにさせられるな本当に)


「お待たせしました、三人とも」


 そうこうしている間に、呼び出した本人の奈緒が少しだけ不機嫌そうに練習場に入ってくる。


「遅かったじゃないか、ねえちゃっ、なぁっ!」


 入ってきた彼女を見て、次は啓介が変な声を出す。


「何をそんなに驚いてるの? たかが演劇の衣装なのに」


「そのたかがが、アウトなんだよ!?」


 啓介の動揺に、奈緒は疑問を浮かべている。実の姉に対しての反応とはとても思えないが、悠でさえも、少しだけドキッとしてしまったのでまあ仕方のないことだろう。


(まるで一足先のハロウィンだな、これは)


 黒い羽の生えた悪魔、一言で言えばサキュバスの格好をさも当然のように着こなしている彼女を見て、悠はため息をつく。


「あの、どうしてお二人とも、あんな顔をしているのでしょうか」


「クルルちゃんは知らない方がいいと思う! あんな変態二人の事なんて」


「へんたい?」


「変な言葉を教えるな!」


2

 ひと騒ぎはあったものの、奈緒は気を取り直してクルルを含めて見回すと、全員に向けて頭を下げてきた。


「みんな、今回のことはほんとうに申し訳なかった。私のためにわざわざ観に来てくれたのに、私は......何も乗り越えられていなかった」


 突然の謝罪に四人は目を丸くして、少し驚く。普段はそんな態度を見せない彼女が、頭を下げる姿を見るのはその場にいる誰もが見るのは初めてだった。


 ーそれは実の弟である啓介でさえもだ


 「姉ちゃんが謝る事なんてない。色々あったことは誰よりも弟の俺が知っているし、誰よりも苦しんでいたことも知っている」


 「俺も啓介と同意見だ。人のことを言える立場じゃないし、奈緒の事情は理解している」


 「そうだよ奈緒ちゃん。むしろ何も気づけなかった私も謝らないと駄目だよ、ごめんなさい!」


 「悠、啓介、雛......」


 幼馴染でも全てを理解しているわけではないが、三人ともそれぞれ奈緒の事は理解しているつもりだった。


 ー演劇のこと、先輩とのこと。そして舞台を作る人間という立場のこと


 普段はクールな彼女が、どれだけ悩んで苦しんでいることは誰よりも近くにいた悠達が理解していた。


 「私も、一緒です、奈緒さん」


 「クルルまで......」


 「大会のことは残念でしたけど、それでも私は奈緒さんと演劇を作れたことが何より嬉しかったんです」


 「でも私はそれを壊してしまったのよ?

 舞台監督としても、人としても失格だよ 」


 「そんなこと」


 奈緒の言葉にクルルは一度言葉を詰まらせるが、彼女は叫んだ。


 「そんなことありません!」


 妖精を纏ったエルフの少女は、心から叫んだ。


 「クルル?」


 彼女の叫びにその場にいる全員が驚かされた。そんな悠達を無視してクルルは言葉を続ける。


 「奈緒さん......奈緒は途中で入部してきた私に一から全部教えてくれて、優しくしてくれました。そんな奈緒は私にとって間違いなく憧れなんです。そんな人が人間失格なんて、そんなことはありません!」


 「こんな私を憧れなんて」


 「そんな奈緒だからこそ私は憧れているんです。なのに、そんな卑下するような言葉は言わないでください」


 涙を流しながら叫ぶ妖精は、誰よりも人間のことを思い、誰よりも人間に憧れ、誰よりも人を愛していた。

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