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隣人のエルフちゃん  作者: りょう
出会い編 異世界からやって来た少女
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#25 奈緒の目標

 文化祭が終わり忙しかった9月も終わりが近づいたある日の休日。

 クルルは悠の部屋で休日の時間を過ごしていた。


 文化祭の一件やその後の事も含めて色々あった為か、以前にも増してクルルが悠の部屋で過ごすことが多くなり、悠もすっかりそれに慣れていた。


 勿論当初の目的でもある料理などのレクチャーも忘れていない。


 しかし最近はその目的よりも単純に悠の部屋に入り浸りたいらしく、教えている時間よりも雑談している時間の方が長くなりつつあった。


「それでクルル、部活は決まったのか?」


「いえ、それがまだ......」


 そんな雑談の中で話題に上がったのが、未だにクルルが悩み続けている部活の事だった。

 転入当初はすぐに文化祭がやって来たこともありゆっくり考える時間もなかったのだが、色々落ち着いてきた今、最終的にどの部活に腰を据えるかクルルは苦悩していたのだった。


「別に無理して入る必要は無いんだぞ? 俺だって無所属なんだし」


「それもいいかもしれませんけど、ナオさんやサクラギさんの誘いを無下にすることはできませんし......」


「それはまあ、そうかもしれないけど。そこまで悩む必要はないんじゃないのか?」


「だってどちらかを選ぶと言うことはどちらかを捨てることになるんですよ?」


「それが部活なんだから仕方ないだろ」


 散々奈緒の勧誘を断り続けている悠としては、彼女がどうしてそこまで悩むのか分からなかった。今の言い分からしてクルルが考えているのは、やりたいことが分からないのではなく、奈緒か雛のどちらかを傷つけるのではという余計な心配事だろう。


 悠は気にするなと何度も言っているが、クルルとしてはそうはいかないらしい。


(いつまでもこんなやり取りしてると奈緒達に怒られそうだし、少しだけ助け船を出すか)


 悠はやれやれと溜め息をつきながらクルルに向き合う。


「なあクルル、お前自身は何がやりたいんだ?」


「え?」


「前々からずっと雛がとか奈緒がとか言っているけど、クルル自身は何がやりたいんだ?」


「そ、それは......」


「本当はもう決まっているんだろ? 自分がやりたいこと」


「ど、どうしてそんなことが......」


「ただ雛からも熱心に誘われていたから、断りづらくて困ってるんだろ?」


「な、何でそこでサクラギさんの名前が」


「だってクルルはやりたいんだろ? 演劇」


 演劇部の見学、そして先日の二人で見に行ったとき舞台の時から悠は確信していた。クルルの答えは既に決まっているのだと。


(散々勧誘受けていながら断り続けてる俺とは大違いだよな、本当)


「......」


「沈黙は肯定と取っていいんだな?」


「気づいていて黙っていたんですね? クロサキさんは意地悪です」


「俺はクルルが自分で決めるまで黙っていただけなんだが」


「それでも意地悪です!」


 頬を膨らませてそっぽを向くクルル。そんな彼女を可愛らしく思いながらも悠は話を続ける。


「とにかく周りの事とか気にせず、自分が決めたことをやればいいんじゃないのか?」


「本当にそれでいいんですか?」


「ああ。雛だってどれを咎めたりはしないよ。幼馴染の俺や奈緒達が保証する。それにクルルだって分かってるだろ? 雛はそんなことしないって」


「はい」


「なら決定だな。明日入部届け出そう」


「あ、明日ですか?」


「演劇部は今大会控えていて、そろそろギスギスしだすからな。その前に済ませたほうが奈緒だって助かるだろうし」


「わ、分かりました」


 悠の言葉のままにクルルは戸惑いながらも頷く。しかし戸惑いながらもその顔は少しだけ嬉しそうだった。


(これで一件落着、かな)


