#23 エルフちゃんと面影
朝食の後。まだ熱が下がらないこともあり、悠は薬を飲んで夕方になるまで眠っていた。その間に一度家へと帰ったクルルは、先ほどの自分の発言を思い出し一人悶えていた。
「何であんな事を私は……」
最近ずっと調子がおかしかった。
彼が義母さんに初めて会った日から、ずっと心がモヤモヤしていて、それが何なのか分からなかった。
そして分からないまま迎えた文化祭。
熱を出した自分を彼は助けてくれた。きっと彼が昨日迎えに来てくれなければ後悔をすることになっていた。
だから彼には感謝しかない。
けどさっきの言葉はその感謝から来たものでは無かった。もっと別の何かが、クルル自身を大きく動かしている。
思い当たるのはあの言葉。
『なんかいいな、こういうの』
彼にとって何気ない一言だったのかもしれない。けどそれが自分の心を大きく突き動かした。
そして思ってしまったのだ。
自分が彼のために何かすることが、自分にとっていいことなんだと。
(この感情は一体何なんでしょうか……私はクロサキさんに今どんな感情を抱いて)
更に考えて悶えていると、ふと家のチャイムが鳴る。
(誰だろう……)
玄関の扉を開く。やって来たのは、
「やっほー、クルルちゃん」
「悠の体調はどう? あと貴女も大丈夫?」
雛と奈緒だった。
■□■□■□
「じゃあ今悠は寝てるの?」
「はい。ご飯と薬を飲んだらぐっすりと」
「それならすぐに治りそうね」
「そうだといいんですけど。はい、どうぞ、お茶をお持ちしました」
二人にお茶を出し、クルルも向かい合うように椅子に座る。こうして三人だけで揃って話をするのは、文化祭一週間前のあの日以来だった。
「このお茶クルルちゃんが入れたの?」
「はい。もしかしてお口に会いませんでしたか?」
「違う違う、お茶の入れ方は誰に教えてもらったのかなって」
「それは勿論クロサキさ……」
悠の名前を口にしたところで、さっきの事を思い出し、クルルは思わず顔を赤くしてしまう。
「クルルちゃん、顔が赤いけどどうしたの?」
「クロサキさんが……クロ……サキさんが」
「悠が何かしたの?」
「な、何もしてません。どちらかと言うと私が言ってしまいました」
「どう言う事?」
「じ、実は」
クルルはこの三日間で二人の間にあった事を雛達に話した。そしてその中で、自分の心に変化が起き始めていることも。
「ふうん、それはまあまあ」
「面白くなってきたわね」
「に、ニヤニヤしながらこっち見ないでくださいよ」
話を聞いた二人はクルルをニヤニヤしながら見てくる。ただでさえ思い出すのが恥ずかしかったクルルは、更に顔を真っ赤にしながらそっぽを向いた。
「そっかぁ。悠も大人になったんだね奈緒」
「そうね。本当数ヶ月前までの悠までとは比べ物にならないくらい」
「そういえばずっと気になっていたんですけど、クロサキさんって私と出会う前までそんなに別人だったんですか?」
「別人ってほどじゃないんだけど、以前の悠だったらそんなこと絶対言わないと思う」
「うんうん。本当にそれ」
クルルの知らないところで納得し合う雛と奈緒。クルルは悠のことは又聞きしかしておらず、本人からも聞いたことがなかった。
「今までそこまで気にしてなかったことだったんですけど、サクラギさん達の話を聞いていると気になってしまったんです」
「まあ私達もしつこいくらい悠に話したからね」
「でもねクルルちゃん、それを私達の口から教えることはできないかな」
「ど、どうしてですか?」
「それはね……」
■□■□■□
夕方。
朝からずっと眠ってようやく目を覚ました悠は、何もせずずっと天井を眺めていた。
(久しぶりにこんなに寝たな……)
これまで体調を崩すことは何回かあったものの、ただひたすら眠っていたのは本当に久しぶりだった。
(もしかしたらあの日以来かもしれないな)
生きていく気力を失って、ただひたすらに惰眠を貪り続けたあの日々。昔の話ではない。少し前まで悠は、自分の生きていく道を見失っていた。
クルルと出会ったあの日だって……。
(まったく……よりによって嫌な事を思い出させるな……)
熱によって精神的に弱っているからか、封印していた記憶が蘇っていく。
『ごめんね悠ちゃん……私……もう生きていけない……』
『っ!』
フラッシュバックするあの日の光景。
忘れたい。
だけど忘れちゃいけない。
(忘れてたまるかよ……)
そんな時家の扉が開く音がする。
(クルルが戻ってきたのか?)
しばらく待っていると、その人物が姿をあらわす。
「何だ奈緒か……」
「クルルじゃなくて残念だった?」
「別に残念じゃないけどさ。何でお前がここにいるんだよ」
「頑張ってるクルルに会いにきたそのついでよ。雛も来てるわよ」
「俺はついでなのかよ」
「キッチン借りるわね」
悠の返事を待たずに台所へと入っていく奈緒。手にはスーパーの袋があったので、恐らく何かを作ってくれるためにやって来たのだろうけど、
「奈緒って料理できたっけ?」
「失礼ね。人並みにはできるわよ。それとも雛に作ってもらう?」
「それは勘弁してくれ」
そんな会話をしながら料理を始める奈緒。悠はそれをただボーッと眺めてる。
「なあ奈緒」
「何?」
「俺久しぶりに思い出したんだ。あの日のこと……」
「……そう」
「今思うと後悔しか残ってないんだ。あの日に止められなかったことも、その後の自分のことも」
「……」
「だからなのかもしれないな。俺がクルルを助けてあげたいと思ったのは」
「同情とかじゃないってこと?」
「同情のつもりは最初からなかったよ。ただ似てるんだ」
「似てる?」
「クルルと栞が」