 そして翌日の放課後、予定通りクルルは演劇部に入部届けを出して、晴れて彼女は演劇部の一員になったのだった。


 ■□■□■□■□

 それから更に二週間の時が経ち10月上旬。


「クロサキさんに皆さん、見に来てくれたんですね!」


「約束だからな」


「行かないと姉ちゃんに何されるか分かったもんじゃないし」


「クルルちゃんの初舞台、見に行かないわけないでしょ」


 奈緒達演劇部は年に一度行われる大会の当日を迎えた。

 丁度大会の日が休日だったこともあり、演劇部ではない悠達三人は彼女達の応援にやって来ていた。

 奈緒達の公演はまだ二時間後ということもあり、緊張をほぐすという意味で悠達いつもの五人で会場の外で軽い雑談をしていた。


「は、初舞台だなんて私は裏方ですよ?」


「それでも初舞台は初舞台でしょ? 楽しみにしてるね!」


「さ、サクラギさん......」


「ちょっと雛、うちの部員を困らせないでくれる?」


「困らせてなんかいないよ! クルルちゃんの緊張を解こうと思っての事だもん」


「それ逆にプレッシャー与えてるわよ?」


 奈緒はすっかり慣れているからかいつも通りの様子。しかし今日全てが初めてのクルルが極度に緊張しているのは悠からも見てとれた。


 ちなみにクルルが言った裏方というのは、主に音響や照明舞台監督といった、舞台に立つ役者を支える重要な役目の事を指している。


 演劇は何も表に立つ役者が全てではない。場面場面に合った音楽を流したり、雰囲気を作るための明かりや大道具、小道具それら全てが一つになって演劇というものが完成する。それらを考える役目を担うのが舞台監督の仕事でもあり、役者とそれを両方こなしているのが奈緒で、彼女のすごいところでもある。


 けどそれは却って悠にとっては不安要素だった。


「それより啓介、さっきの言葉はどういう意味? もしかして本当は来たくなかったとか言わないわよね?」


「そ、そ、そんなわけないだろ」


「ならどういうわけよ」


「そ、それは......」


 クルルとは対照的にいつものように会話をしている奈緒。いつも通りという意味ではリラックスしているのかもしれないが、奈緒の少し体が震えていることに悠は気づいていた。


(それを表に出さないのが奈緒らしいというか......)


 そのらしさが悠を心配させる。きっとここで彼女の緊張を解いてあげるのは幼馴染としての役目でもあるかもしれないが......。


(けど俺にできることはあるのか? もうすぐ本番なのに......)


「なあ奈緒」


「何? 悠」


「いや、何でもない」


 悩んでいても仕方ないと奈緒の名前を呼んでみるものの、悠はそれ以上の言葉が浮かんでこず結局彼女の緊張を解いてあげることはできなかった。


 そして時間はあっという間に過ぎ、出番の一時間前。


「じゃあ私達そろそろ集中に入るから」


「頑張ってこいよ二人とも」


「クルルちゃんも奈緒も頑張ってね!」


「は、はい。私精一杯頑張ってきます」


「本番緊張して失敗なんてするなよ姉ちゃん」


「あんたに言われなくても失敗なんてしないわよ」


 悠達は自分達の控え室に戻っていった二人を見送り、自分達も公演を見るために会場の中へと入った。


「演劇部の大会ってマイナーのように見えて、相変わらずお客さんとか多いよな」


「市民会館のホールを貸しきるくらいだし、興味ある人は多いんだろ」


「市内の高校の演劇部が全員集まってるからね」


 演劇部の大会なんて大した物ではないと思われることは多いが、大会の会場はちゃんとした市内の市民会館の大ホールを貸しきって行われている。その上ちゃんと全国大会まで行われているので、彼らも運動部と同様に部員達はしっかりとした目標をもって日々活動している。


 その気持ちは当然ながら奈緒にもあり、


『奈緒はこの演劇部で最終的にどこを目指しているんだ?』


 悠は以前同じようなことを奈緒に聞いたことがある。それに対しての奈緒の答えはこうだった。


『そんなの勿論全国大会よ。地区予選でも県大会に上がれるのは一校のみの狭き門だから、簡単な話じゃないけど』


『そういう目標があるのって、やっぱり運動部とほぼ変わらないんだな』


『当たり前じゃない。運動部と文化部って区別されがちだけど、文化部にも私達のように大きな目標を持っている部活だってあるんだから』


『そうだな。悪い、無神経だった』


『べ、別に怒ってないわよ』


 今日の大会はその目標達成の第一歩であり、失敗が許されないはずだ。


「なあ啓介、奈緒は大丈夫なのか?」


 そう考えれば考えるほど不安が広がった悠は、隣の席の啓介に小声で尋ねる。


「気づいてたのか?」


「ああ。本人は隠していたけど、明らかにいつもと様子が違った」


「昨日から、いやもう少し前から姉ちゃんはあんな状態だったんだよ。多分一年生の時と違って舞台監督も任されたプレッシャーとかがあるんだと思う」


「そうだよな......でも、今更どうにかなんてできないし奈緒を信じて待つしか」


「ないな」


 本番まで時間がないため舞台の成功を祈るしかないと決めた悠と啓介。

 しかしそんな祈りは本番直前に客席に慌ててやって来たクルルによって打ち砕かれることになる。


「た、大変ですクロサキさん! な、奈緒さんが......」

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